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11 ラーク領へ

 晴れの日が続いているが、大雪は解けず積もっている。

 雪の中、馬車を飛ばしてラーク領へと私とアレックス王子はやって来た。


 もちろんエドモンド様も一緒だ。

 

 領地に帰って来たエドモンド様はキラキラしていてとても嬉しそうだ。


「アレックス王子とレティシアちゃんを案内出来て嬉しいよ」


 雪の中でもサクサクと歩いて行くエドモンド様の後姿を見て私はため息をついた。

 後ろ姿でもエドモンド様はとても素敵に輝いている。


「元気ね。私は雪の中を素早く歩けないわ」


 隣に立っているアレックス王子は笑みを浮かべながらさっさと歩いて行くエドモンド様を見つめている。


「久しぶりの実家だから嬉しいんだろうね。しばらく帰っていないようだったからね」


 日帰りしようと思えばできる距離だが、マーガリィ王妃の護衛は忙しいのだろうか。

 ただの騎士の兄なんかは年中家に帰ってきている。


 城から馬車に乗り数時間、山に囲まれたラーク領はエドモンド様の実家の領地だ。

 エドモンド様の美しいお姉さまはお嫁に行って居ないが、お父様とお母さまはご健在のようで、この先の採掘場で私たちを待っているらしい。


「雪が凄くて歩くのがやっとだわ」


 かろうじて雪かきしてある細い道を歩いて行くが、なんせ山の中だ。

 雪の上を恐る恐る歩いている私をアレックス王子は目を細めて見ている。


「雪の中歩くレティは可愛いね。小動物のようだよ」


「アレックス様は良く平気ね」


 エドモンド様のようにスタスタ歩いているアレックス王子を振り返る。

 後ろに居る護衛騎士達も難なく歩ているところを見ると私だけ苦労してるようだ。


「雪に慣れているからかな」


 アレックス王子は私に手を差し伸べてくれたので、ありがたく手を掴んだ。

 王子に掴まりながら何とか歩いて採掘場の入口までたどり着く。


 岩山に大きな穴が開けてあり、その入り口にエドモンド様は立って手を振っていた。

 その横には、エドモンド様によく似たご両親の姿も見える。


 私たちの姿を見て両親も手を振ってくれている。

 アレックス王子が降り返さないので私は笑みを浮かべて手を振り返した。

 

「アレックス王子、久しぶりねぇ。何年振りかしら」


 エドモンド様の元にたどり着くと美しい女性がアレックス王子を抱きしめた。

 アレックス王子も嫌がることなく抱きしめ返す。


「久しぶりだね。忙しくてなかなか会えなくて悪かったね。今日は僕の将来のお嫁さんを紹介しようとわざわざやって来たんだよ」


 そう言って腕にしがみついていた私を見た。


「まぁ、噂のレティシアちゃんね。小さい頃からかわいい子が居ると聞いていたけれど、本当にお人形のように綺麗な子ね」


 お嫁さんという言葉に引っかかりつつも私は笑みを浮かべて軽く頭を下げる。



「始めまして。レティシアと申します。小さい頃からアレックス王子とエドモンド様にはお世話になっております」


「僕の母親は早くに死んでしまったけれど、第2の母はエドモンドのお母さんだね」


「マーガリィ王妃よりお母さんと思ってもらえてうれしいわ。私の乳で育てたから私も息子と思っていますけれど」


「マーガリィ王妃は母と思ったことは一度も無いね」

 

「そうよねぇ」

 

 ホホホっと上品に笑うが、きわどい会話過ぎて私も笑っていいものか迷ってしまう。

 隣に立っているエドモンド様も笑っている。

 

「そのマーガリィ王妃の誕生日プレゼントを買いに来たんだけれど適当に見繕ってよ」


 どうでもいいように言うアレックス王子にギョッとしていると、金色の瞳が私を見つめた。


「レティには僕がとびっきりの宝石を買ってあげようと思っているんだ」


「王妃よりレティシアちゃんの為にわざわざこんな田舎まで来たってことね」


 エドモンド様のお母さまの言葉にアレックス王子は笑う。


「そうだね」


「そうなの?!」


 驚いて声を上げる私にアレックス王子は美しく微笑んだ。


「とびっきりの宝石で婚約指輪を作るために来たんだよ」


「ひぃぃ。やっぱり、惚れ薬の影響が出ていますね!何もかもすっ飛ばして結婚とかアレックス王子らしくないわよ」


 しっかりしているアレックス王子がこんなことを言うはずがない。

 驚いているのは私だけで、エドモンドのお母さまはニコニコ微笑んだままだ。


「まぁ、婚約指輪をここで買っていただけるの嬉しいわ。ぜひ良い宝石を選んでね」


「スターが入った石は最近出た?可愛いレティはそれが欲しいらしい」


 アレックス王子とエドモンド様は会話をしながら採掘場の中へ入っていく。

 誰も私とアレックス王子が結婚するかもしれないということに疑問を持たないのが可笑しいと思いつつ私も続く。


 山に掘られた採掘場の中に入ると、地面が見えてホッとする。

 帰ってきてから雪のない地面を見たのは初めてだ。

 穴は大きく掘られていて閉塞感は無く、明かりが付いているので暗いということも無い。

 先が見えないほど長く掘られた穴を横目に見ながら歩くと、髭を生やした大柄な男性が笑みを浮かべて立っていた。


「ようこそおいで下さいました!ラーク村で一番大きな採掘場へ。さぁ、お探しの宝石をご用意しますので何なりとお申し出ください」


 胡散臭いいい方をした大柄の男性をエドモンド様が紹介してくれる。


「この人は、採掘場の一番偉い人だ。スターが入った宝石はある?」


「スター入りか……。そう言う珍しいのはすぐ売れちまうからなぁ」


 大きな男はそう言うと金庫を開けてブツブツ言いながら探してくれているようだ。


「あの、無ければ別にいいんです」


 なんだか申し訳なくなって言うと、アレックス王子は私を見下ろした。


「遠慮することないよ。スター入りの宝石を探すには採掘場まで買い付けに来ないとなかなか出会わないから」


「そんなに珍しいものなんですね」


 珍しい宝石だとするとますます 欲しくなってくる。

 ゴソゴソと金庫の中をあさっていた大きな男性が戻ってくるのが見えた。


「小さいけれど、今はこれしかないな」


 そう言って宝石を差し出してくる。

 アレックス王子が私に目配せをしてくるので、手を広げると小さな石が置かれた。

 5ミリぐらいの磨かれた石は青く、ゆっくりと動かすと中心に6条の星の光が入っているのが見えた。


「綺麗!星が浮かび上がるわ!」


「気に入った?」


 アレックス王子に聞かれて私は大きく頷いた。


「これを貰おう」


「あっ、お金持っているから自分で買うわ」


 流れに任せていたら、アレックス王子に買ってもらうことになりそうだ。

 慌てて言うと、アレックス王子は目を見開く。


「僕が可愛いレティに送りたいんだ。それに婚約指輪だと言っただろう?」


「いや、でももし惚れ薬の影響が無くなった時、私に何で婚約指輪なんて送ってしまったんだろうって思うかもしれないわよ?返してほしいと言っても返さないわよ?」

 

 「まさか、僕がそんなことを言うと思われていることに驚きだよ」


 アレックス王子は驚いて腕を組んで私を見つめている。


「……なるほど、どうも僕は信用されていないようだな」


 小さく呟くと私に近寄ってきて両手を広げる。


「どうしたの?」


 意味が解らないと首を傾げる私にギュッと抱き着いてきた。


「こうやって、ルティに愛を示せば信じてもらえるかな。愛しているよ可愛いルティ」


「ヒィィ」


 小さい頃、憧れていた綺麗なお兄さんに抱きしめられるだけでも心臓が止まりそうなのに愛を囁くのは止めてほしい。

 これはきっと薬のせいなのだ。

 幼い頃に可愛いと思っていた少女を惚れ薬のせいで愛と勘違いしているに違いない。

 そう自分の心に言い聞かせていると、周りの人の生暖かい視線に気づいてハッとする。


「で、その宝石は買いますか?」


 ニコニコ微笑みながらエドモンド様に言われて、私の代りにアレックス王子が頷いた。


「愛するレティが気に入っているから頂こう」


 私を抱きしめながらアレックス王子は幸せそうに微笑んでいる。


 心臓がいくつあっても足りないから早く手を離してほしい。


 

 

 

 

 

 

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