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この体、男子ですけど何か?  作者: 蒼狐


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第1章 目覚めたら男子でした

痛みで目が覚めた。


全身が重く、頭の芯がずんずんと脈打っている。まるで誰かに頭を金槌で殴られた後のような痛みだ。


「……うっ、痛……」


声が出た瞬間、自分の喉が変だと気づいた。


低い。すごく低い。男の声だ。


慌てて目を開けると、そこは白い天井だった。消毒液の匂い、ピッ、ピッという機械の音。間違いなく病院だ。


「山田さん、意識が戻りました! 大丈夫ですか?」


白衣の看護師さんが顔を覗き込んでくる。山田? 誰のこと?


私は——佐藤愛子、17歳、高校2年生——のはずだった。部活帰りに信号無視の車に跳ねられて、思いっきり飛ばされて、それで……


「…………は?」


自分の手を見下ろした。


これは、私の手じゃない。


長くて、骨張っていて、血管が浮き出ている。指も太い。爪は短く綺麗に整えられている。私の手はもっと小さくて、指先が丸くて、左手の人差し指に小さなイボがあったのに。


上半身を起こそうとして、激痛が走った。胸のあたりが痛い。でも、それ以上に違和感がすごかった。


胸が、ない。


平らだ。肩が広い。腕が太い。首の回りも明らかに違う。


ベッドサイドの金属部分に、自分の顔がぼんやり映った。


「……誰、これ?」


整いすぎている顔だった。濃い眉、すっと通った鼻筋、薄くて形の良い唇。黒髪は短く整えられていて、寝癖さえなんか決まっている。二重の幅が広い切れ長の目。いわゆる「めちゃくちゃイケメン」というやつだ。


看護師さんが優しく微笑む。


「山田悠真さん、27歳です。交通事故で頭を強く打って意識不明になっていましたが、運良く回復しました。覚えていますか?」


山田悠真。


その名前と同時に、別の記憶の洪水が頭の中に流れ込んできた。


大手広告代理店「星野アドバタイズ」の営業部エース。入社6年目。クライアントの信頼が厚く、毎月数字を確実に上げる仕事ができる男。一人暮らしの27歳。実家は地方。趣味はジムと読書。同期の女性社員からは「山田さんみたいな人が彼氏だったら……」とよく言われる容姿——


そして、同時に私の記憶も全部残っている。


母親と朝の喧嘩、受験のプレッシャー、部活の後輩、好きなアイドル、今日の晩ご飯何にしようかと悩んだこと。


二つの人生が、綺麗に混ざり合っている。


「私……愛子なのに……なんで男の体になってるの……?」


思わず声に出したら、低いバリトンが病室に響いた。自分の声じゃないみたいで鳥肌が立った。


看護師さんが首を傾げる。


「山田さん? 少し混乱していますね。落ち着いてください」


私は(いや、もう「私」でいいのか?)ゆっくりと息を吐いた。


この体、男子ですけど何か?

……いや、色々あるんですけど!


---


退院して三日目の朝。


山田悠真のマンションのベッドの上で、私は再び目を覚ました。


天井のシーリングライトが、設定されたタイマーで自動的に点灯する。目覚ましは6時15分。悠真の習慣らしい。


「……マジでこれ、現実なんだ」


起き上がると、まず感じるのは「重さ」と「大きさ」だった。体が明らかに重い。筋肉の密度が全然違う。肩や二の腕が、自分の意思とは無関係に存在を主張してくる。


鏡の前に立った。


Tシャツ一枚の上半身。腹筋が割れている。完全に。肩幅は愛子の頃の1.5倍はありそうで、鎖骨のラインも男らしい。顔は……改めて見ても反則級に整っている。寝起きの顔ですら、なんか画になる。


「可愛い女子高生だったのに……今やイケメンサラリーマンとか、罰ゲームか何か?」


自分の声でそう言ったら、低い声でブツブツ言ってる自分がまた面白くて、つい笑ってしまった。


シャワーを浴びる。


熱いお湯を頭から浴びながら、昨日までの自分を思い出す。


スカートの裾を気にする感覚、ブラジャーの締め付け、長い髪を乾かす時間、母親に「早くしなさい!」と怒られる朝の慌ただしさ。


今は全部違う。


体を洗うときの手の大きさ、力の入り具合、全部が男のものだ。股間の違和感も、まだ完全に受け入れられていない。特に朝は……いろいろ大変だった。


タオルで体を拭く。拭くだけで自分の力が強すぎて、ちょっと痛い。


髭剃りはまだ慣れない。悠真の髭は薄めだけど、まだ生えている。カミソリを当てながら小さく傷を作ってしまった。


「いたっ……男って面倒くさい」


スーツを着る。


クローゼットは驚くほど整理整頓されている。ネイビーのスーツに白シャツ、ネクタイはウィンザーノット。鏡の前に立つと、そこにいるのは完璧な営業マンだった。


「よし……今日も山田悠真として頑張るか」


でも、心の中では完全に女子高生のままだった。


この体、男子ですけど何か?

ええ、めっちゃ色々ありますけど!


玄関のドアを開ける瞬間、ふと胸が締め付けられた。


愛子の家族は今頃、どうしているだろう。私の葬式は出たのかな。母親は泣いているかな……。


でも、今の私はここにいる。


27歳、イケメン、仕事ができるサラリーマンとして。


新しい朝が、始まった。

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