第二章20『バトル=スカル』
例の壁を乗り越えてから十数分が経過した頃だ。 今までとは少しばかり低い天井が、二人の心を不安にさせていた。
それもそのはずだ。 もしも閉所でモンスターと出くわすことがあったのならば、その時は不自由な戦闘を強いられることになる。
逃げ場も相対的に小さくなるし、味方に攻撃が当たらないようにする配慮も他より気をつけなければならないのだ。
「ダンジョンの先に進む道はここか、前に渡った狭い足場のどちらか。 あのハンター達はどっちを選んだんだろうな」
「あの足場、距離は短かったけど凄い狭かったからなぁ……」
足の半分程度の大きさしかないような道を命綱無しで渡るなんてことは、命を捨てることに近い行為であると二人は心得ている。
実際に渡った時も、心の中では相当無理をしていたのだ。 それ故に、ヒロトはダンジョンに向かったハンター達があのルートを選んでいると考えることがなかなか出来なかった。
「やっぱりこっちを進んでいると思うか? あん時すぐに諦めた俺達が異常だったってことだな」
少し頑張れば登ることの出来た壁だが、それを選ばなかったが故に化け物と出くわしたことをマレッカは後悔していた。
が、そんなものをすぐに忘れさせるものと二人は出会うことになる──否、出会った。
「──マレッカ、モンスターだ」
突如現れたたった一つの影が、二人の行く手を阻んだ。
ヒロトは小さく耳打ちをしてそれを知らせ、カンテラを前に突き出してその影の正体を見破ろうと少しずつ前へと歩く。
すると──
「骸……骨、か?」
「嘘でしょ……騎士の格好してるし完全にヤバい敵じゃんか」
影が晴れた敵を目の当たりにした瞬間、二人はあることを数秒の間に考えた。
『ダンジョンのモンスターは、外のモンスターとは別物である』と。
誰だってそう考えるはずだ。 この世界のモンスターは、言ってしまえばヒロトの世界の動物と変わりはない。 血も肉も臓器も失った人の残骸が鎧を身につけ、剣を引きずりながら彷徨うなど、自然の摂理に反しているからだ。
「おい、焦ってる暇はねぇぞ。 さっさとあいつを殺すんだ!」
「もう死んでると思うんだけど……!」
息巻いたマレッカは言葉を言い終わる前に骸骨の元へと飛び出し、顔面を剣で斬りつけた──はずなのだが。
「ハァ!? なんで傷ついてねぇんだ──グハッ!」
普通、白骨化した肉体など鋭利な剣を一度でも振りかざせば少なくともヒビは入るはずだ。
それなのに、目の前の骸骨の顔には擦った後すら残りはしなかった。
盾で吹き飛ばされたマレッカは殴られた腹を抑え、悶えながらもその視線を骸骨からは話さなかった。
「この骸骨ッ!!」
『────』
「うがっ!」
仇討ちとばかりにヒロトは全力を込めた攻撃を放ったが、これも無意味に等しい。
盾で防がれ、骸骨による蹴りをヒロトはモロに喰らってしまい、壁沿いへと弾き飛ばされた。
(待ってよ……あの骸骨、相当強いんじゃない!?)
出鼻をくじかれる、そんな気がした。
もう少し戦ってみる必要はあるが、それでもしダメージを与えられなかったら──その時はきっと、また尻尾を巻いて帰るのだろう。 自分でも情けないと思いつつ、ヒロトは立ち上がってマレッカの元へと走る。
「マレッカ、立って! 二人がかりならちゃんと勝てるはずだ!」
「イテぇな……わかってるって」
なんとか骸骨を前に体制を整えることができ、またそこからどうやって攻めようかを二人は悩んだ。
「本体が馬鹿みてぇに硬いんだったら……あの防具と剣をぶっ壊すのが先か」
「どこから削っていく?」
「最初は剣だ。 今の俺達じゃあれを振り回された時点であの世に直行だからな」
未だ使われていないあの剣だが、マレッカはそれを相当な業物と見た。
だからそれを真っ先に壊さねば、生き残る確率など皆無に等しいと考えたのだ。
『────』
小声で作戦を練っていると、それを邪魔するが如く骸骨は二人の前に飛びだし、剣を天から地へと叩きつけた。
「危ねっ!!」
「危っ!!」
まるでパピコのように攻撃を間一髪で交わし、二人は散り散りとなった。
骸骨を挟んで剣を構える──一見すると有利な構図ではあるが、果たしてそれを上手く扱える程に彼らが強いのかどうか、それが問題だ。
「ヒロト、側面から剣を叩け!」
指示を受け、骸骨がスカスカの手で握る剣をヒロトが攻撃する。
渾身の力で叩きつけたはずだが、それでも骸骨は剣を握りしめたままだった。
(クソ……簡単に手放しはしないね)
今の攻撃によってヘイトを稼いだヒロトは骸骨と向かい合わせになり、そこからどう動くべきなのかを焦りながらも未熟な頭で探っている。
「こっち向いとけよッ!」
今度はマレッカが骸骨の手元に攻撃を仕掛けたが、やはりそれでも状況は変わらなかった。
「テメェ……盾を振り回すのはやめろっての!」
骸骨による盾の反撃を回避しつつ、マレッカは軽口のように文句を放った。
その隙にまたヒロトが骸骨の手元を斬りつけるが、まだ力が及ばない。
もう一度二人は隣り合わせになり、自分達が置かれている状況は非常に不利だということを静かな目線を通じて確かめ合った。
「──まずい状況、だよね?」
「逃げられるっちゃ逃げられるかもしんねぇけど……お前、どうする?」
「逃げないよ」
「そうだな、それでいい」
ヒロトの中で、戦う選択肢は揺るぎないものだ。 見捨てたハンター達の助けになる為にもう一度ダンジョンへやってきたのに、またそこから逃げ出すだなんて──人として、そうはありたくないという想いなのだ。
「なんだか茶番みたいだけどさ、僕はもう……逃げちゃいけない気がする」
「茶番でいいだろ。 この骸骨をぶっ殺して、ハンター共を探しに行くぞ!」
抜き連れたそれぞれの剣を目前の敵に構えて、二人はハンターとしての誇りに、人としての意地に火をつけた。
「「──行くぞッ!!」」
飛び出し、骸骨を中心に双方に分かれ、二人は難敵に戦いを挑んだ。




