第74話 この世界はどう考えたって平等なわけがない。でもね……。
私はカプセルの上の部分付近まで連れてこられた。
私の目はもう壊れているから、色とかは全くしもわからないけど、カプセルの中にある水はブクブクとしていた。
「これって息できるのかな?」
私は率直にそうつぶやいた。だって水の中で、息を吸うことなんて普通の人間にはできないからね。エラでも出来たら、できるんじゃないかな?
「そういったことは心配しなくても、大丈夫ですネ。あの水の中には、空気を十分に確保してありますからネ。せっかくのモルモットが、窒息死してしまうのはもったいないですからネ。」
「そうですか……。」
どうやらあの中に入った瞬間に、死ぬことはないということか。少し命拾いしたのかなと思った。
「……準備にもう少し、時間がかかりますネ。重いですし、ここに一旦、おきましょうかネ。」
私はそっとおろされた。まるでガラス製品を取り扱ってるかのように。この状況下、逃げれそうではあるが、なにせ横向きにおろされたから、足を一本取られている状況で起き上がることは困難だし、逃げる気にもなれなかった。
「私は、この実験である一つの可能性を実現したいのですネ。」
「それってどういうことですか?」
「あなたは、この世界は平等にできていると思いますかネ。」
思いがけない質問が来た。それはもちろんながら、こう答えるしかない。
「平等じゃないと思います。」
だって私みたいにこんな貧民もいれば、貴族と呼ばれる不自由なく生きている人たちもいる。それを見て平等だなんて言える人がどこにいるのだろうか?
「そう、私もそう思うんだネ。」
彼は立ち上がって。
「頭脳も、体力も、攻撃力も私が勝っていたというのに、なんで勇者は、勇者なんでしょうネ。私は、なんでいつも勇者の二番目だったんでしょうネ。」
「それってもしかして。」
「えぇ、そうですヨ。私は以前、勇者のパーティのメンバーの一員だったんですネ。」
ということは、目の前にいる人は、勇者の一員ってことなのか? 凄い人だったんだね。
その人は天井に目線を行かせて、
「私は、いつも勇者より、モンスターを狩りましたネ。彼が一瞬のスキを見せて、モンスターにやられそうになった時は、私が代わりに受けたりしましたヨ。でも、いつも手柄は勇者である彼であったんですネ。彼が魔物を倒してくれたんだ、彼がいなければこの村は、町はなかったと。」
そして、その人が私のほうに向いて、
「でも、そんなわけがないんですネ。彼一人で逝ったなら、あっけなくモンスターに殺されていたというのにネ。私たちの援護があってこその活躍、勝利だと思うんですネ。だから、感謝されるべき相手は、彼でなく、私達もじゃなきゃおかしいじゃないですかネ。」
「確かにその通りだと思います。」
私はそう答えた。目立つ人は、よく凄いだの色々といわれる。でも、陰で支えてる人たちは何にも言われることはない。みんなから褒められることもない。そういった意味では確かに、援護は悪い立ち回りだと思う。
「もし、私が勇者であったなら。彼以外にもうひとり、私も勇者であったなら。もっと私は褒められて、求められていたというのに。この差は何なんだネ。」
彼の目は怒りで燃え上がっているようだった。
「彼さえいなければ、彼じゃなく、私が勇者であったなら。私は今、こんなところにはいなかったというのにネ。」
彼はそういうと、今度は座った。立ってて疲れたのだろうか?
「モルモット、君はどう思う? 私が間違っていると思うかい?」
彼はそう言ってきた。私に向かって。この私に。
「確かにあなたの話を聞いている限りでは平等とはかけ離れていると思います。」
「そうだよネ。」
「でも、」
私は思った。
「勇者のパーティーに入れていたんですよ。もしかしたら、勇者のパーティーに入りたいと思っていた人たちが、いるかもしれません。その人たちよりも、あなたは才能があったということですよ。そこを見落としている気がします。」
率直な意見を言ってみた。
「だって、誰よりも能力が上であったというところで、あなたは恵まれているはずなんだから。それに気づいていないところ、あなたは、残念な人に聞こえてきます。」
「モルモット。お前は完全にいい事なんてなかっただろうに。」
「いいえ。私はとても幸せでした。あのお母さんとお父さんの子として生まれてきて。ほんとによかったと思ってます。だって、人間の生まれてくる確率は、一億分の1なんですよ。その中であんな優しいお父さんと、あんなに面倒見がいいお母さんのことして生まれてこれたんでしょ。とてもいいことだったと思いますよ。」
「そうかネ。完全に貧民として生きていき、地下で永遠に働かせらてたとしてもだネ。」
「はい、幸せだったです。この人生、とてもよかったと思います。」
私はそう言った。だってそれが真の私の気持ちだから。
「君とは息があわないようだネ。」
「そうですね。」
私がそういうと、
「準備が完了しました。リーダー。」
仲間だろうか、一人の人がそれを伝えにやってきた。
「ご苦労様ネ。」
「はい!」
彼はそう言った。あれ、この流れ、さっき見た気がする。確かそのあと、そのお仲間さんは切られて、殺されてしまったはず。となると今度も……。
「逃げて!」
私はそう叫んだ。すると、今度は仲間の人の腕が切り捨てられていた。
「思わぬ邪魔が入ったせいで、失敗してしまったネ。命拾いしたな。」
「は……なんで、ですか?」
「それは、もちろん、邪魔になったからだよ。」
「邪魔……ですか。」
仲間はそう言って、気絶してしまった。ま、生きてはいるであろう。命は助けられてほんとによかった。
「では、準備は整った。さぁ、今こそ歴史を変える瞬間、そして私が褒められ、称えられる時間がやってくるのだ!」
彼はそう言っていた。果たして、この実験が成功したところで、彼は褒められ、称えられるのだろうか? 私はそうではないと 思うのだが、そこは何も言えなかったのであった。




