プロローグ
「君の返事を待っていたよ。」
世界的大企業へと成長した、その会社の本社ビル。
最上階の一室で、非公式の話し合いが行われていた。
「……。」
「まだ悩んでいるね。答えが出せないなら、もう少し待とうか。」
「……すいません。」
窓の外を眺めながら、白髪交じりの壮年の男が静かに口を開く。
「Vトップが発売されて、明日で200年になる。」
「・・・。」
こくりと頷く。
「私の先祖が作り出した、画期的で合理的なそれは世界を変えた。
父が事業を拡大し、私の代で、ついに発展途上国を含む世界唯一無二のグローバルスタンダードになった。」
部屋には二人しかいない。
聞く側の人物は終始無言だった。
だが、かすかに喉が鳴った。
緊張しているのか。
それとも、言葉の重さに圧倒されているのか。
「全てのものが自動化された今、手動操作の製品など絶滅危惧種と言ってもいい。」
男はそこで初めて振り返る。
「だからこそ、次期社長は君に継がせるべきだと、私は思っている。」
「……。」
ここ何日も、それに対して返事ができずにいる。
息を吸うことすら忘れるほど、真剣に考えていた。
やがて、思い出したように細く息を吐く。
それを見て、社長は理解した。
荷が重いのだ。
だが、自分には待つ時間が残されていない。
胸の奥に続く鈍い痛みが、それを教えていた。
「父も、その父も心疾患の家系でね。」
男は苦笑した。
「情けない話だが、私にもその気があるらしい。」
少し沈黙してから続ける。
「だが、意識を失い、人形のようになってまで。
病院の服を着せられ、点滴や胃瘻に繋がれて生き永らえる姿を私は父で見た時・・・違うと思ったんだ。」
「だから次に託す決断をした。
私に残された時間は、もう僅かだと。」
男は静かに頭を下げる。
「頼む。私の気持ちを汲んではもらえないだろうか。」
ようやく口を開く。
「私は……。」
自分の言葉が定まらない。
揺れ動く葛藤の中で助け舟を出してくれる。
「無理を言い過ぎたね。すぐじゃない。いつかって考えてくれてもいい。」
その後の話の内容は覚えていない。
ただ妙に耳に残った言葉があった。それは
『世界をひっくり返してくれ。』
そして。
『葉寿司に会ってくれ。』
だった。
始まりました。【BHRタガル】
全20話くらいで完結なので
ぜひ気軽にお読みください。
コメントや評価頂ければ執筆の励みになります。




