↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/63

50 御守りの紋様

 お義母様は、針が持てれば飲み込みの早い方だった。


 もともとペンで物語を書くという行為を日常的にされているからか、狙ったところに針を刺すのも上手だし、手先のコントロールは(力加減以外)お上手で、ハンカチにはきれいなつる草模様が刺繍されている。


 明日はいよいよマントに刺繍を施す。大きな布地に針を刺すのは少し慣れが必要なので、テーブルクロスで練習してからでもいいかもしれない。


 革製のシンブルはやはりいいクッションになっているらしく、無意識にかかってしまう力を革の厚さが吸収して針への負荷を少なくするのに成功したようだ。


 つる草模様は私も最初本を見ながらひと針ひと針刺した模様で、練習にはうってつけだ。葉っぱや茎で幅の差はありながら、縫い方自体は難しい技法を使わない。それに、同色の布に同じ色で刺繍を入れると、本当に豪華になる。


 お義父様が目立てば目立つほど、近衛騎士団の人たちはお義父様を旗印に勇猛に戦うのだろう。戦場に送り出してきたお義母様だからこそ、こうしてお義父様のために自分が何かできるというのは、うれしいことなのかもしれない。


 私は、刺繍を終えて片付けをしているときに、お義母様の書棚にあった一冊の本が目に留まった。お義母様の本のための資料の一冊らしかったが『世界の紋様辞典』という本だった。


「あの、お義母様。こちら、お借りしてもよろしいですか?」


「えぇ、いいわよ。あぁ、その本にはね、いろんな紋様の意味が載っているのよ。私も針仕事に自信がついたら、そこからあの人のための御守りを縫ってみたいわぁ」


「いいですね、ふふ、お義母様はとても器用なのですぐできますよ。……お借りしますね」


「はぁい。パーシーのこと、守ってあげる模様を選んでね」


「……はい」


 お義母様にはお見通しのようだった。


 私は本を一冊と、自分の裁縫道具を持って自室に引き上げると、パーシヴァル様が帰ってくるまでもう少し時間があるので本をめくってみた。


 西洋、東洋を問わない様々な国の紋様があって、なぜその紋様にはそういう効果があるのかまで細かく解説されている。


 私が目を止めたのは、一見簡単に見える『フラワーオブライフ』と名付けられた紋様だった。


 目標に向かい、眠っている力を解き放つ。同時に、自分の目標や意思を整える。地に足をつける。そういった効果があるようだ。


 円が19個あり、それを重ねて縫う事で花の模様にも見える。


 緑のマントを片手にとり、私はそっと顔をうずめる。毎日遅くまで訓練を続けるパーシヴァル様のひたむきさ、一途さにときめきながら、あまりにも前へ前へと向かうさまが怖くもあった。


 私のことも気にかけてくれている。私のためにでもあるだろうし、もちろん、自分が昔からそうなりたいと思ってきた近衛騎士団長を目指すためには必要なプロセスだ。


 そんな彼は、あまりにひたむきすぎて、前だけを見つめていて、足元が見えていないように感じてしまう。疲労は、いくら鍛えているとしても、最近の口数の少なさから決して軽いものではないと理解できる。


(私は、彼を無理やりベッドに縛り付けて休ませることも、栄養のある食事を届けることもできないから……)


 だから、私なりのやり方で、私の気持ちを、想いを込めて、パーシヴァル様に伝えよう。


 もうすぐ晩餐の時間だ。図案も決まった私は、緑色のマントの裏地に金の糸を用意して、ダイニングへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12新連載! よければ応援おねがいします!

新作
【長編異世界恋愛】
宰相閣下は『壁の草』をご所望です!~転生モブ令嬢は推しの溺愛に気付かない~
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。