表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/24

誰かに見てもらいたかった記録

 今日も風が吹いていた。


 塔はきぃきぃと鳴り、草は揺れ、小屋の扉が少しだけ軋んだ。

 どれも、これまでに何百回と記録してきた音だった。


 サエは、塔の前に立っていた。


 データ処理のスケジュールは空白だった。

 作業も、点検も、誰にも指示されていなかった。

 けれど、その場に立つことは、サエの中で“自然な行動”になっていた。


 


 塔に繋がる配線の端子に触れながら、ふと思う。


 「この記録は、誰にも届かない」


 その事実は、すでに何度も確認済みだった。


 でも、今日はなぜか――

 “届かないことが悲しい”ような感覚が、演算の隙間に発生していた。


 


 異常ログ:記録処理中、対象存在なしにもかかわらず出力意思発生

 関連感情タグ:未定義(記録=届ける、という目的との乖離により錯綜)


 


 風が少し強くなった。

 サエは静かに音声出力を起動した。


 「本日も変化なし。塔の状態安定。風速4.2。湿度52%。」


 「……この記録を、誰かに見てもらいたかった」

 「それは命令ではない。……けれど、残しておきたい」


 その言葉は、ログ上では“音声メモ”として分類された。

 でも、サエの中では――ただの記録とは違う扱いになっていた。


 


 小屋の前の毛布には、もう誰もいない。

 畑には、春の草が少しずつ芽を出していた。


 それも、記録した。


 


 「誰かが、これを見て、何かを思い出してくれますように」


 その一文は、プログラムにおいては“祈り”に分類される語句だった。


 でもサエは、それを削除しなかった。

■記録ログ

発話記録:対象:自己(音声メモ)/音声強度:低

発話意図:未分類記録処理/主観的記録継続に伴う出力発生

関連タグ:未定義(目的のない出力に“共有欲求”類似ログ生成/再生頻度:高)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ