第79話 お腹が減っては戦は出来ぬというが、あれは本当らしい。
「これは、凄いですね。」
「そうだな……。」
スパイ二人組は仲間の一人を探して、迷路のような通路のところに来た。こういう通路は、最初に入った時にメモをしておいて、ちゃんと帰れるようにするのがいいんだけど、あのバケモノは、メモを作ってたとしても、そこまでの脳は働かなかっただろう。よってその迷路を簡単に攻略するなら、壁をぶち壊せばいいという判断をしたのだろう。頭は悪いが、効率は一番いいのかもしれないな。
「先輩、あの壁って。」
「あぁ、そうだよ。ここの壁は、とても固いとされている、黒曜石をコーティングしてる壁だよ。それをいとも簡単に破壊してしまうというのは……。」
普通の人間なら削ることですら難しいといわれている品物を、粉粉にすることが出来る力を持っているあのバケモノは、相当危険なものだと改めて感じた。
「先輩……。」
メンバーの一人がすっごく不安そうな顔で見つめてきた。
「あのバケモノに敵判定されたら、ほんとに命がないと思っても過言じゃないな。あのバケモノは、結構遠くに行ったはずだから、この辺はまだ大丈夫だろう。」
「そうですね。」
ちょっと気が楽になったみたいだ。
「それで、先輩。戻り方のルート分かってますか?」
「一応メモはあるが、正直怖いな。」
壁が破壊されているということは、メモがあてになるかどうか若干だが怪しく思えた。
「とりあえず、最初の分かれ道は、右に行けばいいはずだな。3択ルートで。」
「今の状況では2択しかないですけど、一番右ならこのルートですね。」
確かに確認してみたら通路が二択になっていた。三つのうちの一つは、入った瞬間に行き止まり構造になってたらしい。そして、3択時、一番右が正解なら、この2択でも右が正解ルートになるのは確実である。だって、どう頑張っても左のルートのはずれは、右のあたりルートより右に来ることが、出来ないのだから。
「この状況が続くとなると、結構厳しそうですね。」
「かもな。」
万が一、真ん中が正解ルートだった場合、どっちが正解なのか運の絡む確率になってしまう。50%と50%で。まさに1/2で当たって、1/2で外れてしまう。そんなかけが出来てしまうのだ。
「せめて、真ん中が正解ルートだった時は、ルートがつぶされていないことを願うな。」
「ここも、完全なる運頼りですね。」
今の状況的にルートがつぶれていない確率は0%だけどな。
「とりあえず、急ぎすぎずゆっくりしすぎず行こうか。」
「そうですね。」
スパイ二人組は右の通路に入って行った。二人の運はいかに……。
私はついに八合わせてしまった。私が倒すべき相手に。
「あぁーー!」
私がそう叫んだと同時に、
ぐぅーーー。
おなかもなってしまった。
「こういう時でも、お腹は正直者ですネ。ここで一つ提案なのですが、いいでしょうかネ。」
「うぅ?」
私は耳を傾けた。
「あなたと私の戦いは、私が作った料理の後で行うというのは、どうでしょうかネ。お互いに"最後の晩餐"という意味でネ。」
「……。」
確かにお腹はすいている。ただ、あの人が作る料理だ。もしかしたら、変なものを入れられる可能性がある。それを考えると警戒をせざるを得ない。でも……。
ぐぅーーー。
お腹が猛烈にすいていた。きっと人間20人分の空腹を感じているのだと思う。
「う……。」
私は首を縦に振った。
「交渉成立ですネ。ではここでは一時休戦ということで。」
「う……。」
私は返事を返した。
「あ、そうそう。安心してください。料理に毒物を入れようなんて考えてもいませんからネ。そんなことしたって面白くないですからネ。」
そう言うと、あの人は厨房に入っていった。そこからは結構おいしそうな匂いがしていた。
「……。」
そうは言われましてもね……。やっぱり警戒しちゃうよね。一応、嗅覚で毒を察知しようとした。
ぐぅーー。
実は、あの人が作る料理が、若干だが楽しみであった。私のお母さんが作る料理は、どれも貧相な物しかなかったけど、ここにはかなりの食料が存在する。それで作る料理は、いったいどんなものが出るのやら……。
「うぅ。」
私は料理ができるのを待った。
「思っていた以上に、彼女の意志は残ってましたネ。」
彼は、驚いていた。あれだけの痛みが走ったのにも関わらず、いまだに我を持っている。考えることもできている。喋れなくはなっているけど、なかなかの人間だと彼は思った。
「でも、ここでいきなりバトルになるよりかは、ましでしたネ。彼女に意志が残ってて、よかったですネ。」
彼は正直ご飯を食べずに勝負になることを恐れていた。でも、彼女に意志があったため、助かった。そこは運がよかった。
「でも、入り口に罠を仕掛けておいて正解でしたネ。それがなければ……。」
実は彼も焦っていた。食堂の入り口に罠を仕掛けておいたため、侵入に気づいたものの、もし、罠をはっていなかったら、完全にここまで攻められていたかもしれないのだ。
「ま、とりあえずは料理を完成させるところまで行きましょか。」
彼は具材を追加で投入した。
「彼女の最後の晩餐にふさわしい料理を作らなければですからネ。」
今の彼は、殺していたときの目とは若干異なっていた。料理人の目をしていた。




