迷い込んだ声
少女はゆっくりと口を開いた。
声は小さく、しかしはっきりと森に響く。
「迷ったんじゃない。貴方に会いに来たの」
『何か』は、その言葉に静かに耳を傾ける。
潰れた瞳が、わずかに揺れる。
「僕に……会いに?どうしてかな?」
少女は視線を落とさず、淡々と続ける。
言葉の端々に、冷たい風のようなものが混じる。
「私、他の人間とは違うの。いつも、みんなに『おかしい』って言われる。誰も、私の心をわかってくれない」
寂しげな瞳。
けれど、その奥に宿るものは、
悲しみだけではない。
『何か』は思う。
――似ている。
少女はさらに言葉を重ねる。
声に、かすかな熱がこもり始める。
「私は人間が嫌い。だから、この森に『人間ではない何か』がいるって聞いて、私の心を、わかってくれるかもしれないと思ったの」
『何か』は静かに頷く。
想いを、潰れた瞳に込めて。
「うん。君も、辛いみたいだね。お話、聞かせて……?」
少女は俯き、唇を軽く噛む。
そして、ぽつりと零す。
「私ね……今日、お友達と喧嘩になったの……」
『何か』は穏やかに返す。
森の風が、言葉を優しく運ぶように。
「うん。どうしてお友達と喧嘩になっちゃったの?」
少女の指が、黒い服の裾を強く握る。
涙が、一粒、頰を伝う。




