表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/24

雨と祠と火の記憶

 朝から空は重たく曇っていた。

 土のにおいが、いつもより濃い。


 作業用の長靴に、しっとりと泥がつく。


 コレヒトは黙って畑を一巡し、最後に立ち止まると、空を見上げた。

 風が止まった。


 「……今日は、やめとくか」

 その言葉に、ロボットは作業ログの一部を“延期”として分類した。


 


 雨が降り出したのは、そのすぐあとだった。

 屋根に当たる音がぽつ、ぽつと増え、すぐにしとしとと連なる。


 小屋の隅で火がくすぶっていた。薪は湿気て、燃えが悪い。

 それでもコレヒトは火をつけた。


 「雨でも、火は必要だ」


 その声に、明確な命令タグは付与されていなかった。

 だが、ロボットは静かに薪を足し、火を維持する。


 


 午後。雨足は弱まったが止まず、空は沈黙のままだった。


 コレヒトは玄関で長靴を履き直し、ロボットに言った。

 「祠、行くぞ」


 「了解」

 ロボットは自動で傘を展開した。


 


 祠は、村のはずれ、森の手前にある。

 石の鳥居は傾き、屋根の苔は厚い。だが、どこか丁寧に扱われている気配もある。


 コレヒトはそこで立ち止まり、傘を畳んだ。

 そして、掌を合わせる。


 「………………」


 音がない。

 祈りの言葉は、発されなかった。


 それでも、ロボットのログには“意図:不明な動作”として記録された。


 その間、雨は祠の屋根を打ち、音を立てて流れていた。


 


 「……火も、祠も、別に信じちゃいない」

 コレヒトが、ぼそりとつぶやく。


 「ただ、あいつが好きだったからな。……こういうの」


 ロボットは、その「あいつ」が誰を指しているのかを推定しきれなかった。

 しかし、音声ログには保存した。


 記録ログ:発話記録あり/対象名:未指定/関連タグ:照合不能


 


 祠の前に置かれていた木の器に、雨水が溜まっていた。

 それを見たとき、ロボットの中で、何かが“ざわついた”。


 異常ログ:視覚情報処理において演算遅延発生。

 記録タグ:既知風景との類似処理/対象記憶:該当なし/保留。


 


 帰り道。猫が、畑の端で雨を避けながら丸くなっていた。

 コレヒトは何も言わなかったが、近くにあった箱の中の布を少し整えた。


 猫は動かず、ただ、静かにこちらを見ていた。


 


 ロボットの中でまた、ひとつ記録が増えた。

 その内容に意味はまだない。

 だが、“繰り返し観察対象”として、静かに分類された。

■記録ログ

発話記録:対象:コレヒト/音声強度:低

発話意図:信仰的行為への言及と、過去の人物に関する情緒的反応を含む発言

関連感情タグ:未定義(視覚情報との不整合処理/情緒反応ログ:保留中)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ