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元社畜は自由を謳歌する  作者: 東川 善通
若とその周り
12/18

座談

 書斎は沈黙に包まれていた。しばし、沈黙が続いていると、ラウルが茶菓子と紅茶を持って、入室する。そして、サッと並べ、アレハンドロに侵入を試みようとするカテリーナはズールイ達が抑えていることを報告し、退室していった。


「……デイマス、彼らはどういう方々だ?」


 こそりと隣に座るデイマスにこそりと尋ねるアレハンドロ。それにデイマスは自分が答えてもよいものかと口をもご憑かせるものの(わぬ)らのことを隠す必要はないというアマラントの言葉にデイマスは納得いかないまま答える。勿論、心の中ではおたくらが名乗ってくれた方がええんですけど!! と叫んでいた。


「……魔族の皇帝陛下と魔王様のご息女にあられます」

「なっ!?」


 まさかそんなことはないだろうと声を上げるが、市井まで姿絵が普及しているので間違いないと言えば、なんてものと知り合ってるんだあの娘はとアレハンドロは頭を抱える。それと同時にまさかと考えに至る。


「想像できてるかと思うが――」

「ケイは渡さん!」

「……ケイ様に隠している時点である程度は推測しておりましたが、ルシエンテス公爵、そのように食い気味におっしゃらなくてもよろしいのですよ」


 アマラントの言葉を遮り、俺の娘だとばかりに言ったアレハンドロにフィデリアはおかしそうにくすくすと笑う。デイマスは、皇帝の言葉を遮った上に断るという所業にアマラントが憤慨されるのではとブルブルと震えていて、正直役に立てるところがない。アレハンドロはそんなデイマスよりもフィデリアの言葉に眉を顰めた。

 推測していたのなら何故、わざわざという疑問。


其方(そなた)らがケイを大切に、愛しているのは重々承知しておる。他愛のない話の話題は大方、其方らの話ばかりだ。聞いておれば、よくわかる。故に話を聞け」

「……失礼した」

「さて、と言いたいところだが、話を始める前にそこの震えておるデイマスとやら、この話は極秘である。商人であるならば、しかりと口を噤んでおけ」

「御安心なさい。口を噤めと陛下はおっしゃってますが、別にあなたに強制しているわけではありません。ただ、選択していただきたいのです。これからもケイ様の近くにいるのであれば、特に変えることなく、ルシエンテス公爵の箝口令に従っていただいてよろしいです。しかし、もうケイ様らと関わりたくないと、機密を噤むことができないというのでしたら、大人しく退出なさい」


 アマラントの言葉を引き継ぎ、フィデリアはそうデイマスに言葉をかける。そして、最後にココに残るのであれば、きちんと椅子に座りなさいと伝えれば、デイマスは恐る恐ると、けれど迷うことなく椅子へ腰を掛けた。もとより、選択肢などなかった。元々口は噤むつもりであったし、今更秘密が増えたところでどうということはない。


「ふむ、良いようだな。まずは、(わぬ)とケイの関係でよいか」

「陛下に置きましては、先程から話しております通り、魔族の皇帝であられますが、これより先は魔王家のみに語り継がれている事項になります」


 ヒッと予想以上の事の大きさにデイマスが小さく悲鳴をあげる。しかし、フィデリアはそれを一瞥しただけで、言葉を続けた。


「今の所、皇帝陛下は後にも先にもただお一人。つまり、市井で言う初代皇帝そのものということです。血統だのというのは我々魔王家による目くらましにすぎません。つまり、皇帝の血統の証たる目は現段階では陛下とケイ様のお二方のみとなります」


 ではケイはと呟いたアレハンドロにフィデリアは大きく頷き、皇帝陛下のご息女であると告げる。それにデイマスはそれはおかしいのではと首を傾げ、疑問を発言。その疑問にアマラントもそう思うのは道理であると頷く。


(わぬ)の娘は500年も前、生まれて間もない頃に行方知れずとなった」

「それはどういうことだ。ケイは10年前は間違いなく赤子であった。確かに生まれて間もない子であったことは間違いないが」

「ここは推測の域をでませんが、何者かに誘拐され、時を止めた上で、もしくは時のない所に隠されていたものと思われます」

「ケイの魔力が覚醒する前、魔力の流れが妙だったそうだな。現在も残滓が残っておるが、フィデリアの推測は大方間違いないだろう。視れるものが視ればわかる」


 娘が誘拐された当初、当時の魔族領地は当然ながら、娘の魔力を探った。さらには各地を転々と移動しながら、自らの足で調べ周ったと語る。しかし、皇帝の目をもってしても娘の所在を見つけることは叶わなかった。そして、失意のまま500年に近い間、帝の部屋に籠っていた。そんな中、何かを感じて、久方ぶりに外に出た先、そこにいたのがケイだった。


(わぬ)もはじめはどこかで娘が生きていて子をなしたのかと思った。しかし、魔力というのは交わりを繰り返す中でわずかではあるが繋がりを示す印が残るのだ。ケイには我が唯一の妻が持っていた印があっただけだった」


 (わぬ)は印をもたない故にそれは間違いないとアマラントは断言した。


「例え、貴公の娘だとしても、今は我が娘だ」

「承知しておる。ただ、いずれで構わぬ、ケイには皇帝の名を継いでもらいたい」


 アマラントのその言葉に顔を顰めるアレハンドロ。


「皇帝とはいえど名ばかりよ。故に名を継ぐと言っても何か重責があるわけではない。ただ、皇帝という魔族にとっての象徴を残してくれるだけでよい。(わぬ)はかつて永遠を生きるほどの者であったようだが、今はただ衰えていく一方の身だ。この命がどれほど保つか(わぬ)にもわからぬ」


 何であれば、皇帝の名を利用してもよいぞ、魔族ならば多くの者が従うだろうと言うアマラント。

 そんな彼の想いの裏をアレハンドロは考えた。力は衰えたと言っているが、皇帝の座に未だに座る者だ。アレハンドロやデイマスは勿論、この家に住む者を片すのは容易だろう。しかし、だからこそ、自ら出向き、カテリーナを敢えて外して話し合いをする必要などないはずだ。ただ、一方的に言いつければいいのだ。選択肢を与えられているとはいえ、否と答えた後、どうするかは想像が難しい。カテリーナのことを思って、そうかと引く可能性も大きいが、なればとカテリーナを連れ去る可能性もないわけではない。


「ケイが了承したならば、それも良しとしよう。ただ、あの子が成人するまでは内密にしていただきたい」



 アレハンドロは色々と逡巡した後、そう決断を下した。


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