表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

05

ぼくは彼女の手紙を読み終えた。そこにはぼくに対する思いが延々とつづられていた。保育園から小学校、中学校から高1まで。ぼくが忘れ去っていたエピソードが記されていた。


平凡なぼくに、こんなに沢山のできごとがあったなんて驚きだった。そして気恥ずかしいくらいのあまい言葉が添えられていた。ぼくがぼくを嫌いなのと同じくらい、彼女がぼくのことを好きなのがわかった。


「なんで。ぼくなの。ぼくなんかのどこがいいの」


「ビスケットをくれたから」


「・・・。ごめん。おぼえていない」


「いいの。知っています」


「生まれた時からってなに」


「・・・。運命なのかなって。ごめんなさい。恥ずかしい思いをさせました」


「もういいや。どうせ、この先も凡人の人生なんてこんなもんだし」


「そんなことない。そんなことないです」


「キミさ。デブの人生ってみじめじゃない」


「デブって二回言いました。まあ、聞きなれているんですけど」


「ふーん。以外とサバサバしているんだね」


「まあ、いちいち気にしていたらデブやってられませんから」


「そうだな。凡人が凡人やるのと同じか」


「でも、ごめなんさい。私、今、後悔してます」


彼女は子供みたいに大粒の涙をこぼしながら泣き始めた。


色のない静かで透明な世界でひっそりと暮らしていたぼくには、雲間から現れた太陽がひどくまぶしいものに感じられた。


ぼくは勢いよく起き上がった。凡人らしくないスピードで。立ち上がって彼女の涙を指ではらう。クリクリした大きな瞳。すべすべした色白のはだ。艶やかな黒髪。ぼくは彼女の顔をみすえた。


「決めた。凡人やめる」


「・・・」


「ぼくが協力するから、キミ、ダイエットしなさい。ぼくを辱めたバツだよ。これは命令だから」


「食べる幸せを失ったら私は生きられません。代わりの幸せをくれますか」


「もちろん。一緒にジョギングをする。ダイエットのことを研究して、毎日、ダイエット弁当も、特製ジュースも作るよ」


「手作り弁当にお手製ジュースですか」


彼女は笑顔で答えた。


その日から二人のダイエット大作戦が始まった。真夏を迎える頃には、彼女の持っている洋服は全てゴミになった。


太陽がたぎる暑い夏を乗り越えて、色づく秋がきた。『人は変われるんだ』勇気をもって踏み出すことができれば。ぼくはそのことを彼女から学んだ。


今日から二学期が始まる。ぼくは教室で登校してくる彼女を待った。


「だれ?」


「転校生?」


「すっげーかわいい」


「お人形みたい」


「アイドル?」


「腰ほっせー」


「モデルさん」


ぼくは右手をあげて彼女を出迎えた。大きな声て呼びかける。


「おはよう」


「おはようございます」


彼女がぼくを見つめる。クラスメイトの目が一斉にぼくに向く。ぼくは注目されることを誇らしく思った。クラス中が彼女が彼女だと気づく。


「うっそ!マジかよ」


「まるで別人じゃん」


「えーっ。どうやって痩せたの?」


「信じらんない!」


「くー。うらやましー」


私は彼のもとに向かって歩きます。体が軽い。心も軽い。


もう、机の間を通り抜けても体がぶつかったりしません。家には新しく買った姿見があります。腰がきゅっとくびれた細身の制服も買いました。スカートから伸びるスラリとした足。袖からつながるほっそりとした腕。完璧です。


『人は変われるんです』支えてくれる人が見つかれば。私はそのことを彼から教わりました。


今、私が進む先にいる彼、私を変えてくれた彼、ちょっぴり、いいえ、とても頼もしくなった彼。私の好きなクリクリとしたかわいい目はそのままです。彼が私を見ている。それだけで私は幸せです。






おしまい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ