表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/22

12 愛を確かめる

「あの、ありがとう。宝石とっても嬉しいわ」


 アレックス王子に肩を抱かれながら手の平に乗っている綺麗な青い宝石を見つめる。

 愛を示す宣言をしてからアレックス王子は私を離すつもりはないようだ。

 居心地が悪い思いをしながら外に出ると、空は朱く染まっている。


 夕方になり気温も低くなり冷たい山風に思わず身震いをする。


「寒いならもっとくっつけばいいのに」


 寒がっている私の肩を力強く抱き寄せられるが、恥ずかしくてくっつくなんてことは出来ない。

 幼い頃はよく抱きついていたが、23歳にもなってそんな恥ずかしい事は無理だ。

 エドモンド様達の生暖かい視線を感じながら山道を歩く。


 細い道のために馬車では来られず、ふもとの町まで歩かねばならない。

 

 雪道に慣れていない私に合わせてゆっくりと歩いてくれるが、所々凍っていて滑って転んでしまいそうだ。

 プレゼントしてもらった宝石を落とさないように袋に入れてポケットにしまう。


「城に帰ったらその石にあうデザインの指輪を考えよう」


 そうですねと言い切ることができず私は曖昧にうなずいてアレックス王子の腕に掴まりながらゆっくりと歩く。


 このままのペースで歩いていたら日が暮れてしまいそうだ。


 アレックス王子もそう思ったのか空を見上げて立ち止まった。


「日が暮れる前に町へ降りたい。レティを抱き上げて歩いてもいいだろうか」

 

 アレックス王子の言う事はもっともだが、護衛騎士達が見ている前で抱き上げられるのは恥ずかしい。


 幼い頃は何とも思わなかったが、今抱っこされながら歩くなんて恥ずかしくて無理だ。

 綺麗な顔のアレックス王子を見上げて無理だと首を振る。


「アレックス様に抱き上げられるのは恥ずかしいので、護衛騎士の誰かにお願いします」


 助けを求めるように後ろを歩いている護衛騎士を振り返ると一斉に目を逸らされた。

 前を歩くエドモンド様でさえ素知らぬ顔をしている。


「それは無理だ。僕が可愛いレティを他の男に触れさせると思う?」

 

「また惚れ薬の影響が出ている!」


 おかしな言動をするアレックス王子に驚いている私を抱き上げようと背中に手をまわしてくる。


 アレックス王子だけは恥ずかしくて無理!

 彼の手から逃れようと数歩下がったところで足が滑った。


 ズルッという音と共に後ろに倒れる。

 なんとか踏ん張ろうと片足を出したがそこには地面が無くバランスをますます崩した。

 後ろ向きに細い道から下へと落ちる。


「ギャァァ。落ちる!」


 必死にもがく手をアレックス王子が掴むが彼もそのまま一緒に落ちてきた。

 

 ズズズッと雪を全身で感じながら崖を落ちていく。



 しばらくすると落ちる感覚が止まり目を開ける。

 真っ暗だったが、アレックス王子に抱きしめられていることに気づき慌てて視線を上へと上げた。


 全身雪まみれのアレックス王子は軽く雪を払うと私を見つめる。


「怪我は?」

「わからないけれど、大丈夫。アレックス様は?」


 彼が守ってくれたのだろう、全身に痛みも寒さも感じない。


「僕も大丈夫だ。雪がクッションになったな」


 金色の瞳が私を見つめてお互い怪我無いことを確認して安心する。

 

「アレックス王子!無事ですか!」


 上から騎士達の大きな声で呼びかけている。


 アレックス王子は片手を上げて騎士達に合図を送った。


「無事だ。レティも怪我は無い。ただ、お前たちがここを降りるのはリスクがあるな」


 騎士達が居る場所を見上げるとかなりの距離が開いている。

 あの長さを落ちてよく無事だったなと呆然とする。

 確かに騎士達が降りてくるのは危ないだろう。

 私たちが無傷だったのは奇跡に近い。


「アレックス王子!もうすぐ日が暮れます。右奥に山小屋があるのでそちらで凌いでください。日が昇ったらすぐに迎えに行きます!多少雪かきが必要なために夜間の救助は難しいです」


 エドモンド様が心配そうに上から顔を出しているがすでに日が落ち始めて良く見えない。

 アレックス王子は頷くと立ち上がって私を立たせた。


「仕方がない。レティと二人っきりで過ごすとするか。歩けるか?」


「大丈夫」


 体についた雪を払いながら確認をするがどこにも怪我をしていない。

 アレックス王子も雪を払って私に手を差し伸べた。


 その手を掴むとアレックス王子はゆっくりと歩き出す。


「日が完全に沈む前に山小屋に行こう」


「はい」


 歩き出した私たちに騎士の人達が声を掛けてくれる。


「お気を付けて!必ず明日迎えに行きます!」


 アレックス王子は軽く手を振ったので私も手をふった。


 薄暗くなってきた雪が積もったままの山道を歩く。

 山の麓に小さな小屋が立っているのが見えた。

 

 「あの小屋かしら?!」


 私が声を掛けるとアレックス王子は疲れたように頷いた。

 どうも口数が少ない気がするが、どこか怪我をしているのだろうか。

 彼の様子を見るが、歩き方には特に異変は無い。


 アレックス王子は黙ったまま私の手を引いて小屋の方へ歩いて行く。

 雪かきがされているわけではないので、足を取られなかなかたどり着くことができない。

 息を切らせながら歩いていると、雪が降って来た。


 薄暗い空を見上げると、晴れていたはずなのにいつの間にか黒い雲に覆われている。

 

 手を出してチラチラと落ちてくる雪を受け止めた。

 雪はすぐに融けて消える。

 

 山小屋の入口にたどり着くころにはチラチラ舞っていた雪は本格的に降り出していた。

 

 吹雪のように降り出し視界も悪くなりかけたころやっと山小屋のドアを開けることができた。

 山小屋の中は想像していたよりも一部屋だけだが広く、バストイレも完備されている。

 山小屋という名の別荘という感じだ。


 私が部屋を見回している間にアレックス王子は暖炉に火をつけてくれる。

 暖炉に火が入ったおかげで部屋の中が暖かくなり私は一息ついて椅子に座った。


「よかった。無事にたどり着くことが出来て」


「そうだね」


 いつも微笑んでいるアレックス王子の表情が暗い。

 

「アレックス様、どうかしました?体調が悪いとか、さっき落ちた時にどこか痛めたのかしら?」


 無表情のアレックス王子ほど怖いものは無い。

 いつもにこやかな人が笑みを無くしているととても恐ろしい。

 何か起

 怒らせるようなことをしたかしら。


 不安になり自分の行動を振り返るが、気分を害することしかしていないような気がしてくる。

 宝石を買ってくれるところまでは普通だった。

 歩き出した時だろうか。


 考えても自分の悪いところしか思い浮かばないのでこうなったら謝る事にする。


「あの、アレックス様。何か私が悪いことをしたようで、ごめんなさい」


 おずおずと立ったまま窓の外を見ているアレックス王子の後ろから声を掛ける。

 窓の外は先ほどよりも雪が横殴りに吹雪いているのが見えた。


「レティが悪いわけじゃないよ。謝ることは無い」


 そう言ってくれるが声が固いアレックス王子の様子に泣きそうなる。

 いつもの様子に戻ってほしい。

 

「あの、もしかしたら惚れ薬の効果が切れたとかある?」


 もし、惚れ薬が切れたとしたら私なんかに愛を囁いていた自分に嫌悪感を示しているとか、私と一緒に居る状況に腹が立っているなど考えられる。

 

「惚れ薬?あぁ、そうか。そういう設定だったね」


 今思い出したというようなアレックス王子の言葉に私は凍り付いた。


「設定?」


「そうだったね」


「と、言う事は私、騙されていたって言う事?」


 自分でも驚くぐらい地を這うような低い声が出る。

 愛するレティなんて言われてちょっと浮かれていたのは事実だ。

 

 惚れ薬の影響が無くなったら、私に興味は無くなると思っていたがまさか演技だったとは。


 沸々と怒りがこみ上げてくるが、それよりも落胆の方が大きい。


 私の様子が可笑しいことに気づいたアレックス王子はハッとして振り返った。


 きっと私の顔は鬼の様な顔をしていると思う。

 バカ王子が人形のようで怖いと言っていた顔だ。


「私を騙していて楽しかった?ちょっと浮かれていた私がバカみたいじゃない!」


 惚れ薬の影響でもなくアレックス王子が演技をしていたなんてあんまりだ。

 演技かもしれないと少しだけ考えていたが、実際本人からそう言う設定だったと言われると傷つく。

 

 涙を堪えながら大切にしまっていたポケットの中の宝石を取り出した。


「こんな宝石を買ってくれて!なにが婚約指輪にしようよ。薬の影響だったのならまだ許せるけれど、私を騙していて楽しかった?」


 大きな声で怒鳴りつけて私は思いっきり宝石をアレックス王子に投げつけた。


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ