13 愛を確かめる2
投げつけた宝石をアレックス王子はキャッチすると何故か妖美に微笑んだ。
「何が可笑しいの?私を騙していて面白かったってこと?」
「違うよ。君が怒っていることが嬉しいんだ」
「はぁ?」
私はこれ以上ないほど怒っているのに何を喜んでいるのかさっぱり分からない。
「怒るって言う事は僕の態度が演技だったことにガッカリしているということだろう?」
「そうよ!誰だって怒ると思うけれど、私はそれ以上に怒っているしガッカリしているわよ!あれだけ持ち上げられたら期待しちゃうじゃない!」
怒りが収まらず大きな声で言うと、ますますアレックス王子は嬉しそうだ。
「期待したという事は、ちょっとは僕の事を意識してくれていたということかな?」
「そりゃ、意識するでしょう!小さい頃憧れだった綺麗な王子様が、大人になって私に甘い言葉を言われたら誰だって期待するわ!でも私は賢いから、きっと惚れ薬の効果が無くなったら私に興味を無くすんだろうなと思ったけれどまさか演技だったとはね」
「僕の事、憧れていたって?」
「そうよ!顔が綺麗なカッコいいお兄さんに可愛がられたら誰だって憧れるわ。でもねぇ、あんまりよ。失礼にもほどがあるわよ!」
「僕に触られるのも嫌なほど嫌いなのかなと思ったんだ」
「はぁ?」
微笑みを深くしているアレックス王子を私は睨みつけた。
触れられるも嫌なんていつ言っただろう。
「だって、僕が抱き上げようとしたら嫌がっただろう?」
「さっきの話?そりゃ、護衛騎士達が居る前で恥ずかしいじゃない!それに雪の中を王子様に抱っこされて歩かせるわけにもいかないでしょ」
怒りに任せて言う私にアレックス王子は嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。僕の事が嫌なわけではないんだね。安心したよ」
「嫌いになることは無いわ!まさか、私が嫌っていると思って怒っていたの?」
「怒る?とんでもない、僕は落ち込んでいたんだよ。愛するレティに嫌われたって」
「もう演技はいいわよ。愛するレティなんて呼ばないで」
嫌味っぽく言い返すとアレックス王子は上機嫌に近づいてきて私を抱きしめた。
アレックス王子の腕から逃れようとするが力が強く抜け出せない。
「惚れ薬を飲んで、薬の影響があるっていうのは嘘だ。でも、レティの事はずっと愛しているのは真実だよ」
「はぁ?私を愛しているって?それは小さいレティの事でしょ。妹のように愛しているって正直に言ったら?そうやって私に期待をさせて面白いかしら?」
ギュッと抱きしめられながらも私は抵抗する。
「それこそ、君がそうやって怒ると僕が期待をしてしまう。レティが僕の事を少しは異性として見てくれているのかってね」
「異性としてって当たり前でしょ!昔からアレックス様は綺麗な王子様で私の憧れだったわよ!いつか結婚したいとか思っていたけれど、私が結婚したからもう諦めたの!」
誰にも言わない私の心のうちを言ってしまい慌てて口を噤む。
「そんな嬉しいことを言われるとは思わなかったな。ならばこのまま結婚しても構わないってことだね」
息ができないぐらい抱きしめらながらも私は首を振った。
「無理よ。ヘレン婦人も言って居たでしょ。離婚歴がある女は貴方の妻には向かないわ」
「そんなことは関係ないよ。僕が君と結婚したいって思っている。誰も文句は言えないしマーガリィ王妃だって賛成していただろう?」
抱きしめられながらアレックス王子は私の顔を見つめてきた。
金色の瞳は真っすぐに私を見つめてくる。
その瞳は真剣で決して嘘偽りをついているようには見えない。
アレックス王子の瞳を見ているとだんだん怒りが収まって来る。
私、何を言っていた?
これではアレックス王子に愛の告白をしたと同じ事じゃない。
なんてことをしているのだと冷や汗が出てくる。
「ちょっと待って、アレックス様はどうして惚れ薬を飲んだ演技をしていたの?そもそも惚れ薬は本物なの?」
頭が混乱しながらも問うと彼はクスリと笑って私を抱きしめている手を緩めてくれる。
「マーガリィ王妃に取り入っているヘレン婦人が僕は本当に大嫌いなんだ」
他人を悪く言う事がほとんどないアレックス王子にしては珍しい。
「どうして嫌いなの?」
「僕はレティシアと出会ってから、君以外と結婚する気も愛することはない。それなのに、自分の娘を僕に嫁がせようと必死にちょっかい出してくるからいい加減嫌にもなるよ」
「えっ?」
私が小さい頃からそんなことを考えていたのかと驚くが、アレックス王子は気にせず話を続ける。
「僕はどうにかしてヘレン婦人をマーガリィ王妃からというか僕の視界から排除したかったんだ。娘を僕の所へ挨拶に来させたり本当に厄介でね。ヘレン婦人の動向を調べていたら怪しい魔女という女と通じていることが分かった」
「解ったわ!その魔女が惚れ薬を作ったのね!」
「そうだよ。その魔女から惚れ薬を買ったというヘレン婦人はいつか僕に薬を入れると思っていた。僕は彼女たちに極力会わないようしていたから、入れるとしたらパーティー中だというわけだ」
「その薬は効いていないのね」
再度確認する私にアレックス王子は頷く。
「魔女は偽物だから。ただ金儲けの為に怪しい儀式をしたり物を売ったりしている。馬鹿なヘレン婦人は大金を積んで惚れ薬を買ったようだよ。僕には全く効き目はなかったけれど」
「効き目が無いのにどうして演技をしていたの?」
「パーティー会場でヘレン婦人が飲み物に薬を入れるところを押さえられなくてね。現行犯逮捕したいからもう1回やってくれないかなと思って、薬が効いている演技をしていればまたやると思うよ」
「まだろっこしいのね」
「でもそのおかげで君を迎えに行くこともできた。薬のせいにすればバカ王子から君を奪い取れると思ったんだ。ただしそんなことは杞憂だったね。ちょうど離婚された現場に行くことができたから。それはヘレン婦人に感謝しよう」
「そうね。あのバカ王子から離れることができて良かったわ」
「レティがバカ王子と本当の夫婦になっていたらどうしようとずっと不安だった」
「大丈夫よ。世界が滅んでもあのバカ王子に惚れることは無いから」
いくら顔が良くても、性格は悪いし、頭も悪い男に惚れることは無い。
言い切る私にアレックス王子は嬉しそうだ。
「愛しているよ可愛いレティ。君は?」
金色の瞳にじっと見られて私は降参する。
「私も大好きよ。綺麗なやさしい王子様がずっと昔からね」
諦めて言う私をアレックス王子はギュッと抱きしめてくる。
「ありがとう、レティ」
感極まって言うアレックス王子の唇を私はそっと受け入れた。