第16話【死神と守護神】
エンペラーと手合わせをしてから数日経った頃……
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『キシャァァァァッ! ! 』
『フッ……! 』
次元迷宮にて清火は相変わらず狩りをしていた。
現在は雷、 ゼヴァと共に大量のバジリスクがいる森を攻略している。
「……流石ね、 ゼヴァ」
『お褒めに預かり光栄です……さぁ、 この森にいる全てのバジリスクを殲滅致しましょう……』
「そうだね……」
「相変わらず二人とも凄いわねぇ……リーダーの新しい能力はどう? 」
ここまで来るのに清火は新しい能力を取得していた。
その能力は……
『キシャァァァァ! 』
「……」
清火は茂みの中から現れたバジリスクに視線を向ける。
すると次の瞬間、 バジリスクは痺れたように動かなくなってしまった。
「結構使えそう……『呪縛』の能力……」
「本当にそれチート級よね……正直モルスさんと戦うとなったら絶対相手にしたくないわ……」
呪縛は対象に視線を向けるだけで発動する能力であり、 その眼を見た者は全ての行動が封じられてしまう。
その効果は能力の使用者の強さに比例しており、 清火の場合、 Aランクの迷宮のボス級魔物まで行動を完全不能にできる。
雷はそんな清火の能力に恐怖すら感じていた。
「……構築……」
続いて清火はそう呟くとバジリスクの周囲の地面から鋭い形をした土の塊が触手のように出てきた。
その土はバジリスクの体を貫き、 絶命させた。
武器錬成の能力……大分使い慣れてきた……単純な形なら瞬時に構築できるまでになった……
その頃、 ゼヴァは剣を使い次々とバジリスク達を斬り刻んでいく。
『……フン……試し斬り程度には丁度といったところか……モルス様の足元にも及ばぬ……』
「まぁBランクの迷宮だしこんなものでしょ……Sランクの迷宮なんてそうそう出るものじゃないし、 Aランクの迷宮だってこの近くにはあまり出現しないしね……」
今回はあくまで自分の能力の確認と訓練だからね……
そんな事をしながら清火達は迷宮を攻略していると
「……ん? 」
スマホが鳴った。
電話の相手は拳一からだった。
「もしもし……」
『モルス様、 至急本部へ来て頂きたいのですが……よろしいでしょうか? 』
「え……どうして」
『詳細は本部でお伝えします……会長がお待ちしております』
会長が……? 一体何が……?
「ごめんなさい雷さん、 急な用事が入ってしまって……」
「あぁ大丈夫だよ、 また明日会いましょ! 」
「えぇ」
そして清火は波乱の予感がしつつも迷宮攻略を中止し、 本部へ向かった。
…………
攻略者協会本部前にて……
「……」
清火は瞬間移動で入り口の前に来た。
空間操作能力も結構使いこなせるようになってきた……段々移動可能距離が伸びてきたか……
すると拳一が入り口から出てきた。
「モルス様! 随分と早い到着ですね」
「能力の訓練をしているからね……人目が付かないように移動できるようになったんですよ」
「は……はは……相変わらずのようですね……」
戸惑いながらも拳一は清火を案内する。
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案内された先は以前エンペラーと清火が手合わせをした地下の訓練所だった。
……ここに来たという事は……また誰かと戦うということか……
そう思う清火の視界に入ってきたのは修次郎だった。
「やぁモルス君、 しばらく見ない内にまた強くなったようだね」
「……なるほど……相手は会長ですか……」
「察しが良くて助かるよ……ちょっと君に試験をしたいと思ってね」
試験……?
すると修次郎は話し始めた。
「今までこの数か月の間で君は多くの功績を残している……中央都市区に出現したSランク次元迷宮の攻略を始め、 謎の巨大次元迷宮の攻略、 そしてその他多くの未攻略の次元迷宮の攻略……ここまでの短い期間でこれ程の功績を残した攻略者は君を含めて三人しか見たことが無い……」
「そのあとの二人って……イージスとザヴァラムの事ですか……」
そう言う清火に修次郎は笑みを浮かべる。
「それでだ……君に一つ確認したい事があってな……」
修次郎の言う確認したい事とは……
「……どうだね、 日本で三人目のZランクの攻略者になってみないかね? 」
清火のZランクの攻略者への昇格希望だった。
Zランクの攻略者! ? なれるものなの?
清火も唐突の話に少し困惑した。
「……私にその資格があると? 」
そう聞くと修次郎は頷く。
「君の戦闘能力はエンペラーとの戦闘記録から確認させてもらったよ、 あのエンペラーと引き分ける攻略者は日本にそういない……しかも君はまだ余力を残している……これ以上な事があるかね? 」
……見られてたんだ……まぁ本部でやってたし当然か……
すると突然、 修次郎は清火の背後に瞬間移動した。
「ッ! 」
清火は空かさず黒月を出し、 修次郎の顎に銃口を向けた。
「……」
「ハッハッハ! 驚かせてすまん、 流石の反射神経だ! 」
「つまりこういう事ですか……あなたが直々に戦って私にZランクの攻略者になれる程の実力があるか試す……それが試験……」
「そういうことだ……まずは少し試させてもらったよ」
そう言うと修次郎は再び清火から距離を取った。
気付けばいつの間にか修次郎の瞳は黄金に変色しており、 強いオーラに包まれていた。
……なるほどね……会った時から何か違和感があると思ったけど……修次郎さんも攻略者だったって訳ね……
「……凄いオーラですね……今まで封じ込めてたんですか? 」
「フフフ……こう見えて儂もつい数年前までは攻略者をやっていたのだよ……聞いた事が無いかね? 守護神『ゲニウス』……」
「……まさか……あのゲニウス……? 」
守護神『ゲニウス』……この世界に次元迷宮が現れたばかりの頃に存在した最強の攻略者の一人。
彼はいかなる攻撃を諸ともせず、 彼自身の攻撃力も規格外なものだったという。
ゲニウスは本名不明のまま引退してしまったが、 その強さから知らない人間はいないとされている。
その防御力から彼は守護神と呼ばれ、 後に『ゲニウス』……ラテン語で『守護霊』という名前で定着したという。
「……まさか会長がゲニウスだったなんて……でも何となく納得できますよ……そのオーラ……明らかにエンペラーさんを越える力を持ってますから……」
「これでも政府からは核兵器以上の最終兵器と呼ばれているからな! ハッハッハ! 」
すると修次郎は構える。
「……さて、 お喋りはこれくらいにして……昇格試験を始めようか……」
「……そうですね……」
そして清火も大鎌を出し、 構える。
拳一は早々に部屋から退出し、 観戦室に向かった。
「……」
「……」
戦闘開始から数分……二人はまだ睨み合っている。
……流石会長……まだ現役の力は衰えていないって訳か……全く隙が無い……
そんな事を考えていると修次郎が仕掛けてきた。
修次郎は目にも留まらぬ速さで清火の目の前に移動し、 拳を握った。
その拳には黄金に輝くオーラに包まれており、 ただならぬ雰囲気を放っていた。
速い……!
その速さに清火も反応に遅れ、 避けきれず腹に突きをくらってしまった。
攻撃を受けた清火は壁に吹き飛ばされ、 激突してしまった。
「……強い」
清火がぶつかった壁には小さなクレーターができていた。
……久しぶりに痛みを感じたかも……あの会長のオーラ……ヤバい……!
「どうした? エンペラーの時のように戦ってみろ! 」
「……少し……本気で行かないと……まずいかも……」
そう呟くと清火は体制を立て直し、 再び修次郎の前に立った。
「……手加減が難しいので……命の危険を感じたら言ってください……止められるか分かりませんが……」
「……うむ……」
そう言われた修次郎の表情は強張っていた。
……前は威圧だけだったけど……対人戦闘でも制御できるようにしないといけないからなぁ……
すると次の瞬間、 清火は黒い霧に包まれ姿を変えた。
「……それが君の本気か……確かに凄まじい力を感じる……」
「……本当に危ないと思ったら言って下さい……! 」
清火がそう言った瞬間、 清火は修次郎の背後に瞬間移動し、 鎌で斬りつけようとした。
修次郎は瞬時に拳を握り、 パンチで迎え撃とうとする。
「ッ! これは……! 」
修次郎の腕に地面から出てきた黒い鎖が絡み付き、 修次郎の動きを封じた。
しかし修次郎は構わず鎖を引きちぎり、 清火の鎌にパンチをし、 弾いた。
「ッ! ? 」
凄い……あの鎖を引きちぎるなんて……!
するとすかさず修次郎はもう片方の腕で攻撃をしようとする。
清火は瞬間移動で攻撃をかわし、 距離を取った。
「……ちょっと力を抜き過ぎか……もう少し……力を……入れて! 」
そう呟きながら清火は鎌を振り上げた。
次の瞬間、 振り上げた鎌から空気の刃が発生し、 修次郎に目掛けて飛んで行った。
その空気の刃は地面を大きくえぐりながら猛スピードで修次郎の方へ飛んでいく。
「ヌッ! ? これは! 」
修次郎は反射的に空気の刃を避けた。
そして空気の刃は壁に衝突すると……
『ドゴォォォォッ! ! ! 』
巨大な砂ぼこりを舞い上がらせながら壁一面を破壊した。
その衝撃波は辺りに響き渡り、 協会本部のビルをも揺らした。
「あ……しまった……」
「ふぅ……危ない危ない……あんなのを受けたら流石の儂のオーラでも腕が吹っ飛ばされておったぞ……」
……結構加減したんだけどなぁ……やっぱりまだ訓練が必要か……
すると修次郎は清火の方を見る。
「……モルス君、 君の力はかなりのものだ……儂も本気でやらせてもらって良いかな? 」
「え? いいですけど……」
今でも十分強い気がするけど……まだ本気じゃないのか……
清火がそう思った矢先、 修次郎は黄金のオーラを大量に放出し始めた。
そのオーラは次第に修次郎の体を包み込み、 騎士のような鎧の形に固まっていった。
「……凄い……それが現役の時の姿ですか……」
「フフフ……儂はな……昔から武器や防具を買う必要が無かったのだよ……その理由がこれだよ」
修次郎は全身に光り輝く鎧を纏い、 黄金の剣を持っていた。
すると修次郎は剣を構え、 清火の方に突っ込んできた。
その速度は先程の倍になっており、 いくつもの残像を作っていた。
しかし……
「……」
……何だろう……会長の動きが……遅く見える……
清火から修次郎の動きがスローモーションに見えていたのだ。
そして修次郎は剣を高速で振り回し、 清火に攻撃する。
しかし清火は余裕そうな表情で連撃をかわしていく。
「ヌゥンッ! 」
焦る様子を見せた修次郎は次に足を思いきり踏み込んだ。
すると地面が大きく崩れ、 辺りの地殻が舞い上がった。
しかし次の瞬間……
「……修正……」
清火は宙を舞いながら指を下に向けた。
それと共に舞い上がった地面が一斉に下へ落ち、 一瞬にして元に戻ってしまった。
「重力操作か! 面白い! 」
そう言いながら修次郎は清火との距離を詰め、 清火の腹に手を当てる。
すると修次郎の手に黄金のオーラが溢れ出した。
「吹き飛べ! 」
そう言って修次郎は清火を吹き飛ばそうとした……
次の瞬間……
「……! ? 」
突然修次郎の視界が闇に包まれた。
するとその闇の中からおぞましい声がいくつも響き渡る。
『アァァァァ……! ! 』
『喰らえ……喰ラエェェ……! ! 』
『殺してヤル……ゴロジデヤル……! ! 』
『……アアァァァ……熱い……誰かァァ……ダズゲデェェェ……! ! 』
『憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎いィィィィ! ! ! 』
ありとあらゆる憎悪の感情……死を感じさせる悲痛な叫び……聞いている者を狂わせる程のおぞましいその声は修次郎を包み込む……
「こ……これは……一体……」
修次郎はこれまでにない恐怖を感じた……
いつの間にかその闇は何人もの死者の顔が集まって出来た真っ暗な大穴のように見えてくる……
「あ……あぁ……アァァァァ……! ! 」
修次郎はその大穴に呑み込まれそうになったその時
「会長さん! ! 」
「ハッ……! 」
清火の声で修次郎は目を覚ました。
そこは本部にある病室だった。
「よかったぁ……もう何時間も気絶してたから駄目かと……」
「やはりモルス様と戦うのは危険だったんですよ……」
清火の横には拳一もいた。
「儂は……一体……」
「会長さん、 さっきの戦いの最中に私に触れた瞬間意識が無くなったんですよ」
「何と……そんなことが……」
そして修次郎はベッドから起き上がる。
「……モルス君……君をZランクの攻略者に認定しよう……儂をここまでにした人間は他におらん……」
「そ……そう……ですか……」
会長さん……一体何を見たんだろう……凄い冷や汗……
修次郎にあの光景を見せた清火自身も修次郎が何を見たのかは分からなかった。
「では拳一君……あとの手続きを……」
「はい……モルス様、 こちらへ」
そして清火と拳一は病室を後にした。
「……」
部屋で一人になった修次郎は自分の手を見る。
(あれは……『死』だ……ありとあらゆる憎悪をも呑み込む……『死』そのもの……)
修次郎は再びあの光景を思い出すと手が震えた。
「モルス君……君の中には……一体何がいるのだ……」
修次郎は初めて清火の恐ろしさを実感した。
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「……これで手続きは完了です。 身分証のバッジをどうぞ」
修次郎の手引きにより清火は晴れてZランクの攻略者となった。
……これがZランクの攻略者専用のバッジ……私はイージスさんとザヴァラムさんの領域に近付いたという事か……
そんな事を考えながら清火はバッジをパーカーのフードに付けた。
「おめでとうございます。 モルス様」
「ありがとうございます……」
清火の出世を祝う一方、 拳一は清火に一つ警告をした。
「モルス様、 私から一つ警告を……」
「はい……? 」
「先程のモルス様のあのお姿……あまり人に対して使うのは止めた方が良いかと……」
……やっぱり危ないよね……元最強の攻略者である会長さんでもあの時の私に触れただけであの様だったし……もう少し制御する訓練をしなくちゃ……
「……私自身もあれは危ないって思ったよ……金輪際あの形態を人に対して使わないよ」
「……いくらZランクの攻略者と言えど人を殺したら重罪になってしまいます……くれぐれもご注意を……」
「うん……」
……もう既に一人殺しちゃってるけどね……
そんな事を思いつつ清火は協会本部を後にした。
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その頃、 アメリカの攻略者協会本部にて……
「……先程、 攻略者モルスがZランクに昇格したと……出張中の職員から連絡がありました」
「そうか……それはめでたい事だ……また日本にZランクの攻略者が現れたのか……」
スーツを着た男性二人が本部ビルの一室で会話している。
「どうなさいましょう……もはや彼女は一国の軍事力に匹敵する力を身に付けています……」
「まぁまだ慌てる時ではない……彼女は本当に素質があるのかを見てみようじゃないか……」
そう言うと秘書らしき男は何かを察する。
「まさか……あの迷宮の攻略を……! 」
「その通りだ……日本本部に連絡し、 彼女をお招きしろ……」
「ハッ! 」
そして秘書らしき男は部屋を後にした。
「……君と出会えるのを心待ちにしているよ……モルス……」
部屋で一人、 男は不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
続く……




