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地底湖


 ――……ぴちょん、ぴちょん。

 水の滴る音が反響している。近くでは、ぱちぱちと炎の爆ぜる音がしていた。不思議の安心できる雰囲気。セシリーナは意識を取り戻して瞼を開ける。


(あれ、ここはどこだっけ?)


 最初に目に入ったのは薄暗闇のじめついた岩肌だった。ああ、そうだ、ここは水の洞窟だ。それを思いだした途端に記憶が鮮明になってくる。たしか自分は足を踏み外して吊り橋から落ちたはずだ。そうだとすると、ここは落下した先になるのだろうか。

 自分の手足を見つめている。別段怪我をしている様子はない。身体にも特に痛みはない。あの高さから落ちたなら無傷であるはずがないのに――。誰かが、助けてくれたのだろうか。

 そう思った矢先だった。近くの岩場からひょっこりとアベルが顔を出した。


「お、セシィ? 気がついたのか!」

「アベル!? もしかしてアベルが助けてくれたんですか?」

「ああ、まあ。なんとか間に合ってよかったぜ」


 アベルが後ろ頭を掻きながら歩み寄って来る。その体は所々擦り傷だらけだった。打ち身で青くなっている部分もある。きっと自分を庇って落下の衝撃をひとりで受け止めてくれたのだろう。

 セシリーナは立ち上がり、アベルに駆け寄る。


「ごめんなさい……! 私のせいで怪我をさせてしまって」

「いや、大した傷じゃねぇよ。それよりもおまえが無事でよかった」

「ありがとう……」

「いいって。元々装備品に防御魔法を掛けてあったからな、大事には至らなかったんだ。落下の衝撃を焼和らげたからな」


 それでも怪我を負ったことには違いない。二人分の衝撃が加わったのだからきっと痛かっただろう。

 セシリーナがしゅんとしていると、アベルが困ったように微笑んだ。


「そんなにしょげんなって。それよりも仲間たちとはぐれちまったからな。早く合流しないと」

「うん。ここって吊り橋のちょうど真下くらいなのかな?」

「――その通り!」


 セシリーナの質問に答えたのは、宙に現れたシルフだった。神出鬼没なのは相変わらずだ。セシリーナとアベルが驚いて心臓を抑えているのを尻目にシルフが先を指差す。


「二人とも、吊り橋から落下したのはある意味ラッキーだったよ」

「どういうこと?」

「この先に地底湖があるんだよ。以前ボクが言ったウンディーネの住処の」

「ええ!?」


 シルフが指で示す先を目で追うと、たしかに広大な地底湖が広がっていた。吊り橋の下は地下水の溜まる空洞になっていたのだろう。アベルと頷き合って地底湖へと近づくと、底の見えない水底に天女の衣を翻してでもいるような美しい燐光が揺らめていた。なんて清らかな湖なのだろう。


「綺麗ですね。本当に水の精霊が住んでいそう」

「うふふ、本当に住んでいますよ。ようこそ、わたくしの住処へ」

「へ……?」


 洞内に涼やかで落ち着いた声音が響いたと思うと――地底湖の中心部が渦を巻き始める。渦から水の奔流が立ち昇った。それが勢いよく弾ける。飛んでくる水飛沫にセシリーナたちは額に手を翳す。気づけば、地底湖に青い光で縁どられた人魚が現れていた。人魚は、岸部で呆気に取られているセシリーナたちに、深海を思わせる深い青の瞳を向ける。彼女は肌も露わな上半身に水の絹をまとい、下半身には尾ひれが付いていた。


「ウンディーネ……?」

「ええ。初めまして。シルフも久しぶりですね。元気そうで安心しました」


 ウンディーネは好意的に笑むと、セシリーナたちの元へと降り立った。

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