第四章 優花
そんなとき、一人の女性に出会った。
初めは彼氏であろう人とちょくちょく来てくれていたお客さんだった。
しかしばらくすると女性2人でくるようになった。
そんなある日もう一人の女性が
「若大将、実はこの子貴方のファンやねん」
「もう何ゆうのん」
と彼女が遮った
「ええやん、ずっというてたやん、
優しいし仕事は良くするし、料理も美味しいし
理想のタイプっていうてたやん」
「ははっ、からかわんとってください、
こんな美人さんで彼氏もいてはるのに。」
「もうそんなんいてないし」
と彼女が言った。
実は俺自身も前から気になっていたのだ。
名前は 優花 ゆうか
ピアノの先生で空き時間には楽器店でデモ演奏をしているらしい。
これはチャンスとばかりに早速デートの約束を交わした。
それまで付き合った女性とは違った。
美人ではあるが派手ではない。
話しをする時は相手の目をちゃんと見る。
笑う時は、少し目を細める
その笑顔がとてもチャーミングだった。
一緒にいると落ち着いた。
笑顔を見ると、なぜか胸の奥が温かくなった。
ある日彼女がつぶやいた
「一輝さん結婚したら奥さん店に出て欲しい?」
「まあ自分のしたいことがあるならしかたない
けど、そりゃやっぱり手伝って欲しいよなぁ、
店も増やしたいし」
「俺も迷ったけど、長男やし結局大阪に帰って
来たからなぁ。」
「ふーん長男って大変やね!」
「あと、占いで、わたし来年結婚したら幸せに
なれるねんて」
この人と結婚するのも悪くない。
彼女を幸せにしたい
そう思い早速いろいろと準備をしはじめた。
彼女の希望通り来年の2月に式を
挙げれるように。
親にも紹介して、
向こうの親にも挨拶にもいった。
ドンドンあらゆることを決めていった。
彼女の望みをかなえていると
おもいながら、、、
ところが、人生というものは不思議だ。
大切なものほど、手に入れたと思った瞬間に
雑に扱ってしまう。
俺は調子に乗った。
優花が自分から離れるはずがない。
そう思っていた。
電話を返さなかった。
約束を破った。
他の女性とも遊んだ。
そしてある日。
優花からの電話
「生理ないねん」
俺は笑った。
「またまた」
「ひょっとして子供ができたかも?」
「マジ?俺の子?」
沈黙がながれた
その言葉は別に彼女を疑うでもなんでも無く
驚きから咄嗟に出た言葉だった
「どういう事? 私を疑ってるん?
喜んでくれると思ったのに!」
その言葉を最後に、
彼女は電話にも出なくなった。
俺は追わなかった。
追わなくても、戻ってくると思っていた。
しかしなんの連絡も無かった。
いたたまれなくなり俺は手紙を書いた。
どうすれば自分の真意を伝えられるか何度も考え、書き直した、でも美辞麗句を並べたところでどう伝わるか不安に思ってしまった。
そして結局もう一度自分のことを見つめて欲しいという思いから1枚の便箋に手書きで
「ごめん、いろいろ迷惑かけて
もう一度最初からやりなおそう!」
と書き自ら彼女の家に届けた
そしてしばらくして優花から電話があり二人で会うことになった。
待ち合わせの喫茶店に着くと彼女はもう来ていた。約束の時間より30分も早かった。
俺は出会った時のようにもう一度やり直せると思っていた。
俺が席に着くと優花はカバンから見覚えのある小箱を取り出した。
「これお返しします」
それは婚約指輪だった。
「えっどういう事?」
「なんか、見てるものが違うねん。
毎日、あなたから電話かかってくるのをどんな想いで待っていたかわかる?
毎週いろんなところに連れていってくれたりしてたけど。別に高級なとこじゃ無くても二人でゆっくり話しできるところでいいねん。
結婚しても今の仕事続けても良いとか、
複数店舗あるから別々に商売するとか、
そんなんやないねん。
小さくてもわたしは女将さんとか言われて
一緒にお店やりたいねん。」
といろいろ自分の想いを打ち明けてくれた。
その頃は携帯も無い時代だった。
週に一度の逢瀬は離れて暮らして、
忙しい二人には時間が足りなかった。
そうか12時前まで、俺が仕事終わるまで毎日ずっと待っててくれたんか?
こんないい女に惚れられてるって有頂天になってたんか?
自分の想いばかりで相手の想いを受け止めてやれなかったんか?などと考えが巡り
「今日会いに行くっておばあちゃんにいうたら
絶対後悔するからやめときって言われた。」
と彼女が言った
その頃には
涙をこらえる事しかできなかった。
「じゃこれで帰ります」
「送るよ」
「いいえ、大丈夫 お母さんにも話しが済んだらタクシーで帰るように言われているの」
はっきりとした口調だった。
次の日めったに残らない俺が二日酔いだった。
優花を失った後、俺はしばらく誰とも付き合う気がしなかった。
なぜあの時もっと強く詫びなかったのか?
まだ間に合うのか?といろいろ考えが巡るが
日々の生活の忙しさに追われ半年が過ぎた。
そんなある日、優花と来ていた奈津美さんが
一人で店に訪れた。
「ねえ知ってる?優花結婚したよ!」
「えっ?」
俺と別れてまだ半年?そういえば占いで今年中に結婚すれば幸せになれるって言うてたけど!
俺は未練タラタラなのに割り切りが早いな。
と思った。
「なぁなんで別れたん?お似合いやったのに!
あの子もあんたの事めっちゃ好きやったのに
結婚するいうからあんたとすると思ったら、全然知らん人やからビックリしたわ!
何があったん?」
「全部俺が悪いねん、あの子を責めんとって!」
「浮気でもしたん?」
「それは無い!あの子にいろいろ背負わせてしまったんやろな、マリッジブルーになったのを
俺が受け止めてやれなかったからや」
「まあええわ、済んだ事やし、
あんまり落ち込まんと、あんたもサッサと新しい彼女見つけや、ウチもアンタのファンやし」
そんな事を言いながら1時間くらいで帰っていった。
その時あの言葉が頭によぎった
「一番望むものは手に入らない。
欲しい物を求めるならそれ相応の努力、
対価を払ってもらう。」
俺は優花に対して
本当に努力していたのだろうか?




