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その時代を生きた人々 - フランス革命  作者: Miris
第5部:正義が隣人を食う

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第18話:テルミドールの朝

注記: 本作は史実をもとにした歴史フィクションです。

人物の会話、心理描写、一部の出来事の流れには創作を含みます。

史実そのものの解説は、本文最後の「櫻未來の歴史メモ」で補足します。


 ******


今回の登場人物


エティエンヌ:革命政府の記録に関わる書記。増え続けた告発と処刑の言葉に疲れている。

ガスパール:処刑人の助手。誰が処刑台に来ても驚かなくなっている自分を恐れている。

マルセル:戦場から戻った兵士。革命が何を守ろうとしていたのか、わからなくなっている。

ジュリアン:若い議員。ロベスピエールを支持してきたが、次に疑われるのは自分かもしれないと怯えている。


 ******


1794年7月27日、パリ。

革命政府の内部では、昨日まで味方だった者が、明日には敵と呼ばれるかもしれない空気が広がっていた。

ロベスピエールの言葉は、革命を守る剣にも、自分たちへ向く刃にも見え始めていた。


「今日は、誰の名前を書けばいい」


エティエンヌがそう言うと、隣の書記は顔を上げなかった。


「その質問は、小さな声で」


「もう小さな声で書く名前ばかりだ」


「名前を書かれるよりはいい」


机の上には、昨日の議事録があった。


告発。


容疑。


反革命。


美徳。


恐怖。


どの言葉も、最初から血の匂いを持っていたわけではない。


だが今は、紙の上に置くだけで重かった。


扉が開き、若い議員ジュリアンが入ってきた。


「紙を。発言の写しがいる」


エティエンヌは彼の顔を見る。


「顔色が悪い」


「皆、悪い」


「何があった」


ジュリアンは部屋の隅を見る。


「誰が聞いている」


隣の書記が苦く笑う。


「この部屋では、紙まで聞いています」


ジュリアンは椅子に座った。


「ロベスピエールが、また敵を語った」


「いつものことでは」


「名前を言わなかった」


エティエンヌは黙った。


名前のない敵は、誰にでもなる。


ジュリアンは両手を握る。


「私も当てはまる。君も。支持してきた者でさえ」


「それでも議場へ行くのですか」


「行かなければ疑われる」


「行っても疑われる」


ジュリアンは立ち上がった。


「だから、今日は誰かが先に声を出す」


「声を出した者は」


「生き残るか、最初に倒れるかだ」


彼は扉へ向かった。


エティエンヌが呼び止める。


「ジュリアン」


「何だ」


「その発言も、記録しますか」


ジュリアンは振り返らなかった。


「生きていたら、頼む」


外ではマルセルが警備に立っていた。


戦場から戻ったばかりの彼には、議場の空気が戦場よりわかりにくかった。


前線では、敵は向こう側にいた。


ここでは、敵がどの椅子に座っているのか、朝と昼で変わる。


ガスパールが広場で台を点検していた。


マルセルが近づく。


「今日は処刑があるのか」


ガスパールは布をたたむ。


「今日は少ないかもしれません」


「少ない?」


「明日はわかりません」


「おまえは怖くないのか」


ガスパールは手を止めた。


「怖いです」


「そうは見えない」


「怖く見えないことが、いちばん怖い」


議場では声が爆ぜた。


ジュリアンは立ち上がる。


喉が渇いている。


言葉を出せば、戻せない。


黙れば、名前のない敵に入れられるかもしれない。


「逮捕を」


誰かが叫んだ。


続いて別の声。


また別の声。


ジュリアンも声を出した。


その声が勇気なのか、保身なのか、彼自身にもわからなかった。


エティエンヌは書いた。


ロベスピエール。


逮捕。


彼は手を止める。


この文字を書けば、何かが終わるように見える。


だが、終わるのは人物かもしれない。


仕組みではないかもしれない。


翌日、1794年7月28日。


ロベスピエールは処刑された。


広場には人々が集まった。


歓声もあった。


疲れた沈黙もあった。


ガスパールは台のそばで、エティエンヌに言った。


「今日は少し静かですね」


エティエンヌは広場を見た。


「静かなだけで、終わったわけじゃない」


マルセルが聞く。


「では、何が終わった」


エティエンヌは紙を折った。


「名前を1つ、口に出せるようになった」


「恐怖は?」


ガスパールが答えた。


「台の木には、まだ残っています」


誰も笑わなかった。


テルミドールの朝は明るかった。


明るいだけで、暖かいとは限らなかった。


 ******


櫻未來の歴史メモ


今回の出来事


1794年7月27日から28日にかけて、ロベスピエールは失脚し、処刑されました。これは恐怖政治の大きな転換点とされます。



史実と創作


ジュリアン、エティエンヌ、ガスパール、マルセルの場面は創作です。実在のロベスピエールを中心人物にせず、彼の周囲で恐怖を感じていた人々の視点から描いています。



櫻からの問い


恐怖を生んだ人物が倒れれば、恐怖も消えるのでしょうか。それとも、人々が恐怖の中で覚えた癖は、もっと長く残るのでしょうか。


 ******


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