第20話 ーーー宿屋の中ではーーー
私は、ソランジュ=エカテリー、今年、20歳になる。私は、騎士の家庭に生まれ、幼い頃から、剣術を学び、ミリエナ国第一王女の侍女兼護衛が任務。
アンリエット様が10歳の頃、お側仕えを命じられ、今まで一緒に過ごしてきた。アンリエット様は、とてもお優しく聡明な方で、年上の私でさえ、その魅力に傾倒している。
しかし、最近、こともあろうか不届き者がアンリエット様の周辺を騒がしくしている。そう、アンリエット様のお着替えを覗き見したシロウとかいうゴミ虫だ。
更に、あのゴミ虫は、アンリエット様の前で自らの裸体をさらけ出したのだ。いくら黒い魔人が襲ってきたとしても裸はあまりにも失礼であろう。
助けるならば、己の身支度を整え、甲冑を着込み、それから駆けつければ良い。それが、騎士たる最低限の所作だ。
……あのゴミ虫め!ゴミならゴミらしく腐臭をさらし、己が悪臭で窒息死すれ良いものを……
ところが、アンリエット様は、何かとゴミ虫の事をお気遣いしているご様子。今も、明日、あのゴミ虫が聞きたがっていた話をすると言って張り切っておられる。
……あーーアンリエット様、お優しいにも程があります……
来月に控えたお見合いの話は、サラマー国の戦争の件で流れそうですし、私としては、アンリエット様がお幸せになってくれるのでしたら、どなたでもと思っておりましたが、アンリエット様をお幸せにできるのは、私しかいないのでは?と最近は思うようになってきました。
お優しいアンリエット様の為にも、あのゴミ虫だけは、許しません。絶対、お守り致します。
「ソランジュ、ソランジュ、どうかしましたの?」
「いいえ、なんでもありません……」
「ソランジュが、着替えの服を掴んだまま動かないものですから、お身体でも悪いのかと心配しました」
「ご心配おかけしまして申し訳ありません」
「それより、私のパンツを離してください。恥ずかしいですわ」
「こ、これは、重ね重ね失礼しました」
「よろしいのですよ。ソランには、いつも迷惑をかけているんですもの」
「いいえ、迷惑などということは断固ありません」
「それと、そちらの史料を取っていただけますか?」
「はい。失礼ですが、あの者のために、アンリエット様がここまでされることはないかと思います」
「いいんですのよ。私、今、とっても楽しいのですわ」
「そうでありますか……」
「はい。シロウ様のお役に立てることがとっても嬉しいです」
……殺す!殺す!あのゴミ虫、絶対殺す。滅びろ!滅びろ!……
「では、もう一度復習しておきますわ」
「…………」
……あのゴミ虫め!明日絶対殺してやる……
◇◇◇
ここは、異世界の宿屋。こちらでは、もう夕方で夕食の時間だが、先程、マイルームで食べたのでお腹が空いてない。それに、日本と異世界の時差に身体が、馴染めない。
……今度移動するときは、昼にしよう……
俺達は、明日の打ち合わせをしながら、話し込んでいると
「シロウは勉強しなければいけない」
とリーナに言われてしまった。
……異世界来て、高校入試の勉強なんて……
そう思っていると、物凄い悪寒が走る。俺は思わず身震いした。
……何だったんだ。風邪でも引いたか?……
俺は、部屋を追い出され、隣に借りてある別室に移動した。
俺にとっては、異世界で、一人になれる時間はとても貴重だ。勉強など手につかず、あれこれいろいろな事を考えていた。
マイルームは、確かに便利だけど、こちらとあちらを結ぶ移動休憩所つまり道の駅みたいになってしまっている。これでは、フィギュア達を飾って、眺められない。俺は、ドア2は、リーナを閉じ込めた時のままだから、あの部屋をフィギュア陳列場所にすればいいのではないかと思った。
それに、俺は、ネトゲとかしてみたい。俺の家には、パソコンがあるが、家族共有である。主に、母さんが使ってる。雑誌や学校での会話からすると、ネトゲは、面白いらしい。スマホでもできるものがあるらしいが、俺が持ってるのは、ガラケーだ。しかも、古いタイプで連絡ようにしか使ってない。
それに、某有名メーカーの最新ゲーム機が欲しい。あのF◯シリーズをやってみたい。前に、幼馴染の大林の家でやったがCGがすごくて感動したのを覚えている。俺ができるゲームは手に持てるサイズのゲーム機だけだ。
……大画面であのゲームができたなら……
考えただけでもよだれものである。
……でも、電源必要だよね……
それに、俺の好みの部屋にするには、ポイントが足らない。この間、女神にもらったポイントは、全て、キングサイズのベッドに化けてしまった。
……そういえば、あのベッドで寝てないや……
リーナとミミーとは契約しているから、意識共有がある。俺が。勝手にドア2に行ったらきっとバレる。あの二人にバレたらあとが怖い……
「う〜〜む」
と悩んでいると、サツキから念話が入った。
『シロウ兄、勉強してる?』
『しようと思ったんだけど、教科書一式、勉強道具がここにない事に気付いた』
『じゃあ、何してたの?』
『ちょっと、考え事してたんだよ』
『ふ〜〜ん、お年頃だもんね』
『お前、何考えてんだよ。もう……』
『暇ならちょっと来てよ』
『わかったよ』
俺は、みんなの部屋にもどった。
「どうしたの?」
「ちょっと、気になる事がある」
「リーナがそう言うなんて珍しいね」
「強い悪魔の気配がする」
「えっ!それって……」
「そう、私達と一緒に封印されていた悪魔」
「そいつは、危険な奴なのか?それとも、魔力暴走してるとか……」
「人間にとっては、悪魔は全て危険」
「それはそうだけど、リーナ達みたいに話が通じる悪魔もいるでしょう」
「私達は、契約があるから、それに従っているだけ。契約のない悪魔はシロウが考えている以上に危険な存在」
「その悪魔は、近くにいるのか?」
「この近辺からではない。西の隣国だと思う」
「それって、サラマー国っていう今、戦争をしようとしている国か?」
「多分、そう。その悪魔は、人の心を支配し男には武器を女性には色香を与える。戦争を好み、死に至時の人間の絶望が大好きなドS」
「そんな奴もいるのか……」
「そう、その悪魔の名は堕天使アザゼル。元天使の上級悪魔」
「アザゼル……元天使なのか?」
「そう。天界から追放されし者」
「それって、元神様って事だよね。でも、どうして……」
「問題はそこではありませんぞ」
「ソラス……」
「戦争が始まれば、否応無しに瘴気がこの世界を満たすでしょう。瘴気が満ちれば、私達も正気ではいられなくなるという事です」
「えっ!契約してるから大丈夫なんだよね」
「通常は問題ない。でも、戦争となり人間の絶望、疑心暗鬼、様々な悪心生む瘴気は、我々悪魔の大好物であります。でも、それが、一定以上摂取できる状態であれば、契約者といえども正気を保つのは困難になるでしょう」
「リーナが暴れまわった状況になるのか……」
「あの時は、意に沿わない覚醒時の魔力暴走。今回はそれ以上」
「えっ!リーナさん暴走したの?」
「あーー、大変だったんだよ」
「うっそーー!信じられない……」
「それを止めてくれたのがシロウ」
「えっ、お兄が?」
「そう。だから、私はシロウと一緒にいる」
「そうだったんだ……」
「このまま、ほっとく事は出来そうもないって事だよね」
「今の生活は結構、気に入ってる。美味しいものも食べれるし」
「というと、戦争が本格化する前にどうにかしないといけないんだよね。瘴気が満ちた戦場にリーナ達が行けば、暴走の可能性もあるんだろう?」
「そう。シロウ理解が早くて助かる。特に、ミミーが危険。溢れた瘴気の中では、制御が難しい」
「ミミーが、また、暴走したら人間は死に絶えてしまうよ」
「えっ!ミミーちゃんも暴走したの?」
「ちょうなのでちゅう。悲しくて知らぬ間に暴走しちゃのでちゅう」
「大変だったんだよ。疫病が蔓延して」
「そうだったの……」
「シロウおにいちゃんが疫病を治してくれちゃのでちゅう」
「えっ!シロウ兄が……」
「だから、ミミーはシロウおにいちゃんと契約しちゃでちゅう」
「そんな経緯があったんだ。シロウ兄は、ぼーっとこの世界をいるんだと思ってたよ」
「それ、酷くない。サツキ」
「エヘヘへ」
「我は暴走などしませんでしたよ。何せ、冥府の大君主でありますから、ホーホーホケキョ!」
「さすが、ソラちゃんね。エライ、エライ」
「ホーホーホケキョケキョ」
……なんだろう?このソラスに対する腹立たしさ……
「とにかく、この件も最優先なんだよね」
「そう。戦争が本格化する前に止める」
「わかったよ。リーナ達が暴れたりしたら大変だし……」
「シロウは賢い」
……リーナ達が暴れ出したら、俺の責任になるんじゃないの?……
俺は、またまた、新たな悩みを抱えてしまった。




