⑲ 遭遇
地下駐車場の、シルバーのワーゲンビートルのところまでやって来た三人は、早速車内に乗り込んだ。ハンドルを握るのはもちろん雪子。後部座席には、いまだに熱々の、義妹の由理子と鷹志のカップルが収まった。
そしていつものように、雪子が目的地の座標を、センターコンソールパネルに入力する。それは、以下のようなものであった。
西暦1806年7月25日
時刻22時00分
北緯34度44分
東経134度23分
「さあ、行くわよ。目指すは兵庫県の赤穂城前!」
彼女はそう言うと、クルマを駐車場から出して、光学迷彩を掛けた上で垂直上昇させた。そして時空転移装置のスイッチを入れたのである。
ビートルが出現した先は、深夜の城下町の上空だった。近くの寺の敷地内の、木陰の一角にクルマを着陸させて、雪子たち一行は車外に出た。今夜辺り現れるはずの、ちょっとした化け物を、今から調査・確認しに行くのだ。
空を見上げると、おあつらえ向きに、厚い雲が立ち込めており、今夜は月も星も見えない。その点は密かに楽しみにしていたので、由理子は少し残念な気分だった。
でも、コレで良いのだ。
今日のお相手は、晴れた昼間には出会えない、伝説の生き物なのだから……。
そんな事を考えながら、三人で城に向かって歩いていると、やがて天空から、ゴロゴロと不吉な音が聞こえ始めた。由理子が思わず隣の雪子を見ると、(私じゃないわよ。)というジェスチャーで、ウインクを返して来た。
そして次の瞬間、ピカッと昼間のように明るく空が光り、ほぼ同時に、ドドン!という耳をつんざくような轟音が、辺りに鳴り響いたのだ。
コレぞ、まさに狙い通り。
目の前に、まるで稲妻を身に纏うように、カラダ全体が青白く光る、大きなハクビシンに似た生き物が、空から降って来たように、忽然と現れたのだ。
ただそのカラダには、普通ではない部分があった。
まず、ハクビシンにしては、カラダが大き過ぎる。
体長は、約2mといったところか?
そして、後ろ脚が4本有る。
つまり、前脚と合わせて合計6本の脚が生えているのだ。まるで昆虫みたいだ。いや、コイツを作ったヤツが、本当に昆虫なのかも……。
そして最後に、尻尾が2本生えている。九尾のキツネや猫又に比べれば、随分控え目と言えるだろう……それらの事を、鷹志はほんの一瞬で判断した。そして、もしもに備えて、迎撃態勢で身構えたのだった。




