最終話 新しいパートナー
黒い霧が満ちている。静まり返ったストリートの中心を、ベンバドルは一人歩く。
カタッと、背後で小石が転がった。気配を感じるが、それが悪夢ではないと知っていたので、ベンバドルは振り返らなかった。ここのところ毎日だ。悪夢と出会う日も、そうでない日も。夜更けに出歩くと決まって、子猫に付きまとわれる。
今日になってようやく腹が決まり、ミラの真似でもするか、と思っていた。
「おーいガキンチョ、そんなとこで遊んでたら危ねえぞ」
「えっ、気づいて……うわっ、わ、と、とと、ふう」
ゴミ箱が転がって、その影からイーディスが飛び出してきた。呆けた顔をしているので、手招きしてやると、ちょこちょこと歩いてきた。身体を斜めにして「偶然だね、こんなところで、ほんと、偶然……」とかなんとか言ってるが、まあ気にしないでおこう。
「お姉さまが待ちかねてるぜ、こんなところでなにしてんだ?」
「ね、姉さまの世話にはならないから。一時的に協力したけど、また完全に和解したわけじゃないし……むしろぎゃふんと言わせなきゃみたいな……」
イーディスは身体の前で手を組んで、指と指を合わせたり、絡めたりほどいたりしていた。
「となると、お前、フリーだな?」
「ふりー?」
きょとんとしてイーディスは大きく首を捻った。
「パートナーに捨てられちまってさ、新しいの探してたんだ。やってみねえか?」
「え、」イーディスは腑抜けたツラで、自分のことを指差している。
「いいの……じゃなくて、イーディスが必要なの?」
「ああ。ま、俺との共同生活が、嫌じゃなければだけどな」
ポケットに手を突っ込んだまま屈んで、ふへへ、と意地悪な大人っぽく笑ってやった。
イーディスの顔が、段階的に笑顔に変わっていった。感情を隠さない、子供らしい良いツラだ。が、プライドが介入したと見えて、取り繕う。
「なら、イーディスがパートナーになってあげる。お兄さんだけじゃ、また死にかけるかもしれないしね」
「素直じゃねえな。さすが姉妹、そっくりだ。ま、そういうことなら、契約成立だ」
右手を差し出すと、イーディスはなぜか服で手を拭いてから、その手を取った。
「うん……うん、よろしくねお兄さん! 姉さまなんて目じゃないくらい働いてあげる!」
「おう、姉さまに妬いてもらおうぜ」
ふははと笑って、小さな頭を撫でた。子猫は嫌がって頭を振るが、そばを離れようとはしなかった。
雲間から月が顔を出して、銀色の髪飾りが煌めいた。




