目
私は人の目が好きだ。
丸くて、円くて、固すぎず、柔らかすぎない弾力があって、適度に透き通っている目が好きだ。
キョロキョロと動き回るのも楽しいし、まったく動かないのも色気がある。高貴な香りがする日本人の黒の光彩も好きだし、澄みわたったアメリカの蒼もすきだ。オッドアイというものに特別な興味がわくわけではないけれど、片側ずつ違った色身を味わえるというのもとても良いと思う。涙を流して潤んでいるときなどは、言い様のない興奮を覚えてしまう。
私は人の目が好きだ。
何度か、喉から手が出るほどほしいと焦がれるほどの、目の持ち主に出会った。そのたびに、手に持っているスプーンや、カッターや、シャープペンシル(それをつかってどうやって、と思うかもしれないけれど)で、相手の目を抉り出したい欲求にかられた。
傷つけたら価値が下がるの。
あれは動いているからきれいなんだよ。
取り出したらきっと濁ってしまう。
そんな言葉を一瞬で頭の中に並べ立てて、私の何にも変え難い欲求を押さえるのは容易ではなかった。
そのたびにグッとこらえて、スーパーで新鮮な魚(それもとびきり目の大きいやつ)を買って、スプーンやカッターやシャープペンシルで抉り出すのが、私の常習的行動になっていた。
人は慣れる生き物だ。
ジェットコースターだって、何度も乗れば飽きてしまうし、外国にいったって普通に馴染んでしまう生き物だ。
そして慣れは感情を麻痺させて、熟練度を磨かせる。
そういう点で言えば、私は抉りだし(もちろん目、専門の)のプロだった。
目を傷つけないように慎重に目の裏側にスプーンを潜り込ませる。
魚の目は、人間のそれより脆く、柔らかい。(私は少しだけ不満を感じる)
もしこれが人間だったら(といつも想像する)きっといたくて暴れてしまうだろうから、なるべく痛みを最小限に押さえるため、神経を一回ですべて切り離す。
ぶちぶちと、小気味良い音が私の耳を癒す。
スプーンの上にコロコロとした球体が転がる。
私はしばらくそれを見つめ、指で感触を確かめ、思う存分堪能してから、最終的に口に運ぶ。
最大の愛はカニバリズムといったのはだれだったかしら?
とある漫画でのワンフレーズが、頭のなかでリフレインする。
舌でコロコロと転がし、感触を十分に確かめたら、咀嚼はせずに飲み下す。
そうして私の欲求は、一時的に満たされる。
納得する。了承する。気を落ち着ける。
けれど、すぐにまた、むくむくと、目への限りない欲求が顔をのぞかせる。それを消化していくのが、私がこれまでの人生で一番尽力したことだった。




