作戦会議
「『星を喰らう魔獣』ですか。そんなばかな……」
ワールドツーリスト社王都支店の会議室。ラストダンジョンに挑む面々が集まっていた。全員が簡単に自己紹介を終えた後、セシリーナが『星を喰らう魔獣』の話をし、近衛騎士の青年アンソニーが呆然としている。異国の戦士カルメンと竜人デュークは別段驚いてはいない。彼らは既に知っていたのだろう。傭兵ダグラスは部屋の隅で葉巻をふかしている。そのダグラスがにやりと笑った。
「創世の女神様がそんな秘密を隠していやがったとはなあ。まるで時限爆弾だな」
「時限爆弾とは言い得て妙」
「卵が孵化したらやられるわけだからな」
カルメンとデュークが苦笑いをしている。
アベルが面々を見回した。
「ともかく地下都市から夜の森へ往く。事実上のラストダンジョンだ」
「雨が降り続く明けない夜の森。最終決戦にふさわしい神秘的な場所だろう?」
「陰鬱とも言えますが」
ヒースとケルヴィンが肩を竦めている。
セシリーナが段取りを確認する。
「事前に女神様と現地確認に行ってまいったのですが、夜の森は女神様が『星を喰らう魔獣』を閉じ込めるために生み出した隔離空間だそうです」
「つまり俺たちはその隔離空間で死闘をすることになるわけだな」
「派手にドンパチやっても外の世界には影響がなさそうだね。その点は安心」
ラルフとフィオナが頷き合っている。
ヒースが唇の端を持ち上げた。
「つまり周囲の被害を気にせず戦えるわけだね。暴れたい放題なわけだ」
「ほどほどにしてくださいよ、ヒース様。流れ弾に当たってはたまりませんので」
「それくらいは避けてもらわないと」
「ヒース、ケルヴィン、お手柔らかにね。私、その流れ弾に当たる自信あるから」
セシリーナは後ろ頭を掻く。
いくら隔離空間とはいえ、仲間たちは互いに近くにいるのだ。ヒースやケルヴィンには本気で戦ってほしいけれど、二人の派手な攻撃に巻き込まれたら自分などひとたまりもない。
アベルが顔を上げる。
「ともかく陣形を決めておく必要があるな。味方に被弾させないためにも」
「基本はやはり近接攻撃が前衛。遠距離攻撃が後衛となりそうですが――」
「前衛後衛に限らず遊撃部隊も必要だろう。不測の事態が起こったときに対応できる」
アンソニーの言葉にダグラスが提案している。
ここにいる面子は皆戦闘のプロフェッショナルだ。彼らのこれまでの経験が活きてくる。
セシリーナは顎に手を当てる。
「……そうですね、不測の事態。十分あり得ますよね」
「まあな。今まで誰も『星を喰らう魔獣』と一戦交えたことはないだろうからな」
「なるほど。創世の女神もその魔物が孵化したところは見たことがないわけだな」
アベルが言って、カルメンが頷いている。
そう、今まで誰も『星を喰らう魔獣』の成体を見たことがないのだ。どのような方法で襲いかかってくるのか皆目見当もつかない。
デュークが腕を組む。
「それでその女神サンはどこにいるわけ? 隊列を組むにしても戦術を立てるにしても、女神サンの意見があれば助かると思うけどねぇ」
「デュークの言うとおりだな。お嬢ちゃん、女神と会うことはできそうか?」
「そうですね……。地下都市でなら対面できるかもしれません」
セシリーナはダグラスに答える。
前回女神と再会できたのも地下都市だった。イフリートが守護する火山のマグマの下――そこは女神の管轄地なのだろう。
ケルヴィンが羊皮紙に本日の議事録をしたためる。
「それでしたらまずは地下都市に向かうのが良さそうですね」
「ああ。俺はすぐに王城に上がる。今決定したことを関係者に伝えてくる」
「アベル様、自分も同行いたします」
アベルに続いてアンソニーが慌てて立ち上がる。
ダグラスが壁に立てかけていた大剣を肩に担ぐ。
「時限爆弾の起爆まで時間がねぇ。出発は明朝でいいか?」
「構わない」
「各自それまでに装備や準備を整えておくっつーことで」
カルメンが同意し、デュークも膝を叩いて立ち上がった。
皆フットワークが軽い。さすが歴戦の戦士たちだ。集合場所は明朝中央広場に決まった。
アベルが号令をかける。
「各自解散! しっかりと明日の英気を養っておくように」
さきほどの会議が終わったその足で、ヒースは教会本部を訪れていた。父親である教皇に事の顛末を伝えるためである。
教皇の執務室に入室したヒースは、歓談用の長椅子に父親と向かい合って座っていた。
「……なるほど。ついに『星を喰らう魔獣』の存在に行き着いたか」
「セシリーナやアベルたちのおかげです。仲間に恵まれました」
「そのようだな」
教皇は表情を緩めてヒースに応じた。壮年の教皇は上品で落ち着いた物腰だ。腰近くまで伸ばした銀髪が美しかった。
「いずれは話さねばならないと思っていたのだ。おまえが教皇の座を継いだときに」
「そうでいらっしゃると思っておりました」
「……おまえに余計な心労をかけて申し訳なかった」
教皇が静かに頭を下げる。ヒースは慌てた。
「父上、それは違います……! 僕が勝手にクラーク一族のことを疑っていただけで」
「クラーク一族が裏から世界を牛耳っていると思っていたのだな。女神の命とはいえ聖騎士と竜王の領土争いが繰り返すように仕向けていた。間違いではなかろう」
「竜王を封印し、数年を置いて封印が解けて再度復活するよう仕組んでいたのですね」
「そのとおりだ。だから我々は長年、常に神官として聖騎士のパーティに加わっていたのだ」
クラーク一族は女神に従ってこの世界を支えてきたのだ。いずれ対峙することになる『星を喰らう魔獣』に対抗するために。その大義を背負っていた。誰がそれを責めることができるだろう。自分たちは誇り高い一族だったのだ。
(それを自分は、一族の秘密を暴いてやるなんて意気込んで……)
空回りもいいところだ。滑稽だった。何も知らない故の無鉄砲さで火の村アグニスの村長に話を聞きに行った。それで真実に近づけたところだけは自分を褒めたかったが。
気まずくて顔を伏せるヒースに、教皇は微笑む。
「何も恥ずべきことはないぞ、ヒース。よくぞ己の力で真実へ辿り着いた。もうおまえに教皇の座を譲っても良いくらいの成果だ。よくやった」




