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四ツ辻に立つ声  作者: 臥亜


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9/10

中央は家の中にある

蒼は、部屋の中央から目を逸らせなかった。


そこだけ、床の色がわずかに違う。


光の当たり方の問題ではない。


空気が、沈んでいる。


十字に。


ベッドと机と本棚とドア。


四方向の中心。


そこが、わずかに暗い。


昨夜の四ツ辻と同じ形。


「……ただの気のせいだ」


そう呟いた瞬間。


スマートフォンが震えた。


新着通知。


【Ryo_4way がライブ配信を開始しました】


蒼の呼吸が止まる。


開く。


画面には、夜の四ツ辻。


中央に、誰かが立っている。


カメラは固定。


風もないのに、街路樹だけが揺れている。


コメントが流れる。


《また中央にいる》

《今日も立ってる》

《顔、見えた》

《蒼じゃない?》


蒼は、凍りついた。


中央の人物が、ゆっくりと顔を上げる。


ノイズ。


画面が乱れる。


一瞬だけ、はっきり映る。


――自分だ。


蒼の顔。


だが、表情が違う。


無表情。


いや。


わずかに、笑っている。


ライブ配信の視聴者数が、増える。


100。


300。


1,000。


そして、コメントが変わる。


《あれ?》

《名前変わってない?》

《配信者:蒼_4way》


蒼は、自分のアカウント名を確認する。


表示名が変わっている。


【蒼_4way】


指が震える。


プロフィール文。


『中央に立っていたのは、俺だ』


さっきと同じ文章。


だが、今は自分の名前になっている。


過去投稿を見る。


十年前の写真。


中央に立っている少年。


顔は、蒼。


コメント欄。


《亮太、やばいって》

《中央に立つなって言ったろ》


蒼の脳裏が、裂ける。


記憶が、書き換わる。


十年前。


四ツ辻。


笑っていたのは、亮太だった。


中央に立っていたのは、亮太。


そうだったはずだ。


なのに。


写真では、蒼が中央に立っている。


「違う……違う……」


頭を抱える。


その瞬間。


部屋の中央の影が、わずかに濃くなる。


蒼の足が、勝手に動く。


一歩。


中央へ。


「やめろ」


声がした。


今度は、はっきりと背後から。


振り向く。


そこに、もう一人いる。


蒼だ。


だが、顔色が違う。


青白い。


目の奥が暗い。


「そこは、俺の場所だ」


その蒼が言う。


「お前は、外側だ」


外側。


四ツ辻の外。


中央ではない。


周囲。


見ているだけの側。


蒼は、理解してしまう。


十年前。


中央に立ったのは――


自分だ。


亮太は、止めた。


「中央はやめろ」と。


だが、蒼は笑って、中央に立った。


その瞬間。


“何か”が入れ替わった。


中央に立つ者と。


外側に残る者が。


「俺は……消える側?」


青白い蒼が、微笑む。


「もう消えてる」


スマートフォンが、床に落ちる。


画面には、ライブ配信のコメント。


《中央、空いた》

《いなくなった》

《あれ?今誰立ってる?》

《亮太?》


蒼は、中央に立っている。


立ってしまっている。


体が、薄くなる。


手が、透ける。


青白い蒼が、こちらに近づく。


すれ違う。


冷たい。


すれ違った瞬間。


視界が、反転する。


自分が、部屋の外側にいる。


中央には、青白い蒼が立っている。


いや。


違う。


それは。


亮太の顔だ。


「名前、返したよ」


亮太が言う。


「中央は、やっぱり怖いな」


蒼は声を出そうとする。


だが、音にならない。


スマートフォンの画面が暗転する。


配信終了。


アカウント名が変わる。


【Ryo_4way】


プロフィール。


『中央に立っていたのは、俺だ』


蒼の存在が、薄れていく。


SNSの投稿が更新される。


最新投稿。


四ツ辻の中央。


立っているのは、亮太。


コメント。


《蒼って誰?》

《最初から亮太だけど?》


蒼の記憶が、剥がれる。


自分の名前が、遠くなる。


最後に見えたのは。


四ツ辻の中央。


ぽっかりと空いた、暗い点。


そこに、また誰かが近づいている。


見知らぬ誰か。


スマートフォンを掲げて。


「中央、立ってみよ」


その声が、響く。


そして。


物語は、最初に戻る。


――四ツ辻に立つと、名前が消える。

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