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元社畜は自由を謳歌する  作者: 東川 善通
若とその周り
11/18

対面

 カテリーナが10歳の年明けを迎えるころには驚異的なスピードで魔法も上達していた。そのため、それぞれの属性の特徴魔法を使用できるほどだ。ただ、やはり、実践においての使用はまだまだ難しいらしく課題となっている。その中で、カテリーナの魔法が武器化に特化していることが判明した。世間的にはそれは残念特化または底辺特化とも呼ばれるものだった。


「底辺特化? そんなの所詮は使い方次第だよ」


 僕としてはむしろ武器化最高だよと当の本人は喜んでいた。


「相手の上空で武器化させて、降らせるっていうのも出来るだろ。あ、いや、待て、そうなると相手の上空に魔力を投げておかないといけないのか」


 実際、魔力自体を投げることはできる。しかし、それは体から切り離す行為であり、供給がされない状態となる。つまり、投げられた時点で供給はなくなり、距離によってはそこに届く前に霧散することとなる。

 ブツブツと考えるカテリーナに魔法を教えているアマラントは面白いことを考えるものだと笑みを浮かべ、考えに耽っているカテリーナを見守る。その隣にはつい最近、アマラントが連れてきた彼の侍女を名乗る黒髪赤目のフィデリアという少女。表情の動きなく、どこか人形のようなそんな印象を受ける。


「ケイ様、お茶はいかがでしょう?」

「ん、あ、ありがとう」


 バスケットからティーセットを取り出し、準備を済ませたフィデリアは魔法を展開し、試行錯誤を繰り返すカテリーナに声をかける。その瞬間、展開されていた魔法は霧散し、カテリーナは礼を告げて、アマラントとフィデリアの傍に向かう。


「ケイ様はあれほど魔力を使用されておりますのにお疲れになりませんの?」

「ん? あ、やっぱ、疲れるもの?」

「えぇ、枯渇すれば死ぬ可能性すらあります。ですので、ケイ様は大丈夫なのかと心配になったのですが、枯渇しそうな気配が一切しませんわ」

「うむ、もしかするとだが、ケイの器は(わぬ)よりも大きいかもしれぬな」

「え、へい――アマラント様よりも大きいというのは」

「まぁ、(わぬ)も衰えぬというわけではないからな。全盛期であれば、負けぬが」


 フィデリアの言葉にカテリーナは成程と頷き、アマラントは思うことを零す。フィデリアはアマラントのことを普段名前で呼ばないようで、本来の呼び方がカテリーナと言葉を交わした日から未だに零れる。


「まぁ、それはさておいてだ。ケイに相談があるのだが」

「相談? 僕で答えられるならいいけど」

「十分できることだ。取次ぎを頼みたい」

「誰に……もしかして、父上に?」

「そうだ。それから、魔族の商人とやらもな」

「うーん、まぁ、聞いてみるよ。出来るだけ会ってもえらえるようにする。だって、アーラは僕の魔法の先生だからね」

「あぁ、期待しておこう」

「ケイ様、(わたくし)も同行いたしますのでその旨もよろしくお願いいたします」


 アマラントの頼みを引き受け、紅茶と雑談を交えた一休みが終われば、実践や魔法の試行錯誤ではなく、器についての授業がフィデリアによって開催された。途中にはアマラントによる注釈も入る。カテリーナはただただ本などからは学べぬことでもあったため必死に持ってきていたノートに説明を書き込んでいく。時折、実践はしないと言ったのにフィデリアとアマラントの影からちょっかいを喰らうのだが、そこは武器化した魔力を使って応戦するのだった。




 数日後、アレハンドロとアマラントの対面が実現した。

 その話をカテリーナに持って来られた時、アレハンドロはかなり熟考したが、会うと判断を下した。可愛い娘に近づくものが何者なのかを見極めるという意味もあるが、正直なところ嫌な予感の方が強いため、それを明らかにしたいという考えからでもあった。


「では、父上、アーラを迎えに行ってくる!」

「あぁ、気をつけてな」

「大丈夫、すぐ戻れるから。書斎で待ってて」


 実の所、アマラントとフィデリアはカテリーナの出迎えなど必要ではない。なにせ、直に屋敷の方に出現することができるのだ。しかし、それではアレハンドロたちを警戒させてしまうため、迎えに来てもらうという芝居を打つこととなった。そして、時間を少し置き、二人と共にカテリーナは屋敷へと戻ってくる。


「若、デイマスも到着して大将と一緒に書斎で待っててもらってる」

「お、ありがと。じゃあ、そのまま書斎に案内する形で大丈夫だね」

「いや、案内はエリゼウに代わってもらえ」

「なんで!?」


 ズールイの隣に立っていた小柄な犬耳騎士エリゼウに案内が代わるとなると当然ながらカテリーナは驚きの表情を浮かべる。大人の事情だとだけ告げるも勿論、納得できるはずもないのだが、案内されるアマラントとフィデリアは気にしてない様子であったため、渋々それを了承した。書斎に向かうエリゼウとアマラントらを見送った後、カテリーナはズールイとミンシュエンに引きづられて、特別授業を受けることとなった。




 エリゼウに案内してもらった二人が書斎に入った瞬間、のんびりと茶を頂戴していたデイマスは奇声を上げ、慌てて床に座り直した。


「で、デイマス?」

「あっしは末端の末端ですんで、これが、これでいいんです!」

「そ、そうなのか??」


 驚くアレハンドロにデイマスはそう答えるもどういうことかわからず、アレハンドロはデイマスとアマラントらを見る。


「お初にお目にかかります、(わたくし)、フィデリア・カーヴェルと申します」

(わぬ)はアマラント・デ・シルベストロである」


 名乗りにデイマスはやはりと震えた声で呟きながら身を縮こまらせ、アレハンドロは困惑しつつも自らの名を名乗るのだった。

 そうして、座談は一人困惑のまま始まる。


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