呪われた森の住人
ここは、呪われた森と呼ばれる場所だった。
人々は決して近づかない。
「あの森の奥には、人間ではない何かがいる」と、誰もが口を揃えて囁く。
いつしかその言葉は、ただの噂ではなく、確かな恐怖として根を張っていた。
その「何か」は、人間の輪郭を借りながら、決して人間ではない存在だった。
二本の腕、二本の脚と、人間と共通した部分はそんざいする。
しかし肌は赤黒く沈み、口はねじれ、瞳は潰れたように窪んでいる。
そんな姿を、誰もが直視できはしない。
それでも、その心は、人間とは変わりなかった。
風が頰を撫でる柔らかさを、静かに味わう。
木々が揺れる音に、かすかな調べを感じる。
陽の光が葉を透かして落ちる瞬間を、温かく、惜しむように見つめる。
街のことなど知らない。
知らないということも、また人間と同じだ。
目で見たことも、肌で触れたこともないものに対して、
人はただ、わからないと呟くだけ。
茂みが小さく震えた。
『何か』は視線を移す。
人間と同じように。
そこにいたのは、ボロボロの黒い服を纏った一人の少女だった。
『何か』は、息を呑む。
驚きもまた、人間と同じだった。
ゆっくりと口を開く。
潰れた瞳に、かすかな光が宿る。
「どうしてこんなところにいるの……?迷子、かな?」
声は低く、穏やかで、
森の奥に溶け込むように響いた。




