第二章22『難敵のゴング』
出戻りとなったあの崖からまた骸骨と遭遇した場所へと戻り、二人は未だに遭遇できないハンター達を探し続けていた。
「これこれ、こいつが気になってたんだよ」
骸骨を持ち運ぶ際にちょうど置いて行った剣をマレッカは拾い、眺めながらそう呟いた。
「骸骨が持ってたやつだよね……なんで気になってたの?」
「なんつーかさ、やたら質が良く見え──なっ、なんだ!?」
構えたり、両手で握って顔の前に剣の腹を顔に近付けたりしていると、その剣は紫の煙とともに姿を消してしまったのだ。
「え、溶けた?」
「溶けたっていうか、消えた? この煙……前も見たよな」
前回の探索で見覚えがあるものとすれば、とある扉の上にはめ込まれていた"目玉"だろうか。
あれをヒロトが剣で貫いた時、似たような色の液体が地面に落ち、そして煙へと姿を変えたのだ。
だがそればかりを考えていたって本来の目的からは逸れるばかりで、気を取り直そうと二人はそこから歩き出す。
「あの目玉ぐらいだと思ってたけど……ていうかさ、剣が煙に変わっちゃうなんておかしな話だよね」
数分歩いたところで、ヒロトが話を蒸し返した。
二人が移動する際はそれにほとんど間がなく、モンスターが出てくる場所でなんとも緊張感のないことたが、寧ろそれが心の余裕に貢献しているのかもしれない。
「不可思議なことだらけ……だからこそダンジョンってことだ」
「ちょっとよくわかんないけどさ」
迫真のキメ顔を向けて放った言葉を人蹴りされた気分は如何なるものなのだろうか。
マレッカは不服な顔で舌打ちをし、爬虫類のような瞳をヒロトの顔から逸らしてしまった。
「あ、えっと……ごめんごめん! 面白かったよ!」
「ウケ狙いじゃねぇよ!!」
「あわっ、ごめん!」
自分の発言に後から羞恥心を覚えたのか、顔を赤くしたマレッカは謝るヒロトの肩を軽く殴りながら怒りを散らす。
「もういい! あと十分の間に他のハンターが見つからなかったら俺様は帰る!」
「嘘でしょ!? なら早く探さなきゃ!」
そう言われるとヒロトは焦りを露わにし、未だ隣で顔を赤くしているマレッカの手を引いて走り出した。
(勢いで言っただけだが……従うつもりなんだな、こいつ)
帰ることに対してやぶさかではないのか、それとも単なるバカなのか。
もし前者の思惑があったのだとしたら、ヒロトは相当な食わせ者ということになるだろう。
「つーか、俺の手首さっさと離せよな。 急にモンスターに襲われでもしたら危ねぇだろ」
「ハアッ……それもそうだね、わかった!」
ヒロトは息を切らしながら掴んでいた腕を離し、「やっとまともに走れるようになった」と、マレッカはため息をついた。
息切れとため息──同じ"ハァ"でも二人のスペックの差が見てわかる。
「お前、あんまり笑わないよな」
「えっ?」
ダンジョンに来てからというもの、二人の顔にはあまり笑顔が見られない。 というより、ハンターという職業自体が笑顔に乏しいものなのだろう。
「いきなりどうしたの?」
「別に。 単にそう思っただけだ」
モンスターの命を奪い、その度に己の命を削るような思いをする職業だ。
強いハンター達はその苦労を魂の成長に繋げることが出来るのだろうが、弱者に限ってはそうではない。
弱者は日を重ねる毎に傷を増やし、それらが癒えぬ間に命の灯火が吹き消されてゆくのだ。
そんな中で、依然として強いとは言えない彼らに笑顔なんてものが簡単に宿るはずがない。
「僕も……なんとなくそんな気はしてるんだ」
「やっぱ自覚あんのかよ」
「うん──ほら、笑えるほど余裕がないって感じ?」
弱さ──それは決して悪いことではない。 だが、弱いままではどうにもならないのも事実である。
弱いが故に余裕が失われ、笑顔が消え、ストレスだけが溜まりゆくままではいずれ人は破綻するだろう。
「そうかよ」
「自分から聞いたのに淡白だね……」
愛想悪く相槌を打ったマレッカだが、その表情は無関心というものとはもっと別の感情が込められているように思えた。
「──ん?」
「どうしたの?」
「遠くで何か鳴ってねぇか? 耳すましてみろ」
そう言われたヒロトは目を閉じて聴覚に意識を集中させる。
すると、確かに妙な音が遠巻きに聞こえてきた。
「あの坂道の奥から鳴ってない? もしかしたら……」
「モンスターかハンターか、だな」
音の正体がモンスターではないことを祈りつつ、二人はそれなりに急な斜面を持つ坂道を下り始めた。
腰を折ってバランスを取りながら歩いている途中で何度も"金属音"のようなものが聞こえてきて、次第にそれは大きくなっていった。
「マレッカ、あれ見て!」
斜面を下り終えた辺りで二人は鳴り響く音の原因を目の当たりにする。
そこに広がっていた光景は、『一人のハンターと禍々しい姿をしたモンスターの争い』だった。
「戦ってんのか……!」
「早く助けなきゃ!」
ここに来た目的を果たすため、二人は武器を取り出してモンスターと戦うハンターの援護に向かった。
やや押され気味のハンターに"刃を向けるモンスター"の前に立ち塞がり、ヒロトはそれに対して抱いた少しの恐怖心をなんとか噛み殺す。
『コー、ホー』
咄嗟に現れたヒロト達にそのモンスターは驚き、"趣味の悪いマスク"の下から荒い息を鳴らして警戒するかのように動きを止めた。
だが、モンスターはすぐに己の持つ"剣"を元々いたハンターを含めた三人に向けて戦闘の意思を見せる。
「ッ! 君たちは誰だ!?」
駆けつけた二人に息切れを交えた声で素性を問うのは、先程までモンスターと剣を交えていたハンター。
いつか見た気のする灰色の髪が特徴的なその姿に、ヒロトは一瞬だけ目を奪われた。
「んなことは後にしろ! まずはこいつぶっ殺すぞ!」
「…………それもそうだね、手を貸してもらうよ!」




