↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
52/117

精霊石

 親父がセシリーナに小箱を差し出した。


「これを受け取ってくれねぇか?」

「え、と、これは――」

「俺も中身は知らん。ただ、先代からいつか精霊使いが来たら渡すように言われていてな」

「ふうん。まあとりあえず開けてみたらどうだ?」


 アベルがセシリーナを覗き込む。セシリーナは頷いた。精霊使いのみが使用できる何かが入っているのかもしれない。それならば自分が開けてみるのが筋だ。

 セシリーナは親父から小箱を受け取る。ずっしりと重い。箱だけでも値打ち品に見える。きっと大事に保管されていたのだろう。おそるおそる蓋を開ける。するとその中から、深海のごとく深い青色をした美しい大振りの宝石が姿を現した。上質な紺色の絹の布地に大切そうにくるまれている。


「綺麗……!」

「すげぇな。こんな大きな宝石、初めて見たぜ」


 セシリーナの手元を覗き込んだアベルの目に宝石の青が映り込んでいる。途端、ぽんという音を立てて突如シルフが宙に現れた。


「あーっ! それウンディーネ姉ちゃんの物だよ!」

「うっわ、急に現れんなよシルフ!」

「び、びっくりした……」


 アベルとセシリーナが揃って心臓を押さえる。親父に至っては言葉を失っている。

 シルフがセシリーナの肩口に腰かけた。


「それは『ウンディーネの涙』って呼ばれる精霊石だよ。水の精霊の加護が宿っているんだ」

「精霊石?」

「宝石には少なからず精霊の力が宿っているって言うが、その中でもとりわけ強い力を宿している大きな石を精霊石と呼ぶんだ。なかなかお目にかかれるもんじゃないんだぜ」


 アベルの解説にセシリーナはふんふんと頷く。つまりこの宝石は希少なものなのだろう。

 状況に圧倒されていた親父が初めて口を開く。


「『ウンディーネの涙』ってのは、この店の店名にもなっているな。先代はこの石から名前を拝借したのか。あの小箱は先代がこの店を始めた時からあるものなんだよ」

「そうなんだ! じゃあこの精霊石はウンディーネ姉ちゃんが先代の親父さんに渡したのかもね。理由はわからないけれど」


 いつの間にか親父とシルフが自然に会話をしている。親父は多くの装飾品を扱ってきた鍛冶師だ、きっと武器や防具に宿った精霊の力に触れる機会も多かっただろう。だから精霊を視認する力が養われているのかもしれない。

 親父が改めてセシリーナを見る。


「その精霊石はお嬢ちゃんに差し上げる。いつか水の精霊ウンディーネに会う機会でもあったら、先代がその石を大切にしていた旨を伝えてくれねぇか?」

「承知いたしました」


 セシリーナは頷くと、小箱を手持ちの革鞄にしまい込んだ。運よく水の洞窟でウンディーネに会うことができたら伝えられるかもしれない。

 親父が手を叩いた。


「悪い、話が脱線しちまったな。お嬢ちゃんの装備品を見繕うんだったよな」

「ああ。今度ワールドツーリスト社でダンジョン攻略ツアーを組もうと思っているんだけどな――」


 アベルがかいつまんで親父に事情を説明する。親父は顎に手を当てた。


「なるほどな。お嬢ちゃんは精霊使いだから防御力特化の装備がいいかもしれねぇな」

「そうだな。セシィに怪我をさせねぇように俺が極力守ろうと思うけれどな」

「妬けるねぇ」


 親父がアベルをからかっている。

 セシリーナは、親父に憤慨しているアベルがまとっている純白の軽装の鎧に目をやった。

 鎧の部分も背中に流しているマントの部分も、うっすらと光沢を放っている。おそらくなんらかの守護効果がかけられているのだろう。彼はいずれ竜王と戦う身だ。だからきっと強力な加護を幾重にもまとっているのだろう。決して負けられないから。どんなに傷だらけになっても、自分の身を犠牲にしてでも最後まで戦わなければいけないから。


(聖騎士に選ばれるっていうのは、まるで呪縛みたいだ)


 英雄になること以外を許されていないような。そんながんじがらめの崖っぷちに立たされている人生を、彼はひとりで歩んでいかなければならないのだ。それはどんなに過酷なことだろう。彼のために自分にできることはないだろうか。自分ばかりが彼に守ってもらっているわけにはいかないから。

 そんなことを頭で考えていたらセシリーナは無意識にアベルの袖口をつかんでいたらしい。アベルがこちらを見下ろす。


「ん? なにか不安なことでもあるのか?」

「う、ううん。ただ、私もアベルに守ってもらうばかりじゃなくて戦えるようになりたいなって」

「なるほど。健気だねぇ。つまりお嬢ちゃんは、精霊使いでも扱える武器が欲しいわけだな」

「はい」


 頷くと、親父が閃いたとばかりに人差し指を立てた。


「それならおあつらえ向きの良い武器がある。ちょっと待ってな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。