火の精霊
その後、セシリーナたちは無事に王都に帰還した。お互いの健闘を称え合ってツアーは解散となる。セシリーナたちワールドツーリスト社の面々は事後処理のため王都支店に戻って来ていた。
打ち合わせ用の革張りの長椅子に身体を投げ出しながらアベルが言う。
「さすがに疲れたな」
「お疲れさまです」
すかさずケルヴィンが皆に紅茶を配る。
彼とて疲れているはずなのに、執事として完璧な立ち回りだ。
全員が一息ついたところでセシリーナが口火を切る。
「今後のことについて思ったんですが、次の観光地はまだ未契約の精霊がいそうな場所にしたほうがいいかと思って」
「闇雲に行き先を決めるよりもそのほうがいいかもしれないね」
「うん。目的があるほうが予定を組みやすいし」
同意してくれたヒースにセシリーナが頷く。
他の精霊の居場所ならシルフかウンディーネに聞くのが一番だろう。
セシリーナがそう思った途端、その思考を読んだかのようにすかさずシルフが姿を現す。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃん!」
「はいはい。それでシルフ、話は聞いていたと思うがセシィが未契約の他の精霊の居場所はわかるか?」
「……最近アベル、ボクの扱い雑だよね」
シルフの冗談をすっぱりと切り捨てて本題に入ったアベルに、シルフがふてくされている。それもこれもアベルたちが精霊に親しみを持ってきている証拠だろう。仲介役のセシリーナにとっては、よそよそしい関係よりもずっと嬉しかった。
気を取り直してシルフが頭を悩ませる。
「うーん。ご主人様が未契約の四大精霊は火の精霊イフリートと土の精霊ノームだよね」
「うん。そうなるかな」
「それなら火の精霊イフリートに会いに行こう。たしかこの辺りにいるはずだから」
シルフは壁に掛けてあった地図までふよふよと移動すると、南方地域を指さした。そこは中央大陸では南国にあたる場所だ。周辺の大地は砂漠地帯が広がり、年中真夏のごとく暑いと聞く。透き通るような青い海から採れる魚介類は新鮮で、さらに暑い気候の恩恵で果物は甘くて美味しいと噂の地方だった。
ケルヴィンが地図に目を向ける。
「そういえば、商会関係の商人の知り合いから南方には火を祀る村があると聞いたことがあります」
「火を祀る村、いかにも火の精霊イフリートと縁がありそうだな」
「この中で誰か南方地域に行ったことのある人は?」
アベルが所感を述べたあと、ヒースがセシリーナたちを見渡す。皆が首を横に振る中、アベルだけが手を上げた。
「俺は騎士団の遠征で何度か足を運んだことがあるぜ」
「へえ。かいつまんで言うとどんなどころ?」
「そうだなあ。南国特有なのか暮らしている人々はいい意味で大雑把だな。楽天家というか、細かいことは気にしない気風だ。海は綺麗だし食べ物も美味しいぜ」
「楽しそう!」
ヒースの質問に対するアベルの回答に、セシリーナは目を輝かせる。観光旅行としてはぴったりの場所なのでは。ヒースがジト目でセシリーナを見る。
「あのさあ、遊びで行くんじゃないんだよ? 仕事だからね」
「わかってますわかってます!」
「わかってないだろそのにやついた顔」
ヒースが天を仰いでいる。たまに彼の口調が乱雑になるのがセシリーナはひそかに嬉しかった。彼が素顔を見せるようになってきてくれた気がして。
皆がふざけ合っている中でも、几帳面に議事録を執っていたケルヴィンが顔を上げる。
「それでは、次の目的地は南国地方ということでよろしいですね」
「やったぁ!」
「だから遊びじゃないって何度言ったら……」
「ヒース、一緒に楽しみましょうね!」
「……聞いちゃいない」
ヒースはげんなりしていたけれど、セシリーナは新たな企画に胸が躍るようだった。次はいったいどんな冒険が待ち受けているのだろう。
ケルヴィンが立ち上がる。
「それではさっそくですがPR活動を始めましょう。各関係者に話を通してまいります」
「あ、私も一緒に行きます!」
セシリーナは慌ててケルヴィンの横に並ぶ。企画を通すのなら社長である自分も同席するべきだろう。事務所で胡坐をかいているわけにはいかない。
セシリーナの一生懸命な姿勢に感銘を受けたのか、ケルヴィンが優しく彼女を見つめる。
そうして二人は連れ立って各関係者へのあいさつ回りをするのだった。




