表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【26年7月アニメ放送開始】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第9章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

353/369

第6話 ため息のミーティング

 ルトルバーグ邸の応接室でルシアナがわーきゃーと騒ぎ回っていた頃、同日の王城にはクリストファーとアンネマリーの姿があった。

 いつものようにクリストファーの私室に集まった二人は改めて今後について相談していたのだ。


「大分ゲームとは異なる展開が続いているわ。本当に私の知識、本格的に役に立たないかも」


 それは先日、王立学園に突如現れた魔物タイラントマーダーベアのことを言っているのだろう。あのような魔物が王立学園の敷地に侵入してくるイベントは彼女の記憶にはなかった。当然、その後に現れる小さな聖女の存在も。


 クリストファーのベッドに横たわりながらアンネマリーは項垂れる。


「それ前にも言ってたじゃん。そもそも当てにならないのは最初からだろ。あと、当たり前のように俺のベッドを占領するなよ」


「いいでしょ、ちょっとくらい。ソファーに腰掛ける気分じゃないのよ」


 異性のベッドを当然のように占拠するアンネマリー。いかに彼女がクリストファーを意識していないかが分かる光景だ。そして、鼻を鳴らすだけに留めるクリストファーも大差なかった。


 ベッドの近くのソファーに腰掛けていたクリストファーは、膝の上に乗せた美しい装丁が施された木箱の蓋を開けた。中には折れた剣身の半分、切っ先の部分が入っている。


 春の舞踏会でビューク・キッシェルが手にしていた、魔王ヴァナルガンドを封印していた銀の剣の一部である。舞踏会の直後にビュークが行方をくらました際、持ち手側の剣は持ち去ったが、切っ先の部分は放置していったのだ。


「俺にとってはこれが一番の誤算だったのかもしれねえな」


 魔王を封印していた剣を、クリストファーはビュークとの戦闘中に破壊してしまった。そのせいで魔王の行動をゲームの通りに読めなくなった可能性が高い。大筋ではシナリオに近い行動を取っているようで、細部にはかなり違いが生じている。


 今のところ大きな被害は出ていないが、この行為が正しかったのか悪手だったのか、現時点ではまだ判断がつかない。願わくは、良い一手であったことを祈るばかりである。


「うーん、この剣を使ってビュークを見つけたりできねえかな?」


「どうやって?」


「何かこう、二つに分かれた剣と剣が惹かれ合うみたいな感じで」


「まあ、アニメやゲームならありそうな展開ではあるんだけど……魔力の流れを見通せ『凝視解析アナライズヴィジョン』」


 瞳に魔力を集めて、アンネマリーは銀の剣をじっくりと眺めた。

 そして首を横に振る。


「前に見た時と同じね。少なくとも私には聖女の銀の魔力も魔王の黒い魔力も感知できない。ただの銀の剣の破片だわ。これで聖女や魔王の魔力を辿るとかは無理だと思う」


「まあ、そうだよな。はぁ、世の中ままならねぇ」


 二人は揃ってため息をついた。いや本当に、最近は二人でミーティングをするとため息ばかりで嫌になってしまう。それほどまでに、ゲーム対策に手応えを得られない日々が続いていた。


「でも、魔王の行方は本当に気になるところよ」


「やっぱり今回の件が気になるのか?」


「ええ。王立学園でゲームにはなかった魔物の侵入事件が発生した。もしかすると、私達の想定よりも、つまり、ゲームのシナリオよりも早く魔王が力を回復しているのかもしれないわ」


 アンネマリーの指摘にクリストファーは木箱を支える手に力が入る。


「あの魔物の登場はあまりにも唐突だったわ。木の陰から姿を見せたけど、あんな巨体が誰の目にも留まらずに王立学園の敷地内まで侵入を許すなんてありえないことよ」


「つまり、転移魔法か何かで直接送り込まれたってことか? それも、俺達を狙って?」


「十分にありえる可能性ね。春の舞踏会に嫉妬の魔女事件、夏の舞踏会の時もマクスウェル様が魔物を撃退しているし、魔王からすれば私達は邪魔な存在として認識されていてもおかしくないわ」


「てことは、俺達は魔王に監視されているってことになるのか」


「……私達の近くにビューク・キッシェルがいる?」


 ゲームシナリオを参考に、学園舞踏祭の時に一度ビュークを捜してみたが、見つけたと思った人物は別人で空振りに終わった。


 しかし、アンネマリーが見つけられなかっただけで、実際にはどこかに潜んでいたのかもしれない。眉根を寄せながら、アンネマリーは無意識に両腕で自分の体を抱きしめていた。


(私達を監視しているかもしれないビューク・キッシェル。そして、魔物との戦闘について何も語ろうとしないシエスティーナ様。まさか……)


 嫌な推測が頭を過る。ゲームの設定通りならば、第五攻略対象者シュレーディンに代わって学園に留学してきたシエスティーナの目的は、王立学園への内部からの侵略である。


 次代の王国の担い手たる王太子クリストファー、その親友にして未来の宰相と目されるマクスウェル、そして対外的にはクリストファーの婚約者候補筆頭とされる、つまりは将来の王妃に最も近い令嬢アンネマリー。


 この三人が魔物に襲われ命を落としていれば、王国に生まれる混乱は相当なものになると容易に想像できた。


(もしも、シエスティーナ様がビュークと共謀して魔物を引き寄せる手助けをしたのだとすれば)


 魔物についてアンネマリー達に何も言ってこないのは、彼女にも探られたくない意図があるからではないか。そんな想像が浮かんで、アンネマリーは勢いよく首を横に振った。


(さすがに妄想が飛躍しすぎだわ。あの時、シエスティーナ様だって命を落とすところだったのよ。『不思議な雑貨屋』の『フラワーバレッタ』がなかったらどうなっていたことか)


 だが同時に、だからこそ無茶をすることができたと言えなくもない。フラワーバレッタとは、乙女ゲーム『銀の聖女と五つの誓い』において装備者を一度だけ致命傷から守ってくれる救済アイテムである。


 それを利用して『自分も危険な目に遭ったのだから被害者である』とアンネマリー達に思い込ませて、こちらの懐に入ろうと画策している可能性も……と、そう考えて一つの矛盾に気が付く。


(シエスティーナ様、全然こちらへ近づこうとしていなかったわ)


 事件から冬季休暇に入るまでの短い数日だが、シエスティーナとは当たり障りのない会話しかしていない。期末試験の順位についてとか、追試験を受けるセレディアの分からないところを一緒に教えてあげるとか、その程度だ。


(もしもそのつもりなら、彼女から私達へ何かしらのアプローチがあるはずよね……やっぱり少し過剰に考えすぎてたみたい。一人で考えるとダメね、つい悲観的になっちゃう)


 アンネマリーは首を横に振りながらため息をついた。


「さっきから何百面相してんだ、お前」


 クリストファーはそんな彼女を訝しげに見つめていた。何も考えていなさそうに首を傾げる顔にアンネマリーは理不尽な怒りを覚える。


「べっつにぃ、あんたはお気楽でいいわよね」


「むっ、俺だって色々考えてはいるんだぜ」


「ほぉ、例えば?」


「へ? えーとだな、そのぉ……あっ! ほらっ、冬休み中の魔王の動きはどうなるかなとか!」


 まさに今「閃いた!」みたいな表情を浮かべて得意げに語るクリストファー。それでよく色々考えていたと言えるものだとアンネマリーは呆れるが、同時に気分が和らいだようにも感じた。


(こいつはこれくらい緩い方がいいのかもね)


 クリストファーはアンネマリーほどこのゲームに詳しくはないせいか、アンネマリーほど深刻な危機感を抱いていないように見える。元々の性格もあるのだろうが、二人して一緒にどんよりするよりはあっけらかんとしたムードメーカーがいる方が、こういう時はいいのかもしれない。


(まあ、やるときはやる奴だし、クリストファーはこれくらいでいいのかもね)


 アンネマリーはベッドの上で肘をつきながら小さく息をついた。何となく喉のつまりが少しだけ解消された気がしたが、きっと気のせいだろう。


「一応、ゲーム通りなら年末年始に魔王が暗躍するイベントは発生しないはずよ」


「そうなのか?」


「ええ、だって年末年始だし。みんな休みたいもの」


「メタい発言だなぁ。まあ、気持ちは分かるけど」


「年末は冬の舞踏会でカウントダウンイベントね。ヒロインちゃんがいれば一番好感度が高いキャラクターと年越しイベントがあるんだけど」


「ヒロインちゃんは不在だし、そもそもちっこいからなぁ。いたとしても事案じゃん」


 二人は小聖女に変身したマイカが本物のヒロインであると誤認していた。パッと見十歳くらいの少女と高校生くらいの少年達との恋愛イベント……確かに事案である。


「そうなのよねぇ。あんた達でさえアレなのに、レクト様なんて二十一歳でしょう。お巡りさんを呼ばなきゃいけない案件になっちゃうもの。イベントスチルは諦めざるを得ないわ」


 アンネマリーは血涙を流しそうな苦悶の表情を浮かべた。


「第三攻略対象者レクティアス・フロードだっけ。学園にいないからほとんど面識がないんだよな。そういえばあいつだけ二十歳を超えてるんだったか。いやホント、この世界じゃなきゃマジ危ない奴じゃん。高校生に大学生が手を出すようなもんだろ。いや、年齢的に中学生か?」


「ちょっと、生々しい話はやめてよね。ここは中世風の貴族社会だから多少の年齢差はロマンスってことで押し通すのよ。そもそも『銀の聖女と五つの誓い』は全年齢対象ゲームだからいいの」


「分かった分かった、この話題はもうおしまい!」


 これ以上は色々危ない気がしたクリストファーは話題を変えることにした。


「それじゃあ、年末年始が終わったらシナリオはどうなるんだ?」


 真剣に尋ねるクリストファーに、アンネマリーは居住まいを正すとベッドから立ち上がった。


「おそらく三月頃、魔王との大きな戦いが待っているわ。一年生の集大成って感じね」


「魔王と直接戦うのか」


「正確にはビュークとだけど、そうなるわ。そしてそれをきっかけに、二年生の春からヴァナルガンド大森林への出入りが解禁されるようになるの」


「大森林を探索できるようになるわけだ。本格的にRPGっぽくなってきたな」


「まあ、それが売りのゲームでもあったしね」


「どんな理由で大森林が開放されるんだ。ゲームでは俺達も入れたんだよな」


「うーん、ゲームでは撃退したビュークが大森林へ逃れたことで、脅威に気付いた国王陛下が大森林の捜索を決めるのよ。それで、実際にビュークと戦ったヒロインちゃん一行も名乗りを上げて、探索の許可を得られる流れなんだけど」


「……ヒロインちゃん、いねえなぁ」


「いないのよねぇ」


 魔王を退けるには聖女であるヒロインの力が必要不可欠だ。しかし、彼女の所在は不明で、この前の戦闘で助けてくれはしたもののアンネマリー達に協力的とはいえない。


 果たしてゲームの設定通りに大森林は開放されるだろうか……?


「でも、大森林に入れないと困るのよ。ビューク・キッシェルを魔王から解放するには、その銀の剣を封じていた台座の力が必要だから」


 ベッドからクリストファーが腰掛けるソファーの背後へと移動すると、アンネマリーは彼の膝の上に置かれた木箱を、正確にはその中にある銀剣の破片を指差した。


「魔王からビュークを救うにはヒロインちゃんだけの力じゃ足りなくて、銀剣を封じていた台座に残っている先代聖女の力を借りる必要があるの。魔王を倒すにはまずビュークから引き離すことは大前提。このイベントは外せないわ」


「はぁ、なんかいっつも俺らの結論はヒロインちゃんの不在をどうするかに行き着くんだな」


「それはもう仕方ないとしか言えないわね。だってゲームなんて主人公がいてようやく始まるものなんだから。ヒロインちゃん不在なのにシナリオだけは始まるから困っちゃうのよ」


「まったくだ。イベントを強制するならヒロインちゃんとの出会いイベントもちゃんと強制してくれなきゃこまるぜ、世界の意思」


 あるのかないのか不明だが、二人はこの世界の運命に愚痴をこぼさずにはいられなかった。転生などという奇跡が起きているのだから、神様だっていてもおかしくはない。であるならば、世界の強制力とて存在していても不思議ではなかった。


 だったらちゃんと仕事をしろ! と言いたくなる二人の気持ちも共感できるというものだろう。


「とにかく! 世界の強制力が本当に存在するなら、直近のイベントである冬の舞踏会にヒロインちゃんが現れる可能性もゼロではないわ。アンテナを張っておかないと」


「了解。まあ、今は王都中雪だらけで気軽にヒロインちゃんを捜して回ることも難しいからな。冬の舞踏会に参加してくれたら万々歳なんだが、どうなるだろうなぁ?」


「いなきゃいないでシエスティーナ様の周囲の監視とか、銀髪でなくなってしまったセレディア様の様子を窺うとか、やることはたくさんあるわよ」


「美少女を見てればいいなら役得とでも思っておけばいいのかね。新しい美少女でも現れてくれたら嬉しいんだけど」


「それは確かに心躍る展開ね……でも、この世界は既にゲームシナリオ通りに動いていない可能性がある以上、冬の舞踏会に魔王が現れることだってありえる。気を引き締めていかないとね」


「おう」


 ソファーの背もたれに両手をついてこちらを見下ろすアンネマリーを見上げながら、クリストファーは真面目な顔で一言返した。


 そして、またしても二人揃ってため息が零れる。


「シリアスな雰囲気って続けてると疲れちゃうわね」


「マジそれなぁ。今日はクリスマスだってのに、こんな話ばっかりで嫌になるぜ」


 本日は十二月二十五日。この世界では特にクリスマス的なイベントはないが、元日本人の転生者としてはなんだかとても損した気分である。


「クリスマスといえば恋人達の記念日だってのに、俺が一緒に過ごしている相手と言えばアンネマリーだもんな。ホント、色気のないシチュエーションに俺、マジガッカリ」


「……はぁ?」


 ソファーに腰掛けながらクリストファーは肩を竦め、揶揄うように首を横に振った。


 まるで海外のホームドラマの登場人物のようにコミカルな仕草だが、あまりにもデリカシーに欠ける言動であったことにクリストファーは気付いていない。


 彼の背後でアンネマリーの眼光がギラリと鋭く輝いたことにクリストファーが気付くまで……あと五秒。


 そして、アンネマリーは聖女のごとくニコリと微笑んだ。




 いつも通り、部屋には『静寂サイレンス』の魔法が施されていたので、二人以外に室内で何が起きたのかを知る者は、現れなかったという……。


最新小説9巻 4月1日発売予定です。

オーディオブック最新5巻 4月27日配信予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!』
最新小説9巻 2026年04月01日発売!

TOブックスオンラインストア小説9巻購入ページ

GTU1MxYaQAA66b1?format=jpg&name=large
― 新着の感想 ―
この二人だけ肝心な情報に辿り着かないwそしてもう二人以外とは結婚出来る可能性も存在して無いとしかw
ロリコン死スベシ慈悲ハナイ!! レクトはダメじゃん!お巡りさんこいつです…こいつがお巡りさんだった(笑
ルシアナのクラスメイトはメロディに文化祭関連で会ってますが 今回はどういう反応になるのか楽しみです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ