第5話 メロディの招待
「メロディ、冬の舞踏会で俺のパートナーになってもらえないだろうか」
時間は戻って十二月二十五日。冬の舞踏会が開催されるのは十二月三十一日。残り六日。
あまりにも遅い舞踏会への招待であった。
「えっと、それは……」
「おっそいのよ!」
戸惑うメロディの隣でルシアナが怒鳴るのも無理もないだろう。一般的に、舞踏会のドレスを準備するには時間がかかるのだ。
六日でポンと用意することなど普通はできない。普通は。
「落ち着いてください、お嬢様」
「でも、こいつ非常識なんだもの!」
「……面目ない」
まさか決意してから足が動くまでに五日もかかるとは、本人さえそこまでとは予想していなかったヘタレっぷりである。
「レクトさん、冬の舞踏会のパートナーとのことですが、またセシリアとして参加してほしいということでしょうか」
「それは無理じゃないの? セシリアは私の実家で療養中ってことになってるんだから」
「ああ……だから、その、今回はメロディとして、君に……パートナーになってほしいんだ」
「私としてですか?」
これにはメロディも少し驚いてしまう。
「またレギンバース伯爵様がパートナーを連れてくるよう仰ったんですか? セシリアを連れていけないから私に?」
「違う。そうじゃない。俺は君に……メロディに舞踏会へ来てほしいんだ」
「私に?」
ますます分からない。メロディは不思議そうに首を傾げた。
(うーん、特に舞踏会に参加する理由はないと思うけど……)
春の舞踏会はレクトの騙し討ちのようなかたちでなし崩し的に仕方なく、夏の舞踏会はマクスウェルのパートナーを務めるルシアナをサポートするためにレクトの申し出を受けることにしたが、今のところ冬の舞踏会にメロディが参加する理由は特になかった。
まあ、どちらもレクトの干渉があった結果であり、メロディから積極的に舞踏会に参加したいと思ったことは一度もないのだが。
メロディはレクトを見つめた。
話を切り出すのに少し時間を要したが、彼はまっすぐにメロディを見つめている。春の舞踏会では真実を告げるのにそっと目を逸らしていたことを考えれば、ある意味成長したと言えるのだろうか。
「……お願いできないだろうか」
「メロディ、断っちゃいましょう。急に言われたってドレスの準備だって間に合わないんだし」
「その辺りは魔法で作ると割り切ってしまえばできなくはないんですけど……」
「もう! メロディが相手じゃ断る口実を作るのも大変なんだから。優秀すぎるのも考えものね」
「お嬢様、はしたないですよ」
頬をぷっくり膨らませて怒るルシアナにメロディは思わず笑ってしまった。おそらく自分のことを慮って言ってくれているのだろうが、前回のように明確な理由を告げずにパートナーの打診をしてきたレクトがメロディは少し気になっていた。
「レクトさん、舞踏会で私に何かしてほしいことがあるんでしょうか?」
「……ある」
メロディから目を逸らさず、レクトはコクリと頷いた。
そして「だが」と続く。
「それは、ここでお願いすることではないとも思っている」
「どういうことです?」
「成り行きに任せたいというか、俺からそれを君にお願いするのは違う気がするというか」
「はっきりしないわね。メロディ、やっぱりお断りした方がいいわ。何か怪しいもの」
ルシアナはそう言うが、レクトが不埒な企みをするとはメロディは思っていない。そう思えるだけの関係を築いてきたと自負している。最初の舞踏会こそ不意打ちのように参加させられることになったが、人柄を知った今ではもう気にしていなかった。
レクトは少し不安そうにこちらを見つめている。
しかし、目は逸らさない。
(……嘘をつきたくないから、あまり言葉にできないのね)
春の舞踏会の時のように適当に誤魔化すわけでもなく、夏の舞踏会の時のような理由をでっち上げるのでもなく、今日のレクトはメロディに選択権を委ねていた。
だけど、その瞳はこれまでで一番力強く、メロディが承諾することを望んでいるように見える。
(正直、理由はよく分からないけど……)
「分かりました。パートナーの件、お受けします」
「本当か!」
「レクトさんにはいつもお世話になってますから」
「すまない、ありがとう」
メロディが笑顔で答えると、レクトはホッと安堵の息をついた。
「ちょっとメロディ! 本当にいいの? 何だか今日のこいつ、怪しいわよ」
「ふふふ、お嬢様ったら。だってレクトさんですよ? 大丈夫ですよ」
「言葉足らずですまない、ルシアナ嬢。だが、メロディを危険な目に遭わせたりはしないと騎士の誇りにかけて誓おう」
ルシアナはキュッと眉根を寄せてレクトを睨みつけた。しかし、そんな表情はいつまでも続かない。ルシアナは大きくため息をつくと諦めたようにソファーの背もたれに体を預けた。
「何をしたいのか知らないけど、メロディに何かあったら承知しないんだから! 万が一のことがあれば、私のハリセンが火を噴くってこと忘れないでよね!」
「承知した」
両腕を組んでビシッと言い切るルシアナに、レクトは神妙な顔で頷き返した。とりあえず場は収まったようでメロディも安堵の息をつく。
「そうなると、お嬢様と並行して私の準備を進めないといけませんね」
「またポーラをこちらに送ろうか」
「いえ、今回はさっきも言ったように私のドレスは魔法で用意するので大丈夫です。セレーナやマイカちゃんとドレスのデザインを相談するだけなので」
「私も参加するからね!」
「分かった。では、当日の馬車は俺が用意しよう。ルシアナ嬢はどうする?」
「そうね。私も同乗させてもらおうかしら。あなたとメロディを二人きりになんてできないもの」
「承知した。だが、マクスウェル殿も馬車を用意しているんじゃないのか」
「マクスウェル様? なんで?」
ルシアナは不思議そうに首を傾げる。
「今回はマクスウェル殿に誘われていないのか? 春と夏にパートナーをしていたから、冬の舞踏会でもそうなのかと思ったのだが」
「……そんな打診、受けてないわ。いいでしょ、春の舞踏会以外では別にパートナーは必須じゃないんだから」
テオラス王国の舞踏会でパートナーが必須となるのは、春の舞踏会で社交界デビューのお披露目をする少女達くらいで、その他の参加者は必ずしもパートナーを同伴する必要がない。
もちろん夫婦や婚約者同士であれば連れだって舞踏会に向かうのが一般的であるが、ルシアナが一人で舞踏会に参加することは、この国においては別段非常識なことではなかった。
だからルシアナにパートナーがいなくても問題はないのだが、それはそれ、これはこれ。二度あることの三度目がなかったことをルシアナが不満に感じるのも当然といえば当然だった。
「私、別に気にしてませんけど」とでも言いたげに無表情を貫いているが、だからこそ伝わる感情もある。
「そ、そうか。じゃあ、当日は俺の馬車に乗って三人で会場へ向かうとしよう」
「お願いします。ふふふ、お嬢様、また一緒に手を繋いで入場しますか?」
「あら素敵! それじゃあ、せっかくパートナーがいないことだし、私がメロディをエスコートしようかしら」
「いや、メロディのパートナーは俺なんだが」
その時、コンコンと応接室の扉を叩く音がした。入室を促すと、封筒を載せたトレイを持ってセレーナが入ってきた。
「ご歓談中失礼します」
「どうしたの、セレーナ?」
ルシアナが問えば、セレーナはトレイをルシアナの前に差し出した。
「お客様を前に失礼かと存じますが、お嬢様へお手紙が届いております」
「あら、後で教えてくれればいいのに」
「ですが、封筒にこのような記載がありまして」
セレーナが差し出したトレイをルシアナとメロディは覗き込んだ。封筒にはでかでかと『超緊急』という文字が大きく記されていた。
「ええ? 何かしら、これ。私相手に緊急の手紙なんて、まったく身に覚えがないんだけど」
「とにかく中身を確認した方がよいのでは? あの、レクトさん、申し訳ないのですが」
「構わない。いや、俺の用事はもう済んだからそろそろお暇しよう」
「じゃあ、私がお見送りを――」
そう言ってメロディが立ち上がろうとした時だった。
「ええええええええええええええええええええええええっ!?」
既に手紙を開いていたルシアナが絶叫を上げた。
「お嬢様!? どうされたんですか?」
「メ、メロディ、これ……」
あわあわと困惑した様子のルシアナがメロディへ手紙を差し出した。それを受け取ったメロディは手紙の内容に目を見張る。
「これは……マックスさんから、冬の舞踏会のパートナーの打診?」
「え、今から? ……ちょっと遅いんじゃないか」
「あなたに言われたくないわよ! メロディ、どうしよう!?」
「えーっと……お受けするなら急いで返事をした方がよいのでは?」
「そうよね! ……って、受けるの!? 受けた方がいい?」
「それはもう、お嬢様のお気持ち次第としか」
「私の気持ちって、別にマクスウェル様とは何もないんだから! 私はメロディ一筋よ!」
「お嬢様、お気を確かに! 一旦落ち着きましょう!」
「なんだルシアナ嬢、これで三回目だというのにまだリクレントス殿からの打診に照れているのか?」
「いやあああああああああああああああああっ!」
「うわあああっ!?」
「きゃあっ! レクトさん!? セレーナ、お嬢様からハリセンを取り上げて!」
「しょ、承知しまし――お嬢様、速い!」
それからしばらく応接室はドタバタし、ようやく正気を取り戻したルシアナは最終的にマクスウェルへ了承の手紙を送るのであった。
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