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エルウィン

セリーヌと白い梟は雪原を進み続けた。風は冷たく、時折吹雪が視界を奪う。それでも、彼女は諦めなかった。肩に乗った梟――まだ名前のない相棒――の存在が、奇妙なほど心強く感じられたからだ。


ある日、セリーヌは木々が密集した森の中に入った。雪の量は減ったが、その代わりに風が遮られ、しんとした静けさが広がっている。その中で、梟はセリーヌの肩から飛び立ち、前方の木の枝に止まった。


「また急にどこか行っちゃうつもり?」


彼女が冗談めかして言うと、梟は振り返り、まるで「ついて来い」とでも言いたげに翼を広げた。仕方なくセリーヌはその方向に歩き出す。やがて、森の奥で彼女は古びた泉を見つけた。周囲には凍った水面を覆うように氷の結晶が輝き、不思議な雰囲気を醸し出している。


梟が泉の縁に止まり、静かに水面を見つめている。セリーヌもそっと近づき、氷を割らないよう慎重に泉を覗き込んだ。そこには、自分と梟の姿が映り込んでいたが、なぜか彼女の記憶の中にはない風景もちらりと見えた。


「この泉…何かを映しているの?」


不思議に思いながらも、その場に立ち尽くしていると、突然梟が低い声で「フッ」と息を吐くような音を立てた。その瞬間、セリーヌの脳裏に言葉が浮かび上がる。


「エルウィン…風を纏う者。」


彼女はハッとして梟を見つめた。もちろん喋っているわけではない。それでも、その名前が不思議なほど自然に彼女の心に響いた。


「エルウィン…それがあなたの名前なの?」


梟は再び静かに彼女を見つめた。その目には否定も肯定もない。ただ、青い瞳に宿る穏やかな光が、彼女の心に確信を与えた。


「そうだね。これからはエルウィンと呼ばせてもらうよ。」


彼女が微笑むと、梟――いや、エルウィンは一度翼を広げ、軽く羽ばたいて彼女の肩に戻った。まるでその名前を受け入れたことを示すかのように。


それから数日が経ち、セリーヌとエルウィンは次の目的地を目指していた。道中、セリーヌはアデラの教えを思い出しながら、自分の足で歩み続ける意味を問い直していた。


「人はね、どれだけ辛くても、笑うことを忘れちゃいけないんだよ。」


アデラの言葉を思い返しながら、セリーヌは時折エルウィンに話しかけた。


「ねえ、エルウィン、どうしてあなたは私についてくるの?本当は私よりも自由に空を飛び回りたいんじゃない?」


エルウィンは答えない。ただ、翼を少し広げて彼女の髪を撫でるように動かした。それを見たセリーヌは、ふっと笑い声を漏らす。


「そっか、私のこと見張ってるのね。頼もしい相棒だわ。」


その夜、二人は森の外れに辿り着いた。焚き火を囲んで暖を取る中、セリーヌは初めてエルウィンの羽毛をそっと撫でた。冷たくて柔らかい感触が心地よかった。


「エルウィン、ありがとうね。あなたがいなかったら、私はきっとここまで来られなかった。」


言葉の意味を理解しているかは分からない。それでも、エルウィンが静かに彼女の手に寄り添う仕草を見て、セリーヌはまたひとつ、孤独から解き放たれたような気がした。


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