リーナの友達
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ギルドの二階には上がってすぐの正面にはギルドの職員がいる売店があり、左側には本棚が複数置かれているエリアと右側には一階を見下ろせる吹き抜けと奥に続く通路にテーブルとイスが配置されているエリアに分かれている。
一階にはそれなりに人がいたのだが、二階には見る限り販売店のギルドの職員と右の椅子に数人の人が座っているだけだった。
シュウとリーナがギルドの二階へ上がり歩きながらリーナが友達を探すように辺りを見ていると、右の一つのテーブル席に座っている女の子が手を振っていたのをリーナが見つけると、「あ、いた」と言ってその女の子の所に向かっていったので後をついて行った。
テーブルの近くまで行くと、身長が140センチあるのかどうかぐらいのかなり小柄な女の子が席を立って待っていた。
リーナの友達って聞いていたから、リーナと同じぐらいの身長の人を想像していたけど驚いたな。リーナの友達は凄く身長が低いキャラクターを作ったんだな。ホムラとほとんど変わらないんじゃないか?キャラクターを作成するときに、身長を大きく変えると慣れるまで違和感があるって言っていたけど大丈夫なのだろうか。
そんなことを思いながらテーブルまで来ると、どうやらリーナが紹介してくれるらしく俺はその女の子と向き合うように立つと、リーナはその女の子を後ろから抱きしめるようにしながら紹介してくれた。
「この子が私の友達でパーティーメンバーのミュウよ」
「リーナ、後ろから抱き着くのはやめるの」
紹介されたミュウはほとんど表情を変えることなくリーナに抱き着くのをやめるように言ったが、リーナはさらに抱き着くだけでなく頬っぺたをすり合わせながら会話をしていた。
「いいでしょ、最近は出来なかったんだから久しぶりに抱き心地を味合わせて!」
「ゲーム始めた時にあんなにくっ付いてきたのに、もうやめるの」
「あの時は補充しただけ、今は堪能してるの」
「意味わからないの。それよりちゃんとした自己紹介が先なの。それ以上するならリーナが電話で話してた内容を目の前の彼に話すの」
「まって、ごめん。ちゃんとするから」
ミュウがそういうと、リーナはすぐに抱きしめていたミュウを下ろして、真面目な顔になって俺の方を向き席に座ろうと言ってきた。
俺とミュウが対面に座るとリーナがミュウの横に座ってテーブルを囲むとリーナが1つ咳ばらいをした後に話し始めた。
「それじゃあ改めて紹介するね。私の友達でパーティーメンバーのミュウ」
「始めましてなの、本名は立花 美羽で1年A組のリーナの友達のミュウなの。呼び捨てでいいの、パーティーメンバーとしてこれからよろしくなの」
「こちらこそ初めまして、どこまで聞いているか分からないけど、安全な場所の提供が出来るからパーティーを組むことになったシュウだ。本名は真城 愁、1年C組だ。俺も呼び捨てでかまわない、これからよろしく頼む」
お互いの自己紹介が終わり俺とミュウの目が合うと、ミュウが俺を同情するように見ながら言ってきた。
「リーナは厄介ごとをよく引き寄せるからこれから大変だと思うの。パーティメンバーになったらシュウはこれから苦労すると思うから本当にパーティー組むなら覚悟しないといけないの」
「やっぱりそうなのか。今からでも考え直すことは出来るのか?」
リーナが何か言おうとしていたが、ミュウが目と手でリーナが言うのをやめさせると、話す空気が変わったミュウが俺を見て真意を確認するように問いかけた。
「やめるなら今なの」
「やめたりなんかしないよ。厄介ごとが多いのは事実だろけど、困っている知り合いを見ない振りしてほおっておけるほどでもないからな」
間を置かずにすぐに答えると、ミュウは一息吐いてこっちを見ながら僅かに頬を上げた後に、からかうような笑みを浮かべながらこんなことを言ってきた。
「でも、一度組んだらパーティリーダーの許可がないと勝手にパーティーを抜けるのは難しいの。だから、どうしても嫌になったらリーナに相談するの」
「ほう、パーティーから抜けるのにそんな条件があるのは聞いていなかったな」
俺とミュウがリーナの方を見ると、リーナは慌ててミュウと俺を見ながら「自分も知らなかった、今初めて知った」と言い訳をあまりにも必死に伝えてくるので、落ち着くように言うと今更パーティを組まないなんて言うつもりはないと伝えた。
「パーティーを組む話をした時にも伝えたが、俺が出した条件を守ってくれるならパーティーを組むことに異論はない。リーナの厄介ごとも俺の出来る範囲では手を貸すから、今更そんな条件があるだけで組むのをやめる理由にはならないよ」
「よかった」
「でも、さっきギルドの職員からパーティ申請したときに軽く説明されたけど、パーティーを抜けるのにそんな条件がないのは分かっていただろう?」
「あの時は、その、パーティーメンバーが増えるのが嬉しかったからちゃんと聞いてなくて」
「おいおい、それとミュウも俺を巻き込んでリーナをからかうのはやめてくれ」
「ごめんなの。でも、シュウものってきたから同罪」
やれやれと思いながらも、ミュウにからかわれたと分かったリーナがミュウに抱き着こうとしてミュウが慣れた様子で躱しているのを見て、本当に2人は仲がいいんだな。
2人の攻防は結局はリーナがミュウを捕まえて、自分と同じ椅子に座らせるとリーナが後ろから抱きしめた状態で落ち着くことになった。その様子を見て改めて思ったのが、ミュウが小さくて見た目も幼く見えるからだろうけど、とても同級生には見えないという事だった。ここまで伸長を低くすると、かなりの違和感があるんだろうなと思ったので興味本位で聞いてしまった。
「なあ、見ていて思ったんだが、ミュウってホムラと同じぐらいの身長だよな?」
「・・・」
「そうだけど、どうしたの?」
「キャラクター作成で身長をかなり低めに設定してるみたいだけど、違和感とかはないのか?」
「・・・・・・」
どうしたんだ?ミュウが下を向いて黙ってしまった。下を向く瞬間に軽く絶望したような表情に見えたのがかなり気になったので、この話題は触れない方がいいなと思い、どうやって話題を変えようかと思っていると、ミュウを抱きしめていたリーナが笑顔で嬉しそうに言ってきた。
「シュウ、ミュウは身長を低く設定したりしてないよ。ほぼ等身大のままだよ。すごいでしょ」
「そ、そうか」
俺が少し気まずそうにしている事には気づかずに、ミュウのいいところを教えてくれるのはいいんだけど、少なくともミュウは自分の身長に納得はしていないんだな。リーナが話している下から軽く睨むようにして見るのはやめてほしいな。
同学年の生徒をほとんど覚えていない俺が言うのもなんだけど、高校に入ってからこんなに小さい同学年は見たことがなかったから、リーナがミュウの事を同学年の友達と言ったからミュウを見た時に身長を低くしているんだなと思うのは仕方がないと思うんだけど。
「ね、ミュウはほぼこのままの身長だよね」
ミュウは認めるのが嫌なんだろうけど、本当の事だと認めると伸長を変えなかった理由も話し始めた。
「本当なの。ゲームを始めるときにリーナと同じぐらいの身長に設定したけど、違和感があって歩くだけでも気持ちが悪くなったからやめたの」
やっぱり身長を変えると違和感があるんだな。慣れるまで大変だとは言っていたけど、リーナに身長を合わせるにしても20cm以上変更すると普通に歩くのも難しくなるのか。大変だったんだなと思いながら聞いていたのだが、俺は気づいても指摘しない方がいいんだろうなと思っていたことを、リーナはニコニコと楽しそうに笑顔で言った。
「でもゲームの方が現実より少し高く設定してるよね」
やっぱりそうなのか、さっきからリーナがほぼってずっと言っていたから多少の誤差があるんだろうなと思っていて、ほぼって言うたびにミュウがビクッと反応していたから触れない方がいいんだろうなと判断していたのに。
「一緒なの!同じ身長なの!」
「ミュウはこう言ってるけど学校で見た時には、シュウも分かると思うから楽しみにしていてね」
「一緒なの!だから確かめなくてもいいの!」
ミュウがテーブルに身を乗り出してまで、俺を見ながら言ってきたので思わず頷いた。ある程度ミュウも落ち着いた後に、ミュウのフレンド登録もしてギルドに来た目的は全部終わったところで、リーナ達にこの後の事について話しかけた。
「とりあえずパーティーも組んだし、自己紹介も終わったから俺は一度ログアウトしようと思うんだけどいいかな」
色々な事があって話していたから忘れそうになってたけど、夜には姉さんも帰ってくるだろうし早く自分の部屋で探し物を見つけておかないと食事の準備とかも出来なくなるからな。
「そうね。この後にシュウから電話をしてくれないといけないものね」
何故かリーナが不安そうにしながらもこっちを見ながら言ってきた。
「忘れてないから、大丈夫だよ」
さっそくシステムメニューを開いてログアウトしようとしたのだが、リーナがログアウトするのを止めてきた。
「シュウ、待って。ログアウトするならあの場所の中で出来ないかな?ログアウトした時って安全エリアじゃなかったら数分間は体が残るみたいなのよ。宿の部屋の中とかだったら、ちゃんとログアウト出来るみたいなんだけど、ここでログアウトするとゲームに戻ってきたときに、もし万が一あの3人に見つかると逃げられなくなるから出来ればあの場所がいいんだけど・・・ダメかな?」
人も少ないし少しの間なら大丈夫だとは思ったけど、奇跡的な確率で偶然ゲームの中でまで会うような奴らだから、最大限の用事をしておくに越したことはないか。
「それじゃ、あの場所に行こうと思うけど、ミュウにはあの場所の事は話してあるのか?」
「詳しくは話してないの。あの時はまだシュウがパーティーに入ってくれるか分からなかったから、安全な場所にいる事しかミュウには伝えていなかったから」
「そうか、初めてあの場所に行ったらミュウも色々聞きたいことが出てくるだろうから、ある程度はリーナに聞いて理解しておいてくれ」
「ミュウにはあの場所に向かいながら伝えておく。ミュウもあの場所に行ったら驚くよ、楽しみにしていてね」
「リーナがそこまで言う場所なら、とても楽しみなの」
「それじゃあ行くか」
そういうと、みんなが席を立ち歩き出そうとしたときに1階のギルドの中が騒がしくなったように感じた。2階の手すりから見てみると3人組の男が1階で誰かを探すように歩き回っているみたいだった。
これは、ギルドに長居しすぎたのだろうな。冒険者を見つけるなら冒険者ギルドが一番見つけやすいだろうから、あの3人組も定期的に見に来ていたんだろう。さて、このまま2階にいて見つかると面倒な事になるのは確実だな。どうやって切り抜けようか。
あいつらの様子を窺っていると2階に上がってくるのも時間の問題だと思い、どうにか見つからずに行ける方法はないか3人組を見ながら考えていると、後ろからいきなりリーナ達ではない気配がして裏拳をとっさに叩き込もうとしたのだが、驚くことに止められてしまった。顔を確認すると前に2階で販売員をしていた男の職員だった。
「おいおい、いきなり物騒だな」
悪い笑顔をしながら言うので、こっちも謝る気はなく理由を尋ねた。
「気配を消して後ろに立とうとする方が悪い。なんのようだ?」
「えっ、この人いつここに来たの?ミュウは気が付いた?」
「全然分からなかったの」
いきなり目の前に現れたギルド職員の男にリーナとミュウが驚いていると、男は拳を受け止めていた手を放して驚かせるつもりはなかったと言った。
「あんたら、一階にいるあいつらに見つかりたくないんだろ」
男がそう言ったので、リーナ達が1階を見ると見つからないようにするために慌てて手すりから離れてフードを深く被るとしゃがみこんだ。
「何かいい案でもあるのか?」
「ああ、あるぞ。この通路の先に関係者以外立ち入り禁止の物置があってな。そこから1階に降りるとギルドの裏に出られる職員専用の出口があるんだ。そこから出れば間違いなく見つかることはないぞ」
「そうか、それで?ギルドに何のメリットもないのに助けてくれる理由は何なんだ。冒険者は面倒ごとは自己責任、自己解決が基本だと聞いているんだが」
「確かに普通はそうなんだが、俺の勘がここでお前に恩を売っておくといいことがあるって告げてるんだよ」
真意を探る為にも目の前の男を見ていたのだが、少なくとも今は悪意はなさそうなので助けを借りることにした。
「そうか、分かった。貸しひとつだな、覚えておく」
「おう、じゃあ嬢ちゃんたちもしゃがんでないでついて来いよ」
男に先導されて通路の先まで行くと、扉に鍵を使って開けると俺たちを中に招き入れた。
「あとはそこの階段を降りると目の前に扉があるから、そこを出ればギルドの裏だ」
「分かった。リーナ達は先に行ってくれ。いや、ちょっと待った。このペンダントを一応装備しておいてくれないか。万が一にも見つからない為のお守りだとでも思ってくれ」
首にかけていたペンダントを外すとリーナに手渡した。一応隠蔽の効果もあるから少しでも見つかりにくくなるのなら渡しておいて損はないだろう。
「分かったわ。これを装備すればいいのね。シュウもすぐに追いかけてきてね」
リーナは大事そうに受け取って装備すると、リーナとミュウは階段を下りて行った。
俺は少し気になった事があったのでこの男性職員に話をしてからリーナ達を追うことにした。
「助かりました、感謝します。俺はブロンズランクの冒険者でシュウといいます。助けてくれた貴方の名前は何というのですか」
「おいおい、いきなりなんだよ。そんなにかしこまった喋り方してよ。さっきまでの話し方でも別に気にしないぜ」
「いえ、俺は一応年上には敬意を表してますので、例え悪意のある現れ方をされても一度は気にしないことにしているので」
「さっきは悪かったよ。ちょっとお前を試したくてな。誓って嬢ちゃんたちには殺気は飛ばしてないから大丈夫なはずだぜ。それより俺の名前だったな、俺の名前はバルバス、このギルドで働いているただの職員だよ」
「ただの職員がこんなことすると大問題だと思いますけどね。仮にもっと上の役職の人でも問題になるとは思いますけど」
「・・・だろうな。後でしこたま怒られるだろうが、最後には感謝される事になるはずさ」
頬をかきながら遠い目をしているのが気になるが、助けてくれた事には変わりないので改めてお礼は言っておこうか。
「それがどういう意味かは分かりませんが、今困っていた所を助けてもらったことに変わりはないので感謝しておきますよ。ただ気になった事を言うなら貴方のような強い人がただのギルド職員をやってるなんて信じることは出来ないですけどね。それでは、俺も行くとします」
そう言って一礼した後に、階段を下りてドアを開けるとリーナ達を追いかけて行った。
3人がいなくなって一人残った部屋で、男は静かに笑っていた。
「前見た時は勘違いだと思ったが、あいつはやっぱりあの人と何か関りがあるな。だとすると魔術師なのに肉弾戦に特化しているのか?あいつの拳を受け止めたところがまだしびれてやがる」
男はしびれた手をさすりながら2階の通路に戻ると、目の前に鬼の形相をした女性職員が立っていた。
その後のギルドでは、2階から誰かが怒られているような声がしばらく聞こえていたいう。
お読みいただきありがとうございます。




