⑱ 義姉からの誘い
それは1998年7月31日の金曜日。時刻は午前10時頃の事である。
「ねえ、伯爵。」
久しぶりに、名護屋テレビ塔の亜空間レストランにやって来た真田雪子が、また何やら、頼みごとが有りそうな顔で話し掛けてきた。
今日も相変わらずのセーラー服姿だ。時代のトレンドは、徐々にブレザータイプの制服へと、シフトしつつあるのだが、そんな事にはお構いなしだ。コレは彼女の戦闘服なのである。実年齢が30歳をとうに過ぎていても、見た目は永遠の17歳なのだから、それでイイのである。
「何ですか?雪子さん。やっとシルバーのワーゲンビートルを、返却してくれる気になりましたか?」
サン・ジェルマンが、いつも通りのジェントルな口調で答える。
「ああ、それは……もうしばらく待ってて。実は調査したい伝説の生き物がまた見つかったから、ちょっと由理子を借りたいのよ。どうせこのレストラン、今日もヒマなんでしょ?」
「まあ、おいそれと、一般のお客様をお招き出来ませんからヒマですが、なんか傷つく言い方ですねえ。」
少しだけムッとして見せる伯爵。
「あら、ごめんなさい。他意は無いのよ。見たままを言っただけ。怒った伯爵も可愛くて素敵ね。」
永遠の35歳イケメンをイジル雪子。
「おふざけはそこまでにして……イイですよ。でも本人からも、了解をとって下さいよ?」
そう言いながら、後方を振り返る伯爵。そこには、バーカウンターの中でいちゃつく、由理子と杉浦鷹志が居た。由理子は今日も赤い髪にメイド服。鷹志もバーテンダーの姿だった。
「ねえ、お二人さん。」
そっちに声を掛けながら近づく雪子。
「今から私と一緒に、ちょっと江戸時代までドライブに付き合わない?伯爵の許可は取ったわ。」
「あ、お姉ちゃん、久しぶり。良いわよ。鷹志もイイわよねえ?」
「僕はまあ……そこに悪魔が居ないのなら。」
「居ない、居ない。」
そう言いながら、ブンブン手を振る雪子。
「居るのは多分、変な生き物だけ……。」
つい、チラリと、エレベーター前にお座りしている、鵺を見てしまう雪子。
鵺は彼女と目が合うと、小さくため息をついた。
(ごめんなさい。)と心の中で謝る彼女。
ルッキズムはイケない事と知りながら、やはり不気味な顔ではある。
「じゃあ、早速行きましょう。一緒に地下駐車場まで来て。」
三人はすぐにエレベーターに乗って、降りて行った。
「まあ、あの二人が一緒なら、雪子さんも無茶な事はしないでしょうしね。」
それを見送りながら、そんな独り言を呟く伯爵であった。




