第78話 ーーー最悪の日を阻止せよ!そして、ーーー
火曜日(曇り)
朝、学校に行く前に、シアンにお弁当を渡し一緒に登校する。シアンは疲れた様子だった。
「今日ぐらい学校休めばいいのに〜〜」
「そうもいかない。この件が終わったらゆっくりする」
そう言いながら、シアンは眠そうに目を擦っていた。
学校に着くとスズネが話しかけてきた。
「今日だね……」
「うん……」
お互い、言葉は少なかった。
俺達は、できるだけいつもと変わらない日常を送るようにしていた。ハルファスがどこで見てるかわからない。奴の油断を誘うためにもそうする必要があった。
放課後、大輝の様子はいつもと変わらなかった。今、部活に行っている。部活が終わった後、俺は、大輝と入れ替わろうとしていた。
部活が終わり、大輝が帰ろうとして自転車置場に姿を現した。スズネが声をかけて、呼び出す作戦だ。
人気の無いところに大輝とスズネが現れた。俺は、黒翼のマントを羽織り気配を消していた。
「神屋代、何の用なんだ……」
「ちょっと、話があって……」
「それって、もしかして、告白……」
その時、俺は大輝を後頭部を打ち気絶させた。この技は、スズネ直伝の技だ。
「すまん、大輝……」
俺は、ドアを開き大輝をリーナの家に運ぶ。そして、変装してすぐに戻った。
「えっ〜〜本当にシロウ君? 大輝君そのままだよ」
「あぁ、すごい能力だよね。使ってる俺自身も毎回、ビックリしてるよ」
「女の子にもなれるの?」
「うん、この間、シアンに化けたばかりだよ」
「……女の子になるとどうなるの?……アレとか……」
「アレって?」
「その……何というか……アレよ〜〜」
「あぁ〜〜身体も女の子になるみたいだよ」
「そうなんだ……」
「どうかしたの?」
「何でもないよ……」
スズネは、何か言いたそうだったが、俺は、そんな余裕はなかった。近くにはドラ子もいるはずだから、大丈夫だと思うが……
「じゃあ、帰るね。スズネとは、ここでバイバイだ。終わったら連絡するよ」
「私もいかなくていいの?」
「前回と同じにしたいんだ。スズネが一緒だと違う未来になってしまう可能性がある」
「わかったわ。連絡待ってるから……気をつけてね」
俺は、自転車をこぎ、大輝の自宅に向かう。出来るだけゆっくり自転車を走らせた。すると、途中の神社の前で、具合悪そうに休んでいるお婆さんがいる。
大輝なら、声をかけたはずだ。
「お婆さん、大丈夫? どこか具合が悪いの?」
「な〜〜に、少し息切れしたから休んでいただけ……少し休めば治るから……」
お婆さんは、そう言いながらも苦しそうだ。俺は、お婆さんお腕を見た。腕輪は着けていない。この人は、本当に苦しんでるんだ。
「お婆さん、家どこ? それとも、救急車呼ぶ?」
「家は、すぐそこだ。本当に休めば治るから心配せんでもよいわ」
お婆さんが指を指した家は、目と鼻の先だった。俺は、お婆さんを背負いその家に運んだ。
お婆さんは、薬を飲むと落ち着いたようだ。持病の発作らしかった。
「お前さんのお陰で助かったわい。ありがとう」
「発作が治まって良かったです。では、また……」
「ちょっと、待っておくれ……これ、これを持って行きなさい」
お婆さんから飴玉をいくつかもらった。
「お婆さん、ありがとう。具合悪くなったら救急車呼ぶんだよ」
俺は、そう言ってお婆さんの家を後にした。
神社の前まで来ると、今度は、屋代の方から子供の泣き声が聞こえた。
俺は、何だろうと思いその神社に立ち寄った。その子は転んだのか、膝から血を流していた。
「転んだのか?」
「わぁ〜〜ん、痛いよ〜〜」
俺は、その子の腕を見た。腕輪は着けていない。俺は、神社の水道を拝借してハンカチを湿らせその傷に当てた。なかなか泣き止まない子供に、俺は、さっきお婆さんからもらった飴を渡した。すると、機嫌が良くなったのか、少し落ち着いたようだ。
「君、家どこなの?」
「すぐそこ……」
指を指した家は、神社の目の前の家だった。
「じぁあ、お兄ちゃんと一緒に帰ろうか?」
「ううん……ママが今は帰ってきちゃダメだって言ってた……」
うむ。おかしい……子供の泣き声は、あの家なら聞こえてるはずだ……
母親がいるなら、出て来ない方がおかしい……
「なんで、帰って来ちゃダメなの?」
「おじさんが来てるから……」
「おじさん……?」
もしかして、主婦の情事というやつか?……怪しからん!
子供が怪我をして泣いてるのに……
でも、おかしい……もう午後6時半ごろだ。辺りは暗くなっている。この物騒な世の中で子供をこんな時間まで、1人で遊ばせているわけがない……
見ると、子供のポケットから光る腕輪のようなものが見えた。もしかして……
俺は、子供と距離を取った。その時、その子が俺に覆いかぶさってきた。
「どうしたんだ?」
「お兄ちゃんと遊ぶの……」
「何をして遊びたいの?」
「わかんない……こうしろって言ってるから……」
ハルファスの声は、しわがれた声だ。この子は操られているだけかもしれない。
「シロウ様!その子から離れて下さい!」
突然、ドラ子の声がした。俺は、その子を振り払い、突き飛ばした。
「わぁ〜〜んわぁ〜〜ん」
子供が泣き出したが、声が野太くなっていく……
「わぁ〜〜ん、わはははは〜〜〜ドラ子がいるとはなぁ〜〜」
この子供が、ハルファスだ。憑依されているようだ。
俺は、聖剣を取り出しその子の身体に突き刺した。この子を救うにはそれしかない。
すると、身体から黒い影が溢れて空中に集まりだした。俺は、子供にフェニックス涙を飲ませた。傷は塞がり、意識もしっかりしてきた。
「君、危ないから、逃げろ!」
俺は、その子をこの場から逃した。ハルファスは、黒い人間大のカラスへと変貌していた。
「ハルファス!きさまーー!」
「お前は、何者だ。儂を知っておるとは、それに、ドラ子までおる……そうか、お前が、サリーナの契約者か……」
この虫唾が走る声をもう一度聞くとは……
俺は変化を解き、元の姿に戻る。今回は、ドラ子の不意打ちは無駄だったようだ。
「ハルファス、大人しく捕まりなさい。そうすれば、少しは手加減してあげるわ」
「ものぐさの吸血鬼が何を言う。わしは、地獄の伯爵だぞ」
「それが、どうしたの?地獄なんて、冥界でも最悪の場所じゃない。悪人の魂を奴隷のように好き勝手して遊んでるだけじゃないの」
「地獄があるから、冥界も均衡が保たれておるのだぞ〜〜!」
「そうかしら〜〜私には、ただ、憂さ晴らしに虐めているだけだと思うけど〜〜」
「この、吸血鬼風情が〜〜!」
ハルファスの魔弾が、俺とドラ子に放たれる。ドラ子は、魔弾をヒョイっとかわし、俺はマントで防ぐ。ここは無人の神社とはいえ、周りには住宅もある。こんなところで戦えば、周りに被害が出る。
「ドラ子、何とか拘束できないか?」
「やっているのですけど、すばしっこくって……」
空中でドラ子とハルファスが、戦っているが、動きが速くて見えずらい。一瞬の隙に、ハルファスは何かを唱えたようだ。すると、周りから、大蛇が現れた。
「この者達は、蛇地獄の主達だ。お前も無限の苦しみを味わうが良い!」
大蛇が6体襲ってきた、俺は、覚えたての剣で対抗するが、思ったよりこの蛇の力が強い。
その時、【白虎、朱雀!顕現せよ。急急如律令!】
スズネの式神が、加勢に入る。
「シロウ君の跡をついてきちゃった〜〜」
と、照れ臭そうにスズネが言っていた。正直、助かる……
スズネは、破魔の剣でその大蛇の一匹と戦っている。俺も違う蛇と戦っていたが、かわすので精一杯だ。一匹ならどうにかなりそうだが、一度に数匹の相手は厳しい。
空中では、ハルファスとドラ子が物凄い速さで戦っている。
ドラ子達に気をとられた瞬間、後ろから鎌首を掲げた大蛇が俺を飲み込もうとしていた。気づいていたが、目の前の相手の力に押されていた。
後ろの大蛇の大きな口が俺に迫る。俺は、避けようとしたがそれは杞憂だった。大蛇の口にはたくさんの人形が詰め込まれていた。
「エリックさん……」
「シロウ、油断は禁物デス」
「助かりました」
すると、突風が吹き、一匹の蛇の首が落ちた。シアンの風魔法だ。
「シロウは、シロウに戻ったの?」
そう言いながら、次の蛇を風魔法で攻撃している。今度は、突然、大蛇が空に吹き飛んだ。大きな金棒が見えた。
「クルミ……」
「シロウ様、加勢に参りました」
心強い仲間が揃った。俺は、目の前の大蛇の首を聖剣で斬り裂いた。血飛沫が宙に舞い上がる。スズネも、どうやら、大蛇を仕留めたようだ。
あとは、ハルファスだけだ……
◇◇◇
「あの速さでは、手出しは難しいデスね……」
「同感。下手に手を出せば、ドラ子さんの足を引っ張る可能性もある」
エリックさんやシアンは、その動きの速さに驚いていたが、
「シロウ様、私を抱えて飛んで下さい」
「クルミ、何か良い案があるの?」
「やってみないとわかりませんけど……」
俺は、クルミを抱えてドラ子達の側に来た。そして、いきなりクルミは金棒をバットのように降り出した。すると、その金棒は、どんどんと大きくなる。
「これぐらいで大丈夫でしょう」
「クルミ。何するの?」
「野球です。昨日の夜、みんなと見てました」
「そ、そうなの……」
ドラ子は、クルミがしようとしてる事を悟ったらしい。
……きっと、一緒にテレビ見てたんだろうなぁ……
ドラ子は、ハルファスをクルミの射程圏内に誘い込み。そして……
『カキーーン!』
「やった〜〜ホームランです」
クルミは嬉しそうに満面の笑顔を浮かべていた。
ハルファスは、空高く打ち飛ばされていた。
どうやら気絶しているらしい……ハルファスは動きを止めていた。
落ちてきたハルファスをドラ子が拘束した。
「終わった……これでもう、あの時のような悲劇は起こらない……」
みんなの助けがあってこその未来だ。俺だけでは、きっとどうにもならなかった。
「これが、ハルファスデスか? カラス人間デスね」
「目が穢れて痛いわ」
「見た目はそこそこ可愛いわよ」
……スズネは、少し脳天気すぎだろう……
「ハルファスの本体を見たのは初めてです。ただのでかいカラスですね」
ドラ子の言葉は、トゲがある……
俺は、こいつだけは山程文句があったが、目を覚まされて暴れでもしたら面倒なので、ドア2を開けこいつを押し込んだ。あとは、冥府に行って正当な裁きを受けさせよう……
いろいろ騒いだので、人が集まりだした。俺達は、ドラ子の転移で家に戻った。
◆◆◆
今夜は、みんなで宴会だ。夜遅くまで飲んだり食べたりして過ごした。
でも、俺は、素直に喜べなかった。一度目の世界を知っているからだ。
それと、リーナに伝えなければならない事がある。リーゼとの契約の事だ。
スズネは、今日はシアンのところに泊まるらしい。スズネは、女の子のところに泊まるのは初めてらしく、えらく喜んでいた。
俺は、先にリーナにあって話そうと思っていた。みんなの前では、リーナは本音を出さない。
俺は、みんなが楽しんでいる隙に、冥府のリーナの居室に行く。
リーナは、ベッドで寝ていた。部屋は、また、散らかっていたけど……
「リーナ、リーナ」
寝ているリーナに声をかける。リーナも気づいたようだ……
「シロウ、来たの?」
「うん、向こうに行った悪魔は捕まえたよ。リーナは?」
「さっき、調印式が終わって帰って来たばかり……邪龍族は、図体もでかいけど気も長い。それにドラキュラ伯爵もいたから、時間ばかりかかった」
「ご苦労様……それと……話しがあるんだけど……」
「わかった。今、起きる」
リーナは素っ裸だった……
「リーナ、服、服着てよーー!」
「シロウ、どれでも良いから取ってくれる?」
俺は、部屋に散らかった服をかき集めリーナに渡した。リーナは、恥ずかしげもなくその服に着替えた。
「相変わらず、リーナは、リーナだな」
「私は私よ。シロウ、話って?」
「あぁ……その事なんだけど……」
リーナに今までの事を包み隠さず話した。多分、リーナは、俺が話さなくても気づいていただろうけど……
「そうなんだ……」
「うん……」
しばらく沈黙が続いた。それを破ったのはリーナだった。
「シロウが来た時から、気づいていた。正直に話してくれたのは嬉しい」
「うん……」
「……で、でも、なんでリーゼなの?なんで……」
こんなに取り乱したリーナを見たのは初めてだ……
「すまん……言い訳かもしれないけど、あの場合、俺にはどうする事もできなかった……」
「それは、わかる……じゃないとシロウは、死んでたのでしょう?」
「あぁ……死んでいた」
「生きてて良かった……それは、感謝しなければならないのはわかっている」
「俺もそう思うよ。リーナとまた、会う事が出来たし……リーナ、俺は、リーナの血が欲しい。リーゼじゃなくリーナときちんとしたいんだ」
「良いの? 私の血を飲めば、もう、人ではなくなるのよ」
「リーゼの血を飲んで、もう、半分人じゃなくなっている。それなら、俺はリーナの方がいい……」
「わかった。私の血を飲んで……そして、ずっと私の側にいて……」
「あぁ……俺は、リーナのものだ……」
俺は、リーナと口づけをした。そして、温かい液体を身体に流し込んだ。
俺は、人間では無くなった……




