① ガネーシャ
「ねえ、伯爵。世界中に、動物の姿をした神様って居るわよね?」
ある日、由理子が呟いた。
ここは名護屋テレビ塔の亜空間レストラン。
いつものメイド服姿の彼女の隣で、バーのマスター姿のサン・ジェルマン伯爵がグラスを磨いていた。
「……ああ、黒猫のバステト嬢とか、麻呂眉の黒柴犬アヌビス国王とかの事ですね?」
そんな風に答える伯爵。
「猫又や九尾の狐も、或る意味そうですよね?探しに行ってもいいですか?もしも有事の際に、私たちの味方になってくれたら心強いし……。」
「面白いかもしれませんね。いいですよ。赤いビートルで、鷹志君と一緒に行ってらっしゃい。」
「やったあ。ありがとう、伯爵。」
由理子は早速地下の研究所に行き、鷹志を誘ってみた。
「うん、いいよ。ちょうど研究も一段落したし、相手が悪魔じゃないなら、どこでもOKだよ。」
「じゃあ、善は急げよ。用意して!私、赤いビートルで待ってるから。」
「うん、分かった。少しだけ待っててね。」
多分白衣を脱いで、身だしなみを少し整えるのだろう。
由理子はそう思った。
由理子は宣言通り、早速駐車場に行き、運転席に収まる。
そしてセンターコンソールパネルに、目的地の座標を以下のように入力した。
西暦1997年9月9日(これは今日の日付のままだ。)
時刻9時00分
北緯18度31分
東経73度51分
目指すはインドのマハラシュトラ州のプネー市だ。
そこで、とある祭りをやっているのだ。
その神を讃える祭りは、10日間に渡って行われる。
街中には、巨大なテント"パンダル"が張られ、そこで音楽や伝統舞踊のショーが催されて、大いに賑わいを見せる。そして最終日には、"ヴィサルジャン"と呼ばれる儀式が行われ、神像を川や海に沈めて、その神を天界に見送るのである。同じ祭りが、インド全土で行われるが、中でもプネー市が、最も盛んな地域として有名なのである。
赤いビートルで現場近くに到着すると、由理子はクルマの透明モードを解除して、祭りの現場の、ほど近くの路肩に駐車した。彼女は鷹志と二人で慎重に車外に出るが、都合の良い事に、市民は皆お祭りに夢中で、こちらに注意を向ける者は誰一人居ない。
祭りの主役として、念入りに飾り付けをされた神の像は、あの有名なガネーシャだった。ニンゲンの身体に、ゾウの頭がついている。なんでも、気の短い父に首を刎ねられたせいで、そんな姿になったという伝説がある(所説有る)。
肌はピンク色。腕は4本有り、斧や三又の槍"トリシューラ"を持っている。様々な障害を取り除き、成功と幸運を授ける神、とされている。




