49 お義母様曰く「ペンは針より強いのよ!」
お久しぶりの更新となってしましましたが、これから暫くは頻繁に更新してまいりますのでよろしくお願いいたします!
「と、いうことで、お義母様の分のマントもいただいてまいりました。一緒に針を刺していきましょう」
「……ミモザちゃぁん、どうして……どうして先に私に聞いてくれなかったのぉ……」
若々しいお義母様が、紫のマントと針仕事の用具一式を前に、両手で顔を覆って泣きそうな声で……いや、この声はもう泣いている。泣いている声で私に言った。
私は動揺してしまって、向かい合って座っていたのを隣に移動して背を撫でて宥める。
「わ、私……針はダメなのよぉ。あの、どう具体的にダメかというとね……いい? これは内緒よ……?」
「えぇ、お義母様が内緒とおっしゃるなら絶対に秘密にします。それで、一体どんな理由が……?」
大好きなお義母様が涙を目にいっぱいにためた上で、目元を赤くして、眉を吊り上げ、真剣な顔で私を見上げている。すっかり背を丸めて落ち込んでいるのだ。普段から姿勢のいいお義母様がこんなにへこんでしまうなんて、悪いことを引き受けてしまったかもしれない。
「……侍女たちもいないわね?」
「えぇ、二人きりですよ、お義母様」
部屋の中をきょろきょろと見まわした後、お義母様は意を決して針をピンクッションから一つ引き抜いた。
いや、引き抜こうとした。
「これは……」
お義母様の手の中には、つまんだところから後ろの針孔までの部分が握られていて、残り半分はピンクッションに刺さったままだ。
「ダメなの……私、昔から針はダメなのよ、まず針が持てないの……指の力が、強すぎて」
「そんな……まさか……。それは、コントロールできないのですか?」
「カトラリーや、木のペン軸ならいいわ。でもガラスペンはダメ、すぐヒビが入ってしまうの。もとは武家の出で、幼少期から剣や乗馬の方を熱心に嗜んでいたから……だとは思うのだけれど、どうしてもこういった細かいものを持つと、折れてしまうの」
だから、かんざしや髪飾りも自分ではさせないの、とお義母様はすっかり落ち込んだ様子で告げた。
私は少し考えて、はっとして裁縫箱を漁った。
本来ならば指に針先を刺さないように補助的に使うものだが、お義母様にはちょうどいいかもしれない。指から針を守るために。
「お義母様、こちらを指先にはめてください。手慰みにいくつか作ってありますので、指に合うものを選んでくださいませ」
「まぁ……これはなぁに?」
不思議そうにお義母様がつまんで見たのは、革で出来たシンブルだ。キルティングする時に金属製の物と革製の物を両手の指に1本ずつそれぞれ嵌めて使う道具だが、お義母様の指に革のクッションの代わりとして嵌めればきっと針が持てるはず。
「シンブルという道具です。キルティングに使う道具ですが、今日はお義母様の指のカバーにしましょう。柔らかい革なので、きっと針が持てるようになると思いますよ」
「えぇと……これと、これがちょうどよさそうね。これでいいかしら?」
手慰み、というだけあって様々な革の端切れを使っていろいろな大きさのものを作ってある。
お義母様が選んだのは、親指の中ほどまで嵌るような大きなシンブルと、人差し指の第一関節までの細身のシンブルだった。
「では、その指でこのマチ針をもってみてください。マチ針は山ほどありますので」
「んもう! ……い、いくわよ」
恐る恐る、といった様子でお義母様がシンブルを嵌めた指でマチ針をつまんで、……そして、ピンクッションから持ち上げた。
「やった! やりましたよ、お義母様!」
「すごいわミモザちゃん! 私が針を持てたわ!」
「では、糸を通すのは私がやりますから、ハンカチから練習してみましょうか。大丈夫、あと1週間ありますもの、マントに針を通すように練習していきましょう」
「で、できるのかしら、私に……今生まれて初めて針を持てた私に、針仕事なんて……」
「もちろんです! お義母様の想像力があれば、きっとすぐに楽しくなりますよ」
「やってみるわ……! あぁ、でも、針が持てるなんて……本当に、うれしいわ。ずっと、あの人に手作りの贈り物ができなかったから……」
「今回はお義父様のご要望でマントですけれど、革製品の加工はまた針仕事とは一味違いますよ。そういった、お義母様のお好きな方法でお義父様へ贈り物を作ることはできます。――今は針仕事ですけれど、私がいつもお義母様のお話に元気をもらっているように、お義母様にも私の元気の秘密をおすそ分けできたら幸せです」
私の顔が蕩けているのが自分でもわかる。目の前の可愛らしいお義母様は、ペンを持てば最強のお義母様だ。
そのお義母様と一緒に何かをする、というのは、まるで夢のようだった。
「そうね、今は刺繍を……革製品も興味があるわ。じゃあ、ミモザちゃんにもいつか、手紙の上手な書き方を教えてあげるわね」
「まぁ、それは……秘技ではございませんか?」
「いいのよ、私の大好きな娘にならなんだって教えちゃう。さぁ、どんな糸にしましょう。ハンカチには、何を縫いとるの?」
「そうですね、マントと同色の光沢のある紫の糸を使うつもりですから……ハンカチの生地が白なので、白い光沢のある糸を使って、つる草を縫い取りしてみましょう。地味に見えますが、少し端に入れるだけで豪奢に見えるんですよ」
「いいわね、やりましょう!」
お義母様の指の力から針を守ってもらっている間に、私は木枠にハンカチを嵌めて、別の針に光沢のある白い糸を通した。
まずは基本の縫い方から、焦らず教えよう。私の刺繍は後で一人でやることにして……、お義母様の初めての針の喜びを、どうか味わってもらおう。




