あなたは中央に立ったことがありますか
この物語の主人公は、誰だっただろう。
蒼?
亮太?
ページを少し戻ってみる。
最初の章。
四ツ辻に立っていたのは――誰だ。
名前を追おうとすると、わずかに違和感が走る。
蒼は最初から蒼だっただろうか。
それとも、途中で入れ替わった?
あなたは気づいただろうか。
それとも、
最初から亮太だったと、今は思っているだろうか。
――それが、中央の仕組みだ。
中央に立つと、名前が上書きされる。
消えるのは、存在ではない。
“記憶の配置”だ。
外側にいた者は、中央に立った者の記憶を持つ。
中央にいた者は、外側の記憶に置き換わる。
だから誰も、自分が入れ替わったとは思わない。
物語も同じだ。
読み手が中央に立つと、
登場人物の配置は、静かに変わる。
今、あなたはどこにいる?
外側か。
中央か。
もう一度、最初のページを思い出してほしい。
主人公は、どんな人物だった?
どんな顔をしていた?
その名前を、はっきり言えるだろうか。
もし、一瞬でも迷ったなら。
それはもう、揺らいでいる。
四ツ辻は、現実の交差点だけではない。
部屋の中央。
画面の中央。
視線の中央。
あなたが無意識に立つ“真ん中”。
そこに立つと、物語は書き換わる。
そして今。
このページの中央には、あなたの目がある。
読んでいる、あなた。
あなたはこの物語を読んだ。
それは確かだ。
だが、
最初から読者だっただろうか。
それとも、
途中で、入れ替わっただろうか。
もし、少しでも寒気がしたなら。
もし、ページを閉じたあと、
部屋の中央が気になったなら。
確認してほしい。
そこに、誰が立っているか。
そして、こう問いかけてほしい。
「俺の名前は、何だ?」
もし答えが、一瞬でも遅れたなら。
四ツ辻は、もうあなたを覚えている。
――中央に立ったことがありますか。




