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ラブコメに不穏な影はつきものである

「なあ、もっと肩の力抜けよ。ただ一緒に飯食ってるだけだろ」


「わかってるよ……わかってるけど……」


 そう言いながら橋良は俯く。

 これは、恐らく俺に対して特別な好意を持っている故の緊張ではないのだろう。


 なんとなく察してはいたが、橋良にとってはこんな日常の風景が特別なのかもしれない。


「……これといって趣味と言えることはないが、本を読むことは好きだな」


 橋良の表情が、一転してパッと明るくなる。


「ほんとっ!? 私もめちゃくちゃ本読むよ!

どんなの読むの!?」


「多ジャンル読むけど、ホラー、ミステリーとか」


「いいねっ! 私も有名どころは全部読んだよ! 多分、中学時代だけで300冊くらいは読破してるからねっ!」


 恋愛小説とかチラッと読んでるのかと思ったら、ガチ勢じゃねえか。俺も割と読んでいる方だと思ったが……なんか、橋良に負けると悔しいものがある。



「じゃあ、SFとかも読んだりするのか?」


「SFの覇者とは私のことよっ!」


 そう言いながら、橋良は持っている箸をドヤ顔で俺に指し向けた。ところどころ、イラっとするムーブかましてくる。


「そのSFの覇者さんにちょっと聞きたいんだが、タイムリープものとか詳しいか?」


「SFの中でもキャッチーな部類だね! 結構読んだよ!」


「そもそも、なんでタイムリープって起きるんだ?」


 波瑠自身は神様にお願いをしたらタイムリープをしていたと言っていた。だが、神頼みでポンっとそんな非科学的な現象が起きるものなのだろうか。


 橋良は箸をクルクル回しながら、斜め上を向き頭の中を整理しているようだ。


「うーん、タイムリープが起きる理由は作品によって様々だなあ。なぜ起きたのか明確化させないこともあれば、それっぼい理詰めで説明することもあるし。不思議な力が働いたり、ずっと先の未来でタイムマシンが発明されたり」


「要するに、なんとも言えないってことか」


「いずれにしても、ファンタジーの中の出来事だってことだよ。だから、基本的には何でもあり」


 話し過ぎて喉が渇いたのか。

 橋良は可愛らしいピンクの水筒からお茶を一杯そそぎ一気に飲み干した。そして、弁当をよそに再び話し出す。


「パラレルワールド、いわゆる平行世界にぶっ飛んだ。同じ世界軸で思考や記憶だけが過去の自分に乗り移った。超能力で実は未来が見える人だったなんてのもあったなあ。あと面白かったのがね、ただの嘘だったってオチ」


「嘘?」


「情報収集能力と人心掌握で、タイムリーパーとして自分を仕立てあげてたって話。あれは巧妙だったなあ、最後の最後のどんでん返し!」


 なにそれ、面白そう。

 なのに完璧なるネタバレを既に喰らってしまっているこの複雑な感情。



 ……嘘か。

 波瑠のタイムリープの話はもう充分に信じてしまっていたが、まだその可能性もあるのかもしれない。しかし、そんな嘘をついて何の意味があるというのか。



「なあ、その話。なんで、そいつは自分がタイムリーパーなんて嘘をついたんだ?」


「そうだなあ。色々と複雑だけど、大雑把に言うと……大切な人への歪んだ愛情」


「歪んだ……愛情?」


 なんとなく、脳裏に波瑠の顔が浮かんだ。


「これは語りきれないから、興味あるんだったら貸すよ!」


「是非貸してくれ」


「あとねっ! トッキーに他にも読んでもらいたいのあるんだ!」


「じゃあ、片っ端から頼む」


「ほんとっ!?」


 橋良は満面の笑みを浮かべる。

 これだけ無邪気に笑う橋良の顔を見るのは初めてかもしれない。しっぽをフっている犬のような可愛さがある。


 何度か告白されたとは言っていたが、確かにモテるかもな。波瑠とはまた違ったタイプの魅力だ。


「なんか、こう……嬉しいな。こんな楽しい気持ち、すごい久しぶり」


「それは、何より」


「……あの時、勇気出して話しかけてよかった」


 そう言いながら照れ臭そうに笑う橋良を見て、なんともムズがゆい気持ちになる。

 

 思っていたより、橋良との絡みは嫌ではなかった。そして、本当になんとなくだが、橋良とは長い付き合いになるような気がしていた。



(ねえ、やっぱりあの娘さ……)

(ね、言ってた通りだよね)



 だから、ある日突然言われた彼女からの別れに、俺は青春の難しさというものを痛感することになる。

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