第10話 アーシャ3
アーシャの温もりで眠れた朝。
暫く彼女のしたい様にさせてから、抱き上げて脱衣所に連れて行く。
ここは洗面台も有るからだ。すると真っ赤な顔で、湯浴みをしたい。そうなので、ここで降ろして出た。
厨房で朝食の準備でも。と思い、フルーツヨーグルトとボイルしたウインナーにトマトソースを掛けクロワッサンにジャムを添えた。
アーシャが着替え終わるのを感知して、抱き上げに行く。
椅子に下ろすとテーブルに2人分の食事を目にして喜んでいた。正解のようだ。
食事中はお互い無言だったが、会話をしていると錯覚する程に明るく、温かい空気だった。
それに、俺が顔を向けると目が合う。いや、アーシャがずっと俺を見ているのだ。何だか、そこからアーシャの言いたい事が伝わってくる。そんな感じなのだ。
食後は髪の毛を乾かしてお茶を一緒に飲んでいると、鏡台に行きたい。と。
察した俺は抱き上げて連れて行き、彼女が化粧をする間にシャワーを浴びる事にした。
サッパリしてタンクトップに革パンで出て行くと、パーテーションからヨロヨロしながら出て来るアーシャが居た。
急いで抱き抱える。きちんと化粧を施し、髪の毛も綺麗に梳いている。
腰まで有る長い髪の毛は毛先でゆるく波打ち、前髪は眉の辺りで切揃えられている。
うっすらとシャドウとチークが入り小さな唇は可愛らしいピンク色だった。
―――――目が離れなかった。人形の様に美しい造形で、言葉に出来無かった。
意志とは関係無く、お互いの瞳に吸われる様に、顔の距離が近づいて
―――――熱く、滑らかだった。電気が走った様に刺激的だった。
長いこと、口付けを交わしていた様に思うが、俺の方からそっと。離した。
アーシャは名残惜しそうにうっとりとした瞳で2人の唇を繋ぐ銀の糸を見ていたが、恥ずかしくなったのだろう。耳まで真っ赤になって目が泳いでいた。
「ぁ…わ、あ、あの、う、うれし―――」
もう一度、彼女の唇を塞いだ。抱き上げたまま強く抱き締めた。
今は2人並んでソファーに座り、お茶を飲んでいる。
アーシャは真っ赤な顔のまま俺の左腕に摑まってぽわんとしている。
「その、先程は済まなかった。自分でも驚いたが、アーシャの魅力が過ぎた」
「―――はわ、ぃえ、ぅ、嬉しかったです。ですから、謝らないで下さいまし。幸せですから」
「少し、落ち着いたら、外の空気でも吸いに出てみるか?」
「え?宜しいのですか?」
「ああ。その代わり、俺が抱いたままだがな」
「ぇ?―――ええ?そ、それは、流石に、そのぉ」
「勿論、アーシャに無理をさせない為でも有るが、俺にそうされていれば、余計なちょっかいを誰も掛けられないと言う意味も有る。なに、外に出て少し眺めるだけでも気分が違うだろう。嫌なら止めておく」
「いや、では無いのですが――恥ずかしいだけで」
「外は寒いかも知れん。上着を着て下は毛布を掛けよう。肌が出る事も無い」
「そうですね。それならば大丈夫かも知れません」
先程の余韻―――落ち着かせる為に、少し雑談をしてから服を整えて、毛布を掛け抱き上げてからテントを出た。
「おはようございます!魔人様、聖女様!お加減は如何でしょうか」
「ああ、おはよう。ご苦労様」
「おはようございます皆様方。メル様のお陰で回復しております。足腰が弱ってますがメル様がいらっしゃいますから大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
「いえ、救国の聖女様ですから!お身体をご自愛下さい!」
「少し見回ってくる」
そう言うと、少し後ろを神殿騎士の2名が着いて来た。
「外は少し寒いのですね。まぁ、あれが邪竜ですね?やはり大きいですわね。良く戦えたと我が身ながら感心してしまいます。メル様のお力があったればこそ!ですわね。感謝の気持ちしか御座いませんわ」
「自分もその1人だよアーシャ。確かに、1人でも倒せたが、長丁場を覚悟していた。2、3日は掛かると踏んでたけど、その場合は周囲の被害が拡大しただろうし、最悪邪竜が逃げだした可能性も有る。極力短期決戦が望ましかった。アーシャの頑張りは正直、助かった。良く耐えたね」
「はい。無我夢中でした。メル様に褒めて頂けるのが一番嬉しいです。あ、何やら囲ってますのね?所々に建物が見えますが……」
「うむ。説明した解体用の作業床と現場詰め所、各ギルドの仮設事務所。この現場の軍の本陣だ。見て回るかい?挨拶をする場面が出るかも知れないが」
「……そうですね、メル様もいらっしゃるし立場的にも許されないでしょうから」
「わかった。神殿騎士殿も随行してくれ。現場本陣に顔を出す」
「はっ!了解です!」
「本陣には宮廷魔術師達と中央軍の幹部が居る。軍の方は顔を見せて挨拶だけで良いが、筆頭殿達は雑談も必要かな」
アーシャの負担にならない様に、ゆっくりと歩いて向かう。
しがみ付いて来たので寒く無いか辛く無いか聞いたら、周囲の視線に驚いた様だった。
周りからしてもそうだろう。俺が抱いているのもそうだが、この場に似付かわしくない女性だし、最も相応しい女性でも有るのだから。
建物の前で警備の兵士に挨拶をして、取り次ぎを頼んで中に入れて貰う。
まだ建設中だけ有って殺風景で設備も十分では無いが、大きな一部屋に宮廷魔術師達と軍の師団、大隊長迄は机を当てがわれていた。
「やあ、皆さんご苦労様」
俺が声を掛けると、軍人は緊張の、宮廷魔術師達は砕けた空気が漂い、二席のイエネッタお姉様から声が掛かった。
「おはようメル!朝から姫とデートとは憎い男だな!初めまして聖女様。見事な戦いぶりに敬意を表します。宮廷魔術師第二席を任されております、イエネッタ・フォン・ルジェアンテです。お身体の調子はどうですか?」
「おはようございます、ルジェアンテ様。ご丁寧な挨拶、恐縮で御座います。ボルドー家次女、アーシャ・フォン・ボルドーです。拙い戦いでしたが、メル様のお役に立ててホッとしております。体調もメル様のお蔭で快方に向かっております」
「お見事でしたぞ聖女殿。儂が筆頭を務めますディート・フォン・イッツェファーヘンですじゃ。女王様も御安心出来た事でしょうぞ」
「正しく、聖女様の奮闘には感動を覚えました!中央軍団ビスマール将軍に代わりまして感謝と称賛の意を!中央軍団、第一師団団長リッツシェル・フォン・グラーティンであります!」
その後も皆からの挨拶を受けて少し引き気味のアーシャだった。まあ、通過儀礼だしな。
ソファーセットに座って少し雑談する事になった。俺、アーシャ、向かいに筆頭の爺さんとイエネッタで後は後ろに立ってたり椅子を持って来て座ったり。
何も無い可能性が高いので、紅茶セットと焼き菓子を人数分出して、アーシャとイエネッタがお茶を注いで配ったりした。
「メル坊は本当に便利じゃのう」
「だねぇ、気が利く男は違うね!早くもアーシャ様を口説き落としたのかい?」
「なぬ!」
「そんな!」
「神は居ないのかッ!」
「くど、いえ、あ、創世神様が、メル様から離れるなとお告げで―――」
「ふぉふぉ。若い者はええですの」
「あたしだって若いわよ!耄碌してんじゃないわよ!」
「イエネッタのお嬢は妙齢ってんだよ」
「ウチの部隊のお姉様方もイエネッタと変わらんからなあ!ガッハッハッ」
「どう言う意味だい!あんたらチクるよ?アーシャ様。男は馬鹿ばっかりですからお尻に敷いて、潰れたら蹴って捨てる位で丁度いいのですのよ?おーほっほっほ」
「お姉様いじりはその辺で。機嫌を損ねると陣地が飛ぶ。ギルドのダンカン達と話合って擦り合わせしたんだが―――――」
基本的な各作業の流れと細かい持ち場の区分け、等々を報告して問題が無いか聞いてみた。
概ね問題無し、と言う事で今の所は落ち着いた。戦闘に加わって無くとも、皆が関って利益が出る様に考えたんだ。しかも、国が親の立場で売りに出せるのだから、これで文句が有ればたまったものじゃない。
「メルも良く考えたもんだねぇ?やっぱアンタ筆頭やらない?」
「そうだな。軍や王宮の面子も保てるし助かる!」
「アンタ達だって有能なんだ。持ち回りでもやったらいいだろ?」
「「「「「え~?」」」」」
「なんじゃ、お主等。そんなに嫌なんかい!おっと、そうじゃった!メル坊、今回で『白金クラス』と勲章は確定なんじゃが、爵位をどうかと王家と公爵家から出ての。最低でも貴族位は受けて貰いたい」
「「「「「おおお!」」」」」
「む、それは冒険者として不味いだろ。他国で活動してるだけでスパイ容疑だ。まあ、貴族位だけなら何とか―――各公爵家もか…無碍には出来んな。王都迄には考えておくが、爺さんにも相談する」
「うむ。良い返事をな」
「アーシャ様!遊びに行ってもいい?ここは女性が少ないし軍の下士官の娘は規律が有るからさ。聖女様の面会なら何人か行けるだろうし」
「あ、はい。是非!」
本陣を出てテントに戻る。ソファーに寝かせて室内用の毛布を掛けた。
「少しつかれたか?お茶か?昼食?眠ってもいい」
「お茶を飲んだら、少し眠りたいです」
無理をさせたかな?だが、一度早目にアーシャの顔を見せる必要性は有ったのでな。
お茶をゆっくり飲んでから、ベッドに運ぶ。寝間着に着替えさせてから布団を掛けて眠らせた。
眠る迄は手を握っておいた。安心出来るならいい。
さて、洗濯をしなくてはな。浴槽に洗濯物を入れ、石鹸粉をまぶす。後は水魔法で水流を起こして洗うだけだ。何回か行い水を抜いたら。空の浴槽で風魔法を使って遠心力で水気を切る。
後は1つ1つ広げてアーシャの髪の毛を乾かした俺の手から出す温風魔法で撫でながら乾かす。
畳んで終わりだ。
そこで、夕飯をどうしようか考えた。話も有るし、母さんを呼んで3人で、ってのも良いか?いや、いきなりは不味いか?緊張したら可哀そうだ。どうする?
{そりゃあ、お母さんも呼んで欲しいわよぉ。でもメルちゃんに任せるわよ?2人の事なんですもの}
そうだね。たださ、結局何時か会うなら早い方が良いのかなってさ。何だかんだ行っても俺達の出会いの切っ掛けも今迄や此れからも母さん絡んでるから、説明が早くて済むと思うし。
何よりアーシャは母さんを崇拝してるしね。
{あらそう?まあ、まかせるわ。メルちゃんの好きな様にしなさい?お母さん見守ってるから}
時計は13時過ぎ。アーシャの睡眠深度は……深いな。
なら、ダンカンの所でも行くか。
先に各ギルド長達と意見交換をした。目立って問題や不具合は無く、やりながらの手探りになりそうだ。
今は手が届く範囲で鱗の切り取りだが当分掛かる。地面でこれだと難航しそうだ。皮の剥ぎ取りは大き過ぎても人力で運べないので5×10メートルに統一。で凍らせる。常に凍らせておかないと腐るので魔術師ギルドも忙しい。
「ダンカン。手こずってるな」
「始めたばかりだ。仕方無ぇ。2人懸かりで日に2・3枚だな。慣れりゃ倍位は行くだろ」
「爺さんとも、予定コストと最低単価は取り決めたろ?なら任せるさ」
「ああ、任せな」
雑談しながら王都ギルドがどうなっているか聞いたり、オッサンの滞在予定を聞いたりした。
俺も最初は凱旋したら直ぐ此処に戻って来るつもりだったが、ソニアやターニャ、アーシャの事が有る。本人の希望とアーシャは婚約の話をした上で家の意向も聞いてから決めなければならないな。
取り敢えずテントに戻ろう。
テントに戻ったがアーシャはまだ寝ていた。
少しでも安心する様に手を握る事にして彼女の寝顔をボンヤリと考え事をしながら見ていた。
小さく寝言が聞こえる。夢でも見ているのかと思ったら、うっすらと瞼が開いた。
「ぁ―――メル様…ぅれしいです」
「まだ怠いか?」
「いえ、今は大丈夫です。やっぱり起きてるだけでも疲れちゃうみたいで」
「ああ、無理をする必要は無いんだ。辛ければ眠ればいい」
アーシャはそのまま瞼を閉じると眠ってしまった様だった。
かわいい寝息が静かに聞こえてきた。
布団を掛け直してから、ベッドサイドに椅子を置いて傍に着いていることにした。
午前中に話をしよう。そう、決めた。
ほんと、不定期投稿ですみません
お読み下さっている方々、評価下さった方々に申し訳無いです。
頑張って進めておりますので、生温かく見守りくださいませ。
さら




