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48 私にできること

 私は帰宅後、珍しくお義父様の執務室に向かった。お義父様は領地運営も近衛騎士団長との役職と兼ねている。登城は隔日で、今日は家で仕事をしている日だった。


 ちょうどお茶の時間だったらしいが、私は先程までお茶を飲んできたので、向かいに座って休憩中のお義父様に中隊長というものについて尋ねた。いまいち理解が追い付いていないのだ。


「ふむ、なるほど……今のパーシーにそれをミモザ嬢に教える余裕は無いだろうからな。私がわかる範囲で話をしよう」


「ありがとうございます」


「まず、中隊長となると武装が変わる。200人もの兵を率いるとなると、ある程度目立つ色を身に付けなければならない。具体的にはマントだな。私は紫、その下の連隊長が赤、大隊長が青、その下の中隊長は緑だ。小隊長までなら100人にも満たない人数なのでマントの着用は無くてもいい。目印に兜に緑の羽根飾りをつけるくらいだ」


「見た目も大事なのですね」


「そうだ。戦場では人が入り乱れる。その時、自分の上官が誰なのか、敵なのか味方なのか、ひと目で分からなければならない」


 私は少し考えて、その間にお義父様は紅茶を飲んで茶菓子を摘まんだ。ゆったりとした時間だが、厳しいことを言っているのは分かる。私は、万が一パーシヴァル様が戦争に行く事になった時に、何ができるかを考えた。


「そのマントというのは、形が決まっていたりするのですか? 王家からの下賜品であるとか……」


「いや、消耗品だからな。自前で用意する。といっても、この騎士団に基本の物は置いてある。……その目は緑のマントを一枚譲ってほしそうだな」


 おかしそうに笑ったお義父様が、私の目がわずかに輝いたのを見て鷹揚に頷いた。


「親しい人から針を刺して貰った物は、それがお守りになるともいう。――意識の問題だが、この人の元へ帰る、この人から受け取ったものだから大事にする、という意識が芽生えるようだ。それが結果、仲間と命を守る事にも繋がる。マントに針を入れるのは珍しいことじゃない」


 私は少しほっとした。おかしいことをしてパーシヴァル様が笑われるようだったら嫌だと思ったのだが、これは特におかしいことではないようだ。


「ありがとうございます、お義父様」


「いや、可愛い娘の為だからな。明日にでも持って帰ってこよう。それから、これは私からのお願いなんだが……」


「はい、何でしょう?」


 一段声を低くしてお義父様が内緒話をするように片手を口許に当てて小さく話しかけて来た。


「私の妻にも、刺繍を教えてやってはくれないか。その……私のマントにも、よければ針を入れて欲しい」


「あら、ふふ、かしこまりました。人に教えられるかは分かりませんが、お義母様ならばきっと、素敵な刺繍を入れてくれますよ」


 これが対価らしい。いい取引が纏まった。


 お義父様とお義母様はなんだかんだ言っても仲がいい。つねにべったりという訳では無いが、二人の間にはいつも穏やかで優しい空気が流れている。


 私もパーシヴァル様と、そんな夫婦になりたい。各々違う物で、彼は戦場を、私は社交界を戦い抜きながら、一番側にいる相手との時間を何よりも大事にしたい。


「ミモザは……あれだな、優勝を疑っていないんだな」


 お義父様に言われて少しぎくっとした。本当は、負けてしまうかもしれない。無駄になるかもしれない、という気持ちは無くもない。が、それは絶対に外には出さない。


 パーシヴァル様が本気で勝ちに行こうとしている。ならば、私はその勝利を応援するのみだ。


「はい、もちろんです」


「いい覚悟だ」


「……最近少し、お転婆すぎるんじゃないかと自分で恥ずかしくなる時もあります」


「何、その位でいい。君の存在がパーシーの中で大きくなればなるほど、そして、社交界で君が存在感を増せば増す程、よりパーシーが輝くようになる。逆もそうだ、君はパーシーの妻としてより輝くようになるだろう。その二人が信じあっている、というのは悪いことではない」


 お義父様にこうして夫婦のありようを語られるのは初めてのことかもしれない。


 パーシヴァル様の為に私も輝く……、それがどういう風に影響するのか、今の私には分からないけれど。


 そして、どう輝いていけばいいのかもわからないけれど、せめてお義母様の半分くらいは輝いてみたい。


 そのお義母様と一緒に刺繍をするのは、少し楽しみかもしれない。そういえばお義母様が針仕事をしているところは見たことがないな、と思いながら、お義父様の部屋からお礼を言って失礼した。

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