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最強の相棒 〜弱い僕と弱い君で異世界最強を目指す〜  作者: グラミヤマ
第一章 底辺ハンター
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第一章9『紅き森の赤き水』

 教会の曇った窓から朝焼けの光がこぼれる。

 その光がヒロト達のまぶたを刺激し、起きたがらない二人は嫌々目を覚ます。


「あしゃ…………」


「ギルドに行こうか………」


 目を擦り、あくびをしながら身体を伸ばして二人は起き上がり、枕がわりにしていた荷物を背負って教会から出る。


 太陽はギラギラと眩しいのに肌を触る風はものすごく冷たい、そんな感覚に違和感を覚えながらヒロトとベルカは寂れた教会を背に不規則に生い茂る草花を踏みしめて街の中心へと向かって歩いていく。


「今日はどんな依頼を受けるの?」


 ヒロトより一回り身長の低いベルカがヒロトの顔を見あげて今日のことを聞く。

 

「また昨日と同じようなやつかなぁ」


「はーい」


 




────────────────────────





 


 街の中心に着き、ギルドの中へと入って二階への階段を上っていく。

 朝ではあるが、ハンターたちが集うギルドともなればやはり賑わっている。

 二人はクエストボードの前に立ち、昨日と同じクエストを受けるつもりなのだが、一応どんな依頼があるかをざっと見る。


「……?」


 ベルカが流すようにクエストボード全体を見ていると一つだけ目に止まる依頼書があった。

 それには『鬼神の力を獲た泉』と書かれており、内容としては以前ヒロトが肉食モンスターから逃げていた時に入った『紅森』が目的地で、その最奥にある『鬼泉』から『鬼神水』を取ってこいというものだ。


「紅森って、あの大きな紅い森だよね?凄く広くて大きい」


「そこにある泉から水を持ってくるんだって」


「でも紅森のまた最奥だなんて危険じゃない?」


 地球、それも日本に住んでいたヒロトにはあの森がこの世界の誰よりも大きく見えた。

 その最奥なのだから時間もかかるし、肉食モンスターが襲ってくる危険性だって大いにあるのだ。


「うん、でも………すごくお金がもらえるみたい」


 そう、この依頼の報奨金は2500cだ。流石に肉食モンスターや危険な大型モンスターの討伐依頼よりは随分安いが、適当な納品依頼をするよりも圧倒的に稼ぐことが出来る依頼なのだ。


「や、やるの………?」


「もちろん!」


 危険を承知でもベルカはキリッとした目で強くそう言った。

 こうまでしてベルカがこの依頼を受けたがるのにはもちろん理由がある。


「新米ハンター向けにギルドが装備を出してるのは知ってる?」


「装備……?」


「2500cもあればギルドが出してる装備の中でも一番安い『レザー』の装備を二人分揃えることができるの!」


 このクエストさえ成功させることが出来ればその後のハンター生活がかなり楽になると言ってヒロトを説得するベルカ。

 採取クエストの時よりも格段に危険が増すことは見えているので気分は浮かないが、ヒロトはその言い分に納得して出発の準備を始めた。





────────────────────────


 


 はっきり言ってヒロトはトラウマになりつつある紅森。 それは今まさに彼の目の前にある。

 緑色の葉など一つもなく、全ての木々は紅、黄、 橙の色に染まって正しく、異世界という雰囲気を醸し出している。


「この奥だね……」


「うん………」


 ここまで肉食モンスターと出くわさなかったのは恐らく朝だからだろう。 昼になると奴らはエサを求めて草食モンスター達の元へと行き、食い尽すのだ。

 つまり、朝から昼になろうとしているこの時間は平原から紅森へと行くヒロト達、紅森から平原へと行くモンスター達が入れ違うということであり、最も安全な時間帯と言える。

 その事があってか二人は不安はあれど恐怖心というものを覚えずにその足を紅森へと踏み入れていった。


 森の中は狭く、上を見上げれば青空は紅色の木の葉が生み出した点々と空いている穴からしか見ることができない。

 二人が辺りを見渡すとそこには普通の森とは違う独特な自然も見受けられる。

 例えば、人が上に乗って歩けるほどにでかい大木の根っこ。 それは斜面を描いており、そのまま木の上にだって登れそうな程傾いている。

 その他にも木に空いている大きな穴の中から顔を出すウサギのような小動物。


(あれ………この世界に来た時に見たかも………)


 見覚えのあるその姿に少しだけ安心する。


 

 ある程度歩いた頃、今までとは変わって木の葉の紅みがいっそう増してくる。

 歩いている道には褐色なのにどこか鮮やかさを感じる小枝や枯れ果てて枝から落ちてもなおも綺麗な色を保っている木の葉が散乱していて、それらを踏むとパキパキ、パリパリと気持ちのいい音がする。 しかしハンターにとって敵に察知されるような音を出すことはご法度だ、二人はなるべくそれに気をつけて進む。


「初めて入ったけどすごく綺麗ね…………」


 顔を上げて高い木々とそれを彩る鮮やかな木の葉たち、そして木と木を行き交うモモンガのような動物が飛んでいて、それらが織り成す景色にベルカは感動しているようだ。

 普段は少し中性的な言葉遣いだが何か感動したりすると女言葉が出てしまうのだろうか、そんなことをヒロトは心の中でつぶやく。


「こういう所にモンスターがいなかったらなぁ」


「ほんとねー、モンスターがいない世界ってどんななんだろ……やっぱり平和なのかな?」


「そうかもね、でも人同士の争いはきっとそれより激しいと思うよ」


 この世界でも人間はつい最近まで戦争をしていたとルルカ達から聞いているが、それでも今は他種族を受け入れ、戦争をしている国は無いとのことらしい。

 きっとそれは他種族というデリケートな存在と、モンスターという明確な人類の敵がいるからなのだろう。


「戦争かー………どんな感じなんだろう…………」


「さぁね、きっと悲劇に変わりはないはずだよ」


「それよりもベルカ、そろそろこの狭い道も抜けそうだよ!」


 戦争などという陰気な話はここまでにして、ヒロトは歩いている道の変わりようをベルカに伝える。

 それは今までヒロトの左右数センチにはすぐに木々があったのに対し、奥の方を見てみるとそこはかなり開けた空間で、今までよりも巨大で沢山の鮮やかな木々がその空間をドームのように覆っていた。


「うわぁ…………!」


 彩る木の葉の隙間から美しい陽の光が漏れ、外からじゃ見ることの出来なかったその壮大な光景にベルカは思わず感動し、目の当たりにした景観を心に刻んだ。

 それにはヒロトも胸がジーンとなり、男なら余計に大きくて壮大なものには感動する。


 遂に狭く窮屈だった道を抜けて、開けた場へと足を運ぶ。

 よく見ると地面にはやたら高低差があって、ちょっとした谷や手前の足場から向こうの足場に架かる天然の岩の橋、更その橋の向こうには川が流れていて、どうやらもっと奥には滝があるのようだと二人は考える。


「どうしよう?川に沿って行ってもきっと例の泉じゃなくて滝に着いちゃうよね?」


「続いてそうな道がたくさん見えるからわかんないね」


「どうせ奥に行くだろうし、川沿いに行こうか?」


 どうやら微かに見える広場の最奥には岩で阻まれた多数の分かれ道があるようで、そこをしらみ潰しに行くようであれば最早川沿いに進んだ方が楽なのではとヒロトは考え、ベルカもそれに同意して二人は岩の橋を不安そうに渡りきって、川沿いを進んでその広場から出た。




────────────────────────







 二人は適当にだべりながら紅森を川沿いに進んでいる。 決してうるさい程の声ではないが、少なくとも小さいとは言えない声で。


「それで────────!?」


「!」


 突如、楽しそうに会話していた二人の表情は一変し、それは真剣なものとなる。

 一体何があったか、それは。


「この音…………………何?」


 二人が会話している途中、森のどこからかその音は聞こえた。 トサトサ、そんな軽い音が森全体に小さく、しかしヒロト達には大きく鳴り響いた。


「………ベルカ、この音なんだと思う?」


「さ、さぁ……………?」


 二人は聞きなれない、イレギュラーなその音に不安を抱き、警戒する。

 首をかなりの頻度で左右、前方と後方に動かし、周りを見回すがどうもその正体は掴めない。

 遂にはその場に足を止め、せめてもの安心感を得る為に二人は姿勢を低く、つまりはその場にしゃがんだ。


「横の木に近づこう……………」


「うん………………」


 二人にしか聞こえない程の声で話し、ゆっくりと音を立てないように、そばにある低木に囲まれた木の根元まで近づいて、二人は隠れるようにそこに体を預けた。

 依然その軽い、怪しげな音は二人の耳から離れることはなく、不安を駆り立たせる。


 次第にその音は大きくなる。 なんだ、この音の正体はなんなんだ、そればかりを二人は答えが出るわけでもないのに考えるのだ。

 だがその思考も遂には必要がなくなる。 つまり、その正体が自ら明かしてくれるのだから。


「あ、──」


 小さく間の抜けた声を出したヒロト。 そうしながら見たものは───

 

「肉、食…………モンスター………!」


 正直、わかってはいたことだ。 この森の中、あんな軽くてテンポを持っているような音が聞こえてくるということは即ち、足音以外の何物でもないと。


「気づいてない……?」


 モンスターはどうやら川の水を飲みに川へ来たらしく、幸い二人には気づいてない様子だ。

 ヒロトはこのままあのモンスターが水を飲み終え、どこかへ行くまでじっと待つことにした。


 じっと、じっと待つだけ。 弱い二人にはそれしか取る方法がないのだ。

 あの時倒せたのも火事場の馬鹿力、もっと言えばまぐれだった、少なからず抱いている恐怖の前でヒロトは目の前のモンスターと戦わない理由付けを頭の中でする。


 これで良いのだ、まともな装備をしていない状態で戦うのはそれこそバカがすることだ。

 この依頼を達成することが出来れば二人分の装備が整う、それでこのモンスターを倒すことが出来ればいいのだから。


 そうやってずっと考えていると、モンスターは川につけていた口を満足げに離し、そのまま川から身体を退かせる。


(やっとか……………)


 そう思い安堵したその時、ピクリとモンスターは頭を動かし、なにやら鼻をスンスンと動かしている。


(やめてくれ……)


 嫌な予感がする。 長いことそのモンスターは鼻を動かし、その顔をぐるんとこちらに持ってくる。


(やめてくれ…………!)


 低木の葉に囲まれて隠れている二人にモンスターはどんどんと近づいてくる。

 心の中で何度も退け、退けと念じるばかりで、ヒロトは何も行動には移せない。

 恐怖で体が震え上がり、もうダメだ、そう思ったその時──


「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 なんと、ベルカがとっさに剣を抜きつれて、そのモンスターに飛びかり、斬りつけたのだ。

 いきなりの事で当然ながら驚いたヒロトだが、それはモンスターも同じなようで、混乱して飛び跳ねている。

 そしてベルカが二度目の攻撃をお見舞いしようとしたその時、モンスターは冷静さを取り戻してその尻尾をとてつもない速さで振り回し、ベルカの身体を吹き飛ばした。


「ベルカァァァ!!」


 ヒロトは直感的にまずいと感じた。

 ベルカが吹き飛ばされた方向は非常に急な斜面になっていて、ゴツゴツした岩や木が生えている。 そんなところを転がりでもしたら怪我では済まされない。


(ベルカ──!)


 吹き飛ばされるベルカの元へヒロトはとっさに飛び込んで、その身体をがっしりと掴む────が、


「ぐあぁぁぁ!!」


 宙に浮き、ベルカを抱き抱えるヒロトの背中にモンスターが体当たりをしたのだ。

 そのあまりの威力にヒロトは押し出され、その斜面を転がり落ちて行く。


 それをモンスターはじっと見つめるだけだった。




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