滅びた都
ヒースに熱を遮断する結界を張ってもらい、難なく火山の奥地へとやって来たセシリーナたち。辺り一面に広がる溶岩湖を前にして、セシリーナは片手を上げる。
「――イフリート、力を貸して!」
「御意」
セシリーナの呼び声に応えてイフリートが現れる。彼が筋肉隆々の両腕を広げた。途端、煮えたぎる熱さのマグマの湖が渦を巻き、地面を穿つ大穴が出現した。
傭兵ダグラスが口笛を吹く。
「ほう、こりゃいつ見ても壮観だな」
「ああ、ダグラス殿は火山に来られたことがあったのでしたね」
「前回の火山のダンジョン攻略ツアーに参加したからな」
アンソニーの言葉にダグラスが気楽に返している。
アグニス出身のカルメンや竜族のデュークも初めてではないようだった。初めて火山にやって来たのはアンソニーとヒースの二人ということになる。
アベルが全員を振り向いた。
「時間も限られている。全員、せーのであの大穴に飛び込むぞ」
「それは構わないんだけれど、あの大穴はどこに繋がっているわけ?」
「深淵の地にある地下都市だ」
「言っていることが何一つわからない……」
アベルの真顔の回答にヒースがげんなりしている。
ダグラスが豪快に笑った。
「はははッ! 意味不明で結構なことだ! 行ってみればわかるということだな」
「それでは潔く飛び込むとしようか」
「怖いですけどね……」
カルメンとアンソニーが話している。
デュークが地を蹴った。
「そんじゃ一番乗りいっただき!」
「あ、ずるーい! わたしも!」
「おい待て、フィオナ! ……ったく」
颯爽と大穴に飛び込んでいくデュークをフィオナが追い、さらにそれをラルフが追っていく。あっという間に三人の姿が真っ暗闇に呑み込まれていった。アンソニーとカルメン、ダグラスもお互いの顔を見交わしてから次々と穴に飛び込んでゆく。
「はあ、行くしかなさそうだね」
「肚を括りましょう」
ヒースとケルヴィンが揃って穴の先を見据える。
潔く飛び込んでいった二人の姿を見送りながら、残されたセシリーナとアベルは互いの顔を見やった。
「行こう、セシィ。絶対に勝つぞ!」
「うん……!」
アベルが片手を差し出し、セシリーナがその手を握る。二人は固く手を取り合いながら穴の中へと身を躍らせた。
石造りの地下都市に降り立ったセシリーナたち。初めて目にする古代の街並みに仲間たちは言葉を失っていた。
アンソニーがきょろきょろと周囲を見回す。
「……こんなにも大きな町が火山の下に眠っていたなんて」
「私も村長から話に聞いていただけでこの目で見るのは初めてなのだが、まるで常識外れだな」
「まったく生き物の気配がねぇな」
「滅びた都市なんだろうよ」
カルメン、デューク、ダグラスの順で感想を述べている。ラルフが足を進める。
「ともかく時間が惜しい。あの尖塔のある大聖堂に行くぞ」
「ああ、創世の女神様と会ったところだね!」
フィオナが背伸びをして、都市の中心部に見える石造りの尖塔を眺める。
セシリーナとアベルにも馴染み深い場所だ。フィオナとラルフ、そして創世の女神に再会したところ。女神に会えるとすれば一番確率が高いだろう。
全員で警戒しながら街路を進み、大聖堂の手前までやって来る。幸い、魔獣に遭遇したり予期せぬ出来事が起こったりすることもなかった。ここまでは順調だ。
アベルを先頭にして古びた木製の観音開きの扉を押し開く。ギギギギギィ、と軋む音。堂内もまた石で造られた礼拝堂には、埃でけぶる光がぼんやりと差し込んでいた。地下都市であるのに日の光があるのは本当に不思議だ、とセシリーナは感じる。
ケルヴィンが床から高い天井までを見渡す。
「……誰もいらっしゃらないようですね」
「この際、こちらから呼びかけてみたらいいんじゃない?」
ヒースが何気なく言ったときだった。祭壇に安置されている女神像が一瞬光で縁どられたかと思うと、像の内から創世の女神その人が浮き出されたのだ。そのままゆっくりと床に降り立った女神が茶目っ気たっぷりに片目を瞑る。
「これぞ呼ばれで飛び出てなんとやら、ですね」




