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勇気

焚き火の小さな炎が、森の静寂の中でぱちぱちと弾ける音を響かせていた。セリーヌはその揺れる炎を見つめながら、かじかむ手を火にかざした。エルウィンはそばの木の枝にとまり、青い瞳で彼女をじっと見守っている。


セリーヌは少し笑いながら、独り言のように言った。


「ねえ、エルウィン。私、何も覚えてないのに、なんでこうして歩き続けてるんだろうね。どこに行けばいいかも分からないのに。」


エルウィンは何も答えない。ただ、翼を少し広げて羽毛を整える動作をした。その仕草が、まるで「まだ休むな」と言っているようで、セリーヌは小さく笑った。


「分かってる。止まるわけにはいかないよね。」


夜が更け、焚き火が小さくなってきた頃、セリーヌはふと立ち上がった。エルウィンも動きを止めて彼女を見つめる。彼女は星空を見上げながら呟いた。


「星って不思議だよね。見上げていると、なんだか小さな頃を思い出しそうになる気がする。」


しかし、どれだけ思い出そうとしても、記憶は霧の中に隠れたままだ。セリーヌは拳を握りしめた。どこかにいるはずの「家族」。彼らは一体どんな人たちなのだろうか。


「もし星が願いを叶えてくれるなら…私は誰かに出会いたい。ただ、自分を知る手掛かりをくれる人に。」


エルウィンは羽ばたき、セリーヌの肩に降り立った。その軽い重みが、不思議と彼女の心を少しだけ軽くした。


翌朝、セリーヌは険しい山道に差し掛かった。冷たい風が吹き抜け、岩肌は凍り付いて滑りやすい。足元に気をつけながら進んでいると、遠くからうなり声のような音が聞こえた。


「何…?」


音の方向を見ると、谷間の向こうで何かが動いている。狼だ――しかも数匹いる。セリーヌは息を呑み、エルウィンをちらりと見た。


「どうする?逃げる?でも、後ろには戻れないし…」


エルウィンは翼を広げ、空へと舞い上がった。その動きに導かれるように、セリーヌは慎重に岩陰へ身を潜めた。しかし、狼たちは鋭い嗅覚で彼女の存在を察知したのか、こちらに向かってきている。


緊迫の中、セリーヌは震える手で岩を握りしめた。


「怖がらないで…何かを守るには、強くならなきゃ。」


その言葉はアデラの教えだった。セリーヌは深呼吸をし、狼たちが迫る中で岩を投げつけ、威嚇するように叫んだ。


「来ないで!私は負けないから!」


その時、上空を舞っていたエルウィンが鋭い鳴き声を上げた。狼たちは一瞬ひるみ、その隙を見てセリーヌは別の方向へ走り出した。エルウィンが彼女のすぐ頭上を飛び、導くように先へと進む。


数十分後、セリーヌはようやく安全な場所にたどり着いた。息を切らしながら振り返ると、エルウィンが静かに降り立ち、再び彼女の肩に乗った。


「ありがとう、エルウィン…本当に、あなたがいなかったら私は…」


彼女の声は震えていたが、エルウィンの温かな存在がそれを癒してくれるようだった。


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