精霊の試練
世にも美しい人魚の姿をしたウンディーネ。セシリーナたちを目を細めて優しく見つめる。
「まあ! 可愛らしいお嬢さんだこと。お会いできて嬉しいわ!」
「は、初めまして。精霊使いのセシリーナ・シュミットと申します。あの、これ――」
「あら、それはわたくしの精霊石ね。貴方が持っていてくださったのね」
「はい。武器屋の親父さんから譲り受けた物なんです」
セシリーナは精霊石をウンディーネに返そうと小箱を差し出す。けれどもウンディーネは首を横に振った。
「それは貴方が持っていてちょうだい。ちょっとしたお詫びに」
「お詫び、ですか?」
「ええ。実はわたくし、貴方たちをこの地底湖に呼び寄せるためにわざと吊り橋を落としたの」
え、わざと……?
あんぐりと口を開けるセシリーナとアベルを尻目に、シルフが抗議の声を上げる。
「やっぱりウンディーネ姉の仕業だったんだ! ちょうどご主様だけを狙ったように吊り橋が壊れたからどうも変だと思ったんだよね」
「あら、少し小細工をして壊れやすくしただけよ。魔獣の攻撃がお嬢さんの足元を狙ったのは偶然だったのだから」
「どうだか」
くすくすと笑うウンディーネに、シルフが憤慨している。二人は姉と弟のように仲が良さそうだ。
アベルが一歩前に進み出る。
「ウンディーネ、俺は聖騎士アベルハルト・ローレンスと申します。こうしてお会いできたのも女神の導きに違いありません。どうか竜王に勝つために力を貸してはいただけないでしょうか?」
「それはお嬢さんと精霊契約を結んでほしいということね。それはもちろん望むところなの。だからわたくしは貴方たちをここへ呼び寄せたのだから」
「じ、じゃあ……!」
期待に満ち溢れた目でセシリーナは身を乗り出す。ウンディーネはにこりと良い笑顔を浮かべた。
「ええ。けれども、ひとつだけ試させてちょうだい。聖騎士アベルハルト、貴方の実力を」
「俺……?」
「そう。貴方に竜王に打ち勝つ気概があるのかどうかを推し量りたいの」
「気概……」
アベルがぽつりと呟く。打ち勝つ力ではなく気概。単純に実力を試すという意味ではないのだろうか。
セシリーナは心配げに隣のアベルを見やる。アベルは何も心配いらないとばかりに力強く笑んだ。
「大丈夫だ、セシィ」
「でも……」
「こんなところで及び腰になっていられないだろ?」
「そのとおりよ。わたくしの試練すら越えられないようでは竜王には勝てないわ」
ウンディーネがアベルを鼓舞する。アベルは自分の胸に手を当てて、その場に片膝を突いた。深々と首を垂れる。
「承知した。聖騎士アベルハルト、謹んで水の精霊ウンディーネの試練を受けさせていただく」
「よろしい。わたくしは戦いを通して貴方の実力を試すつもりはありません。もっと内面の部分――精神面の強さを量らせていただきます」
(精神面……。気概ってそういうことだったんだ)
ここでセシリーナ自身にできることはない。アベルの試練が上手くいくように祈ることしかできない。自分の力が少しでも彼に伝わるように。
目を閉じたアベルに、ウンディーネがしなやかな指先を向ける。彼の体が水の被膜に包まれた。
ウンディーネの課した試練が、始まる。




