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37 花園の主

「緊張してる? ミモザちゃん」


「はい! いいえ! ……はい、してます」


「うふふ、そうよねぇ。いいのよ、緊張しても。王妃様は優しい方だから安心して。あぁ……でも、普通の淑女ではいらっしゃらないからビックリしちゃうかもしれないわねぇ」


 お義母様の言葉の意図はいまいち掴めなかったが、手土産のハンカチはいい出来だと思う、という事だけを考えて王宮の渡り廊下を並んで歩いていた。


 今日は王宮の初夏の庭でのお茶会らしい。王宮には四季折々の庭があるらしく、他にも冬以外には手入れされた花壇の広がる大きな大庭園や王室の人間だけが入れる庭もあるという。


 王妃様の招待はそんなに珍しい事では無いらしいが、それなりに身元と性質がしっかりした人だけが呼ばれるらしい。私は、言うなればおまけ、というところだ。今日を限りに呼ばれないかもしれないし、気に入られれば頻繁に呼ばれるかもしれない。


 お義母様は頻繁に呼ばれる方だという。そのお義母様は、ミモザちゃんも気に入られると思うわよ、と言っていたが、お義母様は私に甘い所があるのでどうしても硬くなってしまう。


 案内の執事にこちらです、と示された庭には初夏の鮮やかな赤薔薇が咲き、気持ちのいい日陰を作る白いパラソルが大きく広げられて、その下に鮮やかなドレス姿の淑女が薔薇に負けず劣らず着飾って花を咲かせている。


「はわ……」


「変な声が出てるわよ、ミモザちゃん」


「あ、あまりに絵になるものですから……すごいですね」


「そうだろう?」


 その光景に見惚れて変な声を出していたら、後ろからがっしと肩に腕を回された。


 そして確かに女性の声ながら、どこか力強い男性のような響きで自慢気に言われた。


 回された腕も背中に感じる感触も女性のものだが、背が高いようだ。私は平均的な身長だから、女性にしてはハイヒールを履いているにしても随分背が高い気がする。


「あら、王妃様ごきげんよう」


「お、お、おお、王妃様っ?! あ、あの、本日はお招きありがとうございます……!」


 そうして横を向くと、夜会の時には遠目に見えていた青みがかった銀髪を洗いざらしにし、豪奢な毛皮を纏いながら袖なしのマーメイドラインの青いドレスに青いハイヒールの女性が腕を解いてお茶会の会場に向っていった。


 覗き込まれたときの瞳の強さは一体何だったんだろう。花だと思った淑女たちの真ん中で一番の花を咲かせる青い薔薇……それが私が王妃様に抱いた最初の印象だった。


「おいで、シャルティ伯爵夫人、ミモザ嬢。皆に紹介しよう」


 そして、やはり指先まで神経が通った淑女らしい振る舞いのはずなのに、大胆な威厳を感じさせる王妃様に、私はさっそく気後れしながらも、まるで物語の主人公を見ているように……そして、それはこの場にいる誰もがきっとそうなのだろう……魅せられるまま、王妃様に招かれた通り席に着いた。

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