魔術師の小屋
食事処でのアイリの協力もあって後をつけていた相手を無事に撒くことは出来たので、シュウとリーナの2人は中央公園まで来ることが出来た。
「ここが目的地だって言っていたけど、身を隠すには向いてなさそうな場所だと思うけど?」
時刻は夕方になり広場で遊んでいた子供たちの姿は見えなくなっており、冒険者や街の人がときおり通っている広場を抜けて東通りの広場の入り口まで来ていた。
「大丈夫。まだ少し移動するけど場所はここで合ってるから、不思議に思うかもしれないけど後で説明はするから今は信じてついてきてくれ」
一応周りを確認しながら生垣に挟まれた道を通り公園の中まで入ると、今度は生垣の横の木の隙間を通るようにして広場の入り口まで戻った。昼間に通った時と違い薄暗くなっている所を通ったので、リーナは不安そうにしながらもついてきてはくれたので、目的地のあの場所に行ける街灯の所までやってくることが出来た。
「ここで行き止まりみたいだけど、まさかここなの?」
「まあ、そこで見ててよ」
街灯にある鍵穴にリンからもらった鍵を差し込み回すと、前に扉があらわらた場所に月の模様のついた扉が現れた。
扉の先が安全かどうかを見てもらうために俺から入ってもいいかと思ったけど、最初に向こうにいった時には扉はすぐに消えてしまった事を考えると、先にリーナに入ってもらってから俺が入る方がいいかな。
シュウは扉のドアノブを掴み手前に引くと、リーナに入るように促した。
「この扉の先が目的地だよ」
「えっと、なに?どうなってるの?広場の外に出るわけじゃないよね?」
「とりあえず説明は入ってからってことで」
リーナは驚きながらも扉に入ったので、俺も後を追って扉を通った。
扉を通って周りを見ると裏庭で戦った時のように昼間みたいに明るくなっており、場所は初めてここに訪れた時に立っていた砂浜にいた。通ってきた扉が消えたのを確認してから、とりあえず座って話が出来る場所に行くのがいいと思い、小屋がある場所に行く為に目の前に広がる海を見て固まっているリーナに話しかけた。
「ここが目的の場所だけど、あの丘の上に小屋があるからそっちで座ってから詳しく話そうか」
「・・・・・」
「リーナ?」
呼びかけても前を向いたまま反応がないので肩を叩こうとしたら、いきなり振り返って腕を掴まれた。
「もう、貴方の事で驚きすぎて、本当に・・・本当に色々聞きたいことがあるから覚悟しておいてね‼」
「あ、ああ」
リーナはそういうと立ち尽くしている俺を置いて、丘の上に見えている小屋に向かって歩いて行った。
「そんなに話せることはないと思うんだが・・・」
聞かれる事はこの場所と学校での約束のことぐらいで、他には話すことないと思うんだけど・・・。
「なにしてるの~、早く行きましょ」
シュウが立ち止まっている間にリーナは小屋が立っている丘の中腹まで進んでいた。シュウは答えるように手をあげると、急ぎ足でリーナの後を追って小屋に向かって歩き出した。
丘にある小屋の前に少し遅れて俺が着いた時には、リーナは小屋には入らずに小屋の前で待っていた。
「小屋に入らなかったのか?」
「さすがに勝手に入るわけにはいかないでしょ?」
「なるほど」
確かに普通は他人の家に勝手には入らないよな。俺の場合は街に戻る方法を探していたから、しかたなくだったから大丈夫だろと一人で言い訳をしてから、でも仕方なく小屋に入ってわけわからない人にいきなり契約させられるなんて思いもしないだろうと思わず最初に来た時の事を思い出していた。
小屋の前で立ち止まっていると、リーナから入らないの?と聞かれたので思い出すのをやめて小屋の扉を開けた。
小屋に入ると帰ってくるのが分かっていたみたいに、リビングテーブルの前でリンがお辞儀をして出迎えてくれた。
「シュウ様、おかえりなさいませ」
「ただいま、リン。そこでずっと待ってたのか?」
「この空間に来られた事が分かりましたので、その時よりこちらにて待機しておりました」
「そっか、ありがとう」
「いえ、当然の事です」
なんだか出迎えられるのに慣れてないから変な感じがするんだけど、慣れるしかないんだろうな。それより学校での約束の事で昨日姉さんに話したことも伝えておきたいから少し長くなりそうだな。
リビングの椅子に座って話そうと思いリーナに椅子を勧めようとしたところ、後から入ったリーナがいきなり声をあげてリンに駆け寄っていった。
「シュウ、誰なのこの子!?すごく可愛い!」
リーナは前から抱きしめたり頭を撫でたり頬をさわったりいろいろしていて、リンは無表情で動かずにされるがままになっていたのだが、何かを訴えるようにずっとこっちを見てくるので、一旦リーナをリンから離れるように言って、説明が先だろうと伝えてリビングの椅子に座らせた。
「それでは、私は飲み物を淹れてまいります」
リンはリーナから解放されて2人が座ったと同時に、速足で逃げるようにして奥に行った。リーナは椅子に座ってからもリンの姿が見えなくなるまで目で追っていたが、見えなくなるとさっきまで笑顔だったが俺を見る時には真面目な顔で話しかけてきた。
「切り替え速いな」
「なに?」
「いや、何も」
リーナは首をかしげながら何のことを聞かれたか分かってなさそうだった。ホムラの時もそうだったけど可愛いもの?に目がないようだな。無意識で頬が緩んで笑顔になっているんだろうな。
「?・・じゃあ何から聞こうかな」
さっきも思ったが、そんなに話すことはないと思うんだけどな。でもまずは、色々聞かれる前に一応確認しておこうか。ほぼ間違いないとは思っているけど、同じような体験をした誰かと間違えている可能性が・・・・ないだろうけど、確認はしておこう。
「まず先に改めて確認しておきたいんだけど、リーナは神陸VR高等学校の1年藤本 理奈さんで合ってるんだよな」
「そうだよ。1年C組の真城 愁君に連絡をくれるように、私の携帯アドレスを書いたハンカチを渡した藤本 理奈であってるよ」
「その件は本当に悪かったから、勘弁してくれ」
「ログアウトした後に、一度は絶対に連絡してよね」
「あーうん、わかったよ」
そういえば渡されたハンカチをあの時どこに仕舞ったかな、渡された後すぐに純に話しかけられて確かカッターシャツの胸ポケットにしまったような気がするな。
「ちゃんと電話掛けてきてね。・・・まさか無くしたとか言わないよね?」
「だ、大丈夫だってちゃんとあるから、借りてるものをなくすわけないだろ‥(ログアウトしたら速攻で探しておこう)」
疑うまなざしで見られて動揺を悟られないようにしていると、リンが飲み物を持って戻ってきた。
「どうぞ」
リンは2人分の飲み物をテーブルに置くと、飲み物を持ってきたお盆を横に抱えたまま俺の座っている右斜め後ろに移動して立ち止まった。
リーナはリンが来て飲み物を配っている間は笑顔になってお礼を言っていたが、リンが飲み物を運び終わるまでずっと見ていてリンが立ち止まると話しかけていた。
「リンちゃんっていうんだよね。ねえ私の所に来て横に座らない?」
「いえ、私はシュウ様の後ろでいいです」
「シュウ」
リーナがこちらに目線を向けて何とかならないか窺っているのが分かるが、初対面で最初にあんなことをしているからな。
「自業自得だろ」
「・・・・・」
そこまで落ち込むような事か?目に見えて可哀そうになるほど残念がっているから、少しくらいは好感度回復の手伝いくらいはしておくか。
「リン、後で話すぐらいの時間は作ってあげてくれ」
「・・・はい、承知しました」
「後で色々お話しようね」
リーナはリンの苦手な相手なのかな。そういえばどことなく師匠がリンに対する反応に似ているからそのせいでもあるのかもしれないな。
「はぁ、それよりまずは何から話そうか」
「そうね、まだゲーム開始して半日も経っていないのにこの不思議な場所を所有してる理由やシュウの事について聞きたいわね」
「それじゃあ、そこから話すか・・・」
俺はリンが用意してくれた飲み物を口にしながら、ここを手に入れた経緯を話していった。
お読みいただきありがとうございます。




