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砂漠の民  作者: 無夜
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2/2

20年後

 ここから先は、現地時間で20年の先の話。

 砂漠部族の族長は慣れた様子で町に入った。

 年に一度大きな市が立つので、準備と後かたづけを含めて一ヶ月ほど滞在する。

 兄夫婦のいる町とは別だが、砂漠の部族に入ろうとして、結局挫折して町に戻っていった、仲間がいるので、案内はいつも任せている。代わりに、山羊肉を一塊り渡す。駝鳥の羽も好まれた。

 市には山羊と駝鳥の羽を出す。最近は砂漠にしかいない蝶や甲虫を標本にすると、良い金額で売れるので、それもまた部族の収入である。部族に滞在するのは、かつては砂漠で暮らす夢を見る町の人間と軍人(軍学校卒業したてのルーキーが砂漠に慣れるためにやってくる。戦地が砂漠であることが多いためだ)が多かったが、今はそういった独特の生物の研究をする学者も多くなった。

 最盛期より一割ぐらい少ない程度で、見かけだけは人数を維持している。

 砂漠の民と呼べるのは、意外にも部族の中で六割近く残った。一度町に行き、やはり無理だと戻ってきた者が多数出たためだ。特に老人はもうあちらでは暮らせないと、過酷でも馴染んだ砂漠という故郷を選んだ。

 町の宿泊施設はもう満杯だったが、いつものことだ。シャワーと洗濯機はまだ借りられるので、そういった施設は先に予約をしておく。

 寝泊まりは町の外で、決められた地区にいつも通り天幕を張る。

 妻がおり、子がいて。

 部族は維持できていて。

 明日の食べ物はあり。

 今日の寝床もあり。

 天幕で超薄型テレビをつけて、冷蔵庫から炭酸水を取り出し、葡萄酒割って飲みながら。

 一番重圧であった少数部族存亡過渡期を泳ぎ切った族長は、そんな苦労したことなどきれいさっぱり忘れていて。

「……もう大して、町の生活と変わらないんだがな」

 町では水が高いので、この水分補給が一番安上がり。砂漠にいれば、万界軍があちこちに設置した蛇口から真水が出る。

「お風呂はありませんが、普段は砂浴びで十分です。ただ、洗濯機が運べるようになったらいいなと思います」

「運ぶよりは……水場に併設してもらえたらな、とは思う。四日五日に一度、それで洗濯できる。でも洗っても半時間で砂まみれだぞ……」

 砂漠に洗濯機いらないよ、と族長は思うが。

「砂でなく、汗臭さが嫌なんです。水場に併設、それはいいですね。嘆願書出してみます」

 妻はいつも通りにてきぱきと働き、特に族長の苦手な申請書類を片づけていく。

 夫婦水入らずでいると、天幕の出入り口につるしてある木板が木槌でこつこつとたたかれる。

 あどけなさの残る兵たちはここでお別れなので挨拶にと天幕に来て、去っていった。が、一人てこてこっと走り戻ってきた。

「じゃ、陛下のおそばにいってくるよ、親父」

 最後の一言はひそっと、小声。

 屈託ない笑顔の、青年になったばかりの新兵。族長に顔立ちが似ていた。

「ああ。お前は、お前の母は陛下から授かったから、お前もそうだ。……正直軍学校に受かるとは思わなかったが……陛下の御為に、がんばってくるんだぞ」

 父親は長い別れ、としんみりしたが、戦場と支配地では時間軸が違う。七日に一度は帰ってくる息子に、しんみりした気持ちを返せ、とか思わされた。

 アンチエイジングのおかげで、気が付かれないが、7日いなければ、少なくても戦地では800日は過ぎている計算となる。(天秤の加減による。最大の144倍違うのは、早百合の母世界と、軍の物資や支配地で手に入れた文化財を保管している博物館や図書館ぐらいで、あとは差は120倍、トークン族やギャラクシアウォーは24倍程度になっている)

 戦争にいくなら、その前に息子に嫁欲しいなとつぶやいて、嫁にさんざ突っ込まれたが、記憶からいろいろ削除されている。

「あなた、自分は嫁取りしたくないって、陛下にすらごねたと聞いてますよ」

「いや、そんなことはない。俺は即答した。ありがたくいただきますと。で、きたじゃないか、貴女が」

 そして息子は全力で、嫁取りから逃げていた。着実に血はつながっているのだろう。

 男の軍人に多い話で、現地で強姦事件などを起こさないように、性欲を抑制する薬を投与されているので、異性への恋着が発生しにくく、本気で「この清らか(童貞)なまま、終生陛下にお仕えするんだ」と思っている一人である。実行してしまう者が多くて、万界王は正直なところ、「適当なところで、気の合う人と人生楽しんでもらえませんかねっ」と悩まされている。

「嫁、っていったが、ぱーとなーとやらでもいいから。長も血で継ぐもんでもなくなってる。ただ、誰か一緒にいてくれたらなと思うんだ」

「あの子はあなたと違って広い、たくさんのものと会って、共同で作業してきてるのですから。気の合う人と出会うこともあるでしょう。それが同世界人かはわかりませんが」

2018年にコミケに出したやつの、おまけ(番外編)ですね。


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