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【26年7月アニメ放送開始】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第9章

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第15話 雪の天馬

「できました!」


 目の前には、雪でできた真っ白な馬と箱馬車。馬の背中には大きな翼が生えており、まさに天馬の姿だ。馬車も六人は乗れそうな大きさだ。


「これに乗って空から捜索をしましょう。馬車だけ見ればいいので制御が楽ですし、リュークも同乗してくれるなら、最悪、馬車が落下しても避難はできます」


「……御者はどうするんだ」


 リュークが尋ねる。


「馬車の形をしてるけど、実際には私が魔法で浮かせて飛ばすだけだから、御者は不要よ」


「馬、いらないですね……」


 マイカがそう言うと、メロディはニコリと笑った。


「造形美って大事よ、マイカちゃん。箱馬車だけで飛んでたら、ちょっと気持ち悪いでしょ?」


「空飛ぶ馬車を見られる方が大問題ですよ!?」


「そこはちゃんと魔法で隠すから大丈夫」


「う、うーん……それならいいのかなぁ?」


 マイカは天馬と馬車を見つめる。

 天馬はまるで生きているかのように、軽く身じろぎをしていた。


(……メロディ先輩、造形美のこだわりすごっ)


「とにかく、中に入ってみましょう」


 ルシアナの声で、三人は馬車の中へ。


「冷たくないですね」


「それに雪のクッション、ふわふわだわぁ」


「……氷のガラス。硬いな」


 雪でできているはずの馬車だが、全く冷たくなかった。新雪のようにふわりとした座席は柔らかく、窓にはられた氷のガラスも頑丈で、強く叩いても割れる気配はない。


 三人の様子を見て、メロディは誇らしげに胸を張った。


「お嬢様も乗るんですから、当然、機能性には気を配りました」


 当たり前のように告げるメロディに、三人は感心しつつも内心で呆れていた。


(((自重を覚えさせて本当によかった……)))


 何でもありな少女、メロディ。人前で魔法を使ったら、どんなトラブルになるか分かったものではない。三人は改めてその事実を噛み締めるのだった。


 そんな中、ルシアナが少しだけ肩を落とした。


「これはこれで凄いけど、せっかくメロディに空飛ぶ魔法を用意してもらったのになぁ」


 空飛ぶ馬車で移動するなら、せっかくの『天翅』の出番はなくなる。ルシアナはしょんぼりとため息をついた。


「ふふふ。また別の機会にしましょう。春にみんなでピクニックに行くとかどうですか」


「いいですね! その時は私にもその魔法使ってください、メロディ先輩!」


 マイカが目を輝かせ、ルシアナもつられて笑った。


「春が待ち遠しいわね。じゃあ今回はこの馬車を堪能させてもらうわ」


「畏まりました。お任せください」


 こうして馬車の確認を終えた一行は調理場へ戻り、捜索の日程を詰めることにした。


「捜索って、何日もかかるんでしょうか?」


 マイカの問いに、メロディは真剣な面持ちで頷く。


「ガルムさんの弟捜しが目的だから、見て回るのに多少時間がかかると思うわ。もし隣国のロードピア帝国にいるなら、距離もあるし……数日は見ておいたほうがいいわね」


 本日は一月四日。学園は十一日から三学期が始まる。準備に一日は必要だから、今回の捜索は長くても九日まで。実質、六日間だけだ。


「今日を入れて六日……見つかるかしら?」


「一応、そのつもりです」


「何か手があるんですか、メロディ先輩?」


 マイカが首を傾げると、メロディは魔法の収納庫から黒い小さな玉を取り出した。


「これを使うつもりよ」


「これって……黒いガラス玉?」


 ビー玉ほどの黒い結晶。

 ルシアナがじっと見つめていると、メロディが説明した。


「これは夏の舞踏会で襲ってきた魔物から集めた、黒い魔力の結晶です」


 セシリアとして参加した夏の舞踏会の帰り、ハイダーウルフに襲われた時のものだ。メロディは戦闘後、魔物に残っていた黒い魔力を回収していたのだ。


「……これをどうするんだ」


 リュークが尋ねると、メロディは結晶を握りしめた。


「こうするの……メイド魔法『人工敏感肌アーティルセンシティボ』」


「その魔法って」


 ルシアナはその魔法を覚えていた。

 春の舞踏会で、悪意ある視線を感知するため、ペンダントにかけてもらった魔法だ。そのおかげで王太子クリストファーを襲撃から守ることができた。


「今回は黒い魔力に反応するように調整しました」


 黒い魔力を宿すガルムの弟達の気配に反応し、光がそちらへ伸びるという仕組みだ。


「じゃあ、その石があればすぐに見つかりそうですね!」


 マイカがぱっと顔を明るくするが、メロディは苦笑した。


「多分ね。でも、どれくらいの距離で反応するかはやってみないと分からないけど」


「闇雲に捜すよりはずっといいじゃない。流石はメロディね!」


 ルシアナの賛辞に、メロディは照れたように微笑んだ。


 そんなふうに六日間の行程を相談していると、セレーナが姿を見せた。

 メロディが事情を説明し、一緒に来てほしいと頼むと了承してくれるが、懸念を口にした。


「それは構いませんが、お屋敷はどうするんですか? 誰もいなくなってしまいますけれど」


「そこは私の分身を置いていけば大丈夫よ。夜には帰るつもりだし」


「「えーっ!?」」


 当たり前のように即答するメロディに、ルシアナとマイカが同時に不満を叫んだ。


「せっかく六日間の旅なんだから、夜も現地に泊まりましょうよ」


「そうですよ、メロディ先輩。夏に使ったあのコテージの出番ですよ!」


「えっと、これのこと?」


 魔法の収納庫からメロディが取り出したのは、ミニチュアの家が閉じ込められた小さな水晶玉だった。メイド魔法『私のドールハウススパツィオテンポ・ドミナーレ』。

 地面に埋めれば本物のコテージが出現する、とても便利な代物だ。


「でも、私の分身、夜は使えないし……」


 魔法で生み出すメロディの分身は、彼女が眠ってしまうと消えてしまう。だから屋敷の管理を考えると、夜には帰った方がいいとメロディは考えていたのだが、ルシアナとマイカは旅行気分を楽しみにしていたようだ。


 どうしたものかとメロディが悩んでいると、セレーナが静かに言った。


「でしたらお姉様。私は屋敷に残ります」


 メロディは困ってしまう。ガルムの弟捜しにセレーナは必要不可欠だからだ。

 初めてガルムに遭遇した時や、セレディアに憑依していたティンダロスも強力な黒い魔力を宿していた。それに対抗するにはセレーナと合体する『銀清結界』が必要だからである。


「でも、セレーナ……」


「私が必要な時はお姉様が呼び出してください。それで十分ですよ」


「うーん……セレーナがそう言うなら」


「「やったー!」」


「ふふふ。お屋敷のことはお任せください」


 こうして、屋敷はセレーナに任せることに決まり、旅に出るメンバーが揃った。

 メロディとルシアナ、マイカとリューク、そして――。


「わひゃん!」


「ぐーぐー……」


 元気なガルムと、どれだけ引っ張られても起きない昼寝中のグレイル。

 四人と二匹の旅となる。


「グレイルも連れて行くの? 寝てるみたいだけど」


「ガルムの遊び相手にちょうどいいので」


 ガルムは眠るグレイルの周りを嬉しそうに跳ね回っている。


(……最近、グレイルはよく眠るなぁ。病気じゃ……なさそうだけど)


 見たところ、よく眠る以外とても健康そうだ。


「お父様とお母様の許可をもらってきたわよ!」


 ルシアナが勢いよく戻ってきた。すっかりやる気満々だ。


「さあ、出発しましょう!」


「お嬢様、落ち着いてください。みんな、準備して一時間後に集合しましょう。お嬢様、着替えを用意しに部屋へ戻りましょう」


「あうぅ、ごめんなさい」


 興奮しすぎて段取りを忘れていたらしく、顔を赤らめるルシアナ。


 そして、準備を終えた一行は、雪で作られた天馬の馬車に乗りこみ、澄み渡る冬の青空へと舞い上がっていくのだった。




◆◆◆




 一月七日、テオラス王国の中央北部に位置する小さな領地、ルトルバーグ伯爵領。


 数日前から王都では青空が広がっているが、この地ではまだ雪の気配が色濃く残っている。空の多くは雲に覆われ、隙間から青空が少し覗けるような状態だ。


 昨夜もしっかり雪が降り積もり、ヒューバート・ルトルバーグは、朝から黙々と雪かきを続けていた。家人が少ないルトルバーグ家では、領地の代官である彼も貴重な労働力だ。


 もっとも、本人はこうした作業を嫌がりもせず、むしろ体を動かせるからと率先して取り組む性分だった。

 ちょうど雲の隙間から晴れ間がのぞき、ヒューバートのもとへ日輪が差し込む。彼は既に全身汗だくで、吐く息は湯気のように白い。


 コートなどとっくの昔に脱ぎ捨てて、夏場と変わらぬ格好で雪を掘り分けていた。


「さて、半分終わったな。もう少し踏ん張るか」


「精が出るわね、叔父様」


「ああ。早めにやらないと、どんどん雪が重くなってしまうからね」


「私も手伝おうか?」


「ははは、大丈夫さ、ルシアナ。俺ひとりでじゅうぶ……ん?」


 軽口を叩きながら手を動かしていたヒューバートは、ふいに違和感を覚えた。本来ここにいるはずのない声が聞こえたのだ。彼はスコップを止め、ゆっくりと振り返った。


「ごきげんよう、叔父様」


「……ルシアナ? どうしてここに……って、なるほど。メロディだな」


 目を瞬かせたあと、すぐに合点がいったらしい。防寒着に身を包んだルシアナは、悪戯が成功した子どものように笑った。


「うん、正解♪」


「まったく。俺以外の者に見られたらどうするつもりだ。気をつけてくれよ」


「分かってるって。ただ、ちょっと用事があって来ただけ。せっかくなら挨拶ぐらいしようと思って」


「用事? いったい何の――」


 ヒューバートの問いを、別の声が遮った。


「お嬢様、やはりルトルバーグ領は問題なさそうです」


「そう。よかったわ」


 いつの間にか隣に立っていたメロディに、ヒューバートは目を丸くする。


「メロディ?」


「お久しぶりでございます、ヒューバート様。新年おめでとうございます」


「あ、ああ……おめでとう。そりゃあ君も一緒に来るよな」


 驚きつつも、すぐに納得したようにうなずくヒューバート。


「ヒューバートさまー! どこっすかー!」


 そこへシュウの声が近づいてきた。

 メロディとルシアナは顔を見合わせ、慌てて動き出す。


「シュウが来ちゃうわ!」


「すみません、ヒューバート様。私たちはこれで失礼します!」


 メロディがそう告げた瞬間、ヒューバートの目の前に真っ白な天馬が牽く馬車がふっと姿を現した。二人は急いで乗り込み、天馬が嘶いて翼を広げる。次の瞬間、馬車は宙に浮かび上がり、そのまま空へ駆け上がると、すっと姿を消した。


 あっけに取られて空を見上げていると、背後からシュウが駆け寄ってくる。


「あっ、こっちにいたっすね、ヒューバート様。……何見てるんすか?」


「……いや、馬が……いや、鳥か?」


「馬? 鳥? ……見あたらないっすけど?」


 シュウは首を傾げて辺りを見回すが、当然ながら何もない。

 ヒューバートは深くため息をついた。


(まったく、元気な娘達だ。王都の兄上はもっと手を焼いているんだろうな……)


 そう思うと、なんだかおかしくて、ヒューバートはひとり苦笑するのだった。


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