悩
私は、自分でも気づかないうちに、彼の目、だけでなく、彼も好きになってしまったようだった。
彼が目をつむっていても、彼を愛しいと感じたときから、私の心には動揺が走った。
寝顔を見て、この人をずっと見ていたいと思ったときから、私は自分が壊れていくような感じがした。
それと同時に。
私が彼の目が大好きだという事実もまた、大きく膨らんでいた。
どちらか一方だけならば、
私は悩まなかったのだろうか。
疑問ばかり募らせて、思考を止めることばかり繰り返してしまう。
私の目の前に彼がいる。
まな板に寝かされたさかなよろしく、まったく無抵抗な格好で。
私はすでに何度か、彼にたいしてスプーンを振りかざしていた。
それは決まって、彼が寝ているときだ。
彼が起きているときは、彼が好きな気持ちと、彼の目を好きな気持ちがつり合って、どうにか理性を保っていられた。彼が目をなめさせてくれたのも、歯止めになっていたのかもしれない。
けれど、彼が寝てしまうと、もうだめだった。
どうしようもなく、目を取り出したくなってしまうのだ。
私は何度もスプーンを持つ手に力をいれ、緩めることを繰り返す。
とても苦しかった。
彼を好きだから、彼が痛がることはしたくなかった。
彼は先端が嫌いだから、できれば向けることもしたくなかった。
そっと頭を撫でるだけにしておきたかった。
目を奪えば、彼は元通りの生活を送ることはできないだろう。
もしかしたら、痛みのショックで死んでしまうかもしれない。
彼が死ぬのは嫌だった。
彼と一緒に今まで通り生活できないのも嫌だった。
でも、どうしようもなく恋い焦がれてしまうのだ。
彼の目を抉り、口に含む。
魚臭さのない、独特の塩見が口に広がる。
少したって、鉄の味がする。
そう、想像するだけで、わたしは。
・
・
・
私は自分のことで精一杯だった。
だから。
最近、なぜ彼が、私の前で、睡眠をとるのか、理解できていなかった。




